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「焼けた大杉」・・・ 傷つき、引き裂かれ、朽ち果てたように見えても、雄々しき命の欠片は生き続けている。


旅先で見つけた物語の数々を紹介していきます。

『焼けた大杉』


丑三つの静寂を破るように突然、半鐘が鳴り響いた。

樹齢1000年と言われる大杵社の大杉が、炎に包まれていた。
もうもうと上る煙の中に中ほどから大きく折れた杉の木のシルエットが
時折浮かんだ。
村人の見守る中、御神木は焼け落ちていった。


数ヶ月後、一人の青年が、
村に通じるの峠道を急いでいた。

青年は、「大杉燃ゆ」の知らせに何の感慨も抱かなかった。
しかし、旅先で職を失い、行く当ても無い身にとっては、
またとない帰郷の理由になった。

村に残る父や母を訪ねる前に
燃えた御神木を見ておこうと思った青年は
大杵社に立ち寄ることにした。

息を切らし、境内の階段を上り詰めた時、
青年は我が目を疑った。

周囲10メートルほどの大杉は、
大火に見舞われて、その幹の約半分が焼け焦げていたが
その根元から新たな青葉が芽を出し、
以前にもまして青々としていたのだ。

「人々が見放しても、魂は決して挫けず、
命は再び輝き光る」


青年は、敗北の言い訳まで考えて、故郷に帰ってきた己を恥じた。

そして、父にも母にも村の誰にも会わずに、去っていった。

やがて、青年は都会でがむしゃらに働き、成功を遂げてから
ようやく村に帰ってきたという。

敗北を恐れることはない。
敗北の中にこそ、希望がある。

                      おわり


大杵社の大杉は、大分県の温泉地、由布院を見下ろす小高い丘の上に立っています。
大杉は、これまでに二度ほど、大火に見舞われていますが今も変わらず、
その姿を誇っています。

一説によると、火事で杉の害虫などが駆除されて、樹勢が復活した、
とも言われています。





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