見出し画像

vol.6 小手先の仕組み作りよりも信頼関係を築く

組織を上手く運営したい、社員を成長させたいと思い、さまざまな施策を講じるのは経営者、管理職として当然のことかもしれません。

なぜ社員のモチベーションが上がらないのか、なぜ成果が出ないのか、なぜ退職する社員が後を絶たないのか、経営をしていればこんな悩みは常に抱えているだろうと思います。

そのために制度や仕組みを作ったりすることに余念がないのは大変素晴らしいことではありますが、何をしても期待通りの成果が出ることもあまりないというのも現実です。

組織を良くするために一生懸命やってるはずなのにどうしてそうなってしまうのか。

それは根本の土台がしっかりしていないからです。

では土台というのは何でしょうか。

信頼関係です。

なんだそんな当たり前のことと思うかもしれませんが、信頼関係を作るのは制度や仕組みを作ることよりも遥かに重要で難しいことです。

人間は健康である時、自分の体の働きを特に意識していません。なぜだかわからないけれどいたって健康というのが望ましい状態です。

もちろん、健康であるために食事や運動、睡眠などに気を付けているというのもあるかもしれませんが、その効果が本当にあるのかないのかは当の本人にしても実はよくわからないことです。

組織のマネジメントにおいてもこれと同じで、あれこれ策を講じずとも、自然と上手くいっているのが理想ということです。

一国の政はなお一身の治の如し、治まる所以を知らず。
(政治というものは、人と人との信頼関係によって成り立つものであり、為政者に徳があれば人民の信頼も得られ、国は自然の内に治まるもの)

(史記 秦本紀)

ある時、異民族の戎王(じゅうおう)が、由余(ゆうよ)という者を秦に派遣した。戎王は、秦の穆公(ぼくこう)が名君であること耳にして、視察の為に由余を派遣してきた。

秦の穆公は、蛮族からの使者ということで由余に向って悠然と質した。「我らの中原の国には、詩書・礼楽・法度などによって国を治めているが、それでも騒ぎは絶えないものだ。貴国などでは何も基準になるようなものが無いようだが、さぞかし国を治めるのは難しかろう」と。

それに対して由余は、「そもそも中原の諸国が乱れるというのは、そのようなものがあるからなのです。古代の聖王と謂われる黄帝以来、帝王はそれぞれ率先して法度に従われたので、国は治まって来たのです。」

「だが後世になると、為政者は日に日に驕慢となり、法度をかざして人民を責めつけるようになりました。痛めつけられた人民は、仁義で以って為政者に楯突こうとするようになりました。かくして為政者と人民との争いは、王位の簒奪、一族の滅亡へと発展して来たのです。これは、すべて法度の類を頼みとした結果です。」(史記 秦本紀より引用)

組織を統括する者に徳があり、メンバーとの間に信頼関係があるなら、制度やルール、仕組みに頼らなくても自然と上手くいくという話なのですが、私は非常に納得させられました。

組織運営には秩序維持のためにルールが必要で、メンバーを育成するためには教育や研修、会議の在り方、評価制度なども大切ですし、目標達成のための仕組みなども同様に重要なことかもしれません。

制度やルール、仕組みが全くないのは組織を運営する上で混乱を招いてしまうので非現実的ですが、それらを支えているのは信頼関係であることを忘れてしまうとどんなに立派な制度や仕組みも機能しなくなります。

例えば、昨今、心理的安全性という言葉が盛んに取り上げられています。誰からも批判や否定されずに安心して自らの意見を言えるということですが、真面目に考えたことを他人に話せるというのは相手との間に信頼関係があるからに他なりません。

会議をしています、1on1をしています、情報共有も密にしています、けれどもそうした場で的はずれであっても自分なりに考えたことを安心して話せないのではやってる意味が全くなく、手間と時間の浪費です。

また、上司はルールを守らないのに下位の従業員には厳しく遵守させるようなことがあれば説得力も納得感もありません。

信頼を築くには多くの時間が必要ですが、信頼を失うのはあっという間です。上司と部下の関係のみならず、取引先、お客様との間でも同じです。

では信頼の意味するところは何でしょうか。

・相手の価値観を尊重する
・本音を話せる
・誠実である
・思いやりがある
・約束を守る
・情報を適切に共有してくれる
・秘密を守る

きっとこんな関係性のことを信頼と呼ぶと思います。

これらは制度やルールではなく、人間性や人格なのかもしれません。

史記でのエピソードでは制度やルールだけで管理しようとした為政者が、人民によって結果的に滅亡させられました。

企業で言えば、社員が大量離職して仕事が回らなくなったり、取引先からの信頼を失くし、倒産するといったところでしょうか。

上手くいっている他社の事例をそのまま導入しても上手くいかないという話はたくさんありますが、それはそもそも自社のメンバーとしっかり向き合い、信頼関係を築くことを怠っているからではないのかとよく思います。

信頼関係は毎日の小さな出来事の積み重ねです。

時間や約束を守らない、上から目線で全否定する、思いやりのある言葉をかけない、相手の立場に立った言動が取れない、こんな日常を変えない限り、どんな立派な仕組みを作ろうとも機能はしませんし、会社が良くなるはずもないのです。


最後までお読みいただきありがとうございます。

この記事が参加している募集

仕事について話そう