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「生活シンクロ」・・・この話は怪談?それとも。 行動を共にする女子高生たちは。



私たち西高水泳部のシンクロチーム6人は、
どこへ行くにも何をするにも、いつも一緒だ

それは、チームワークを最も重要視するシンクロナイズドスイミング、
今はアーティスティックスイミングと呼ばれる、
このスポーツに携わる者たちの常である。

「競技中だけやないで、日常生活もシンクロさせるくらい
プライベートでも一緒に体を動かすんや。
お互いの所作や筋肉の使い方、可動範囲の限界などを理解せなあかんぞ」

コーチは毎日のように、『共に生きろ』と口にし、女子高生だった私たちは、それを真面目に実践した。今から思うと、ちょっと異常なくらいだった。

放課後のクラブ活動や授業で教室を移動する時、果てはトイレに行く時まで
タイミングを合わせ、6人の間には奇妙な緊張感さえ漂い、
クラスメイトも声を掛けずらい雰囲気になっていた。

ついには、授業中に先生に差された時に6人が同時に立ち上がって答え、
試験で6人とも同じ解答を出すようになったところで問題になった。

「カンニングや不正ではありません。一緒に勉強して、一緒に答えを確認し合って、授業にもお互いに同じようについて行ったから、試験もこうなっただけです」

そんな女子高生の言い訳は通用しなかった。この同解答事件は、先生の間でも問題になり、コーチも行き過ぎた練習だと追及され、生活でのシンクロ活動は禁止されそうになった。

しかし、私たちは怯まなかった。

「お願いします。大会までの間だけ、もう少しだけ続けさせてください」

先生たちの前で、チームのシンクロ度がかつてないほど高まっている事や
もうこの機会を逃すと次が無い事を説明した。
結局、これと言って証拠があるわけではなく、次の試験の時はしっかりと監視が付くことでお咎めなしになり、生活シンクロも、授業などに支障が出ない範囲で、という条件付きで許して貰った。

とりあえず、私たちの生活シンクロは大人たちを刺激しないように、少し穏やかに過ごした。
授業中は目で合図を送り合う程度にし、
休憩時間や放課後になったら、共に過ごすようにした。
その結果、合わせる時間の少なさが微妙な違和感を生んでいく。
私たちは焦りを感じ、練習も上手くいかなくなってしまった。


そんなある日、プールの清掃が入るという事で練習が休みになり、
放課後、ぽっかりと時間が空いてしまった。

コーチからは

「お前たちは疲れすぎてるみたいや。ちょうどええ機会やから、体をしっかり休めろや」

と言われたが、私たち6人は放課後教室に集まっていた。
ただ練習もせず、ぼーっと休んでしまえるほどの余裕は、
6人には無かったのである。

「ねえ。せっかくやから、みんなで心を一つにする事せえへん?」

私はポケットから十円玉を取り出した。

「何すんの?」

「こっくりさんや。皆で一緒にやったら、気持ちが一つになるねん」

「え~怖いやん」

「いや、オモロイわ。オモロイけど、ウチやった事ないで」

「大丈夫やて、やり方は簡単やから」

こっくり賛成派の美穂、ひまり、芽以、そして私が
気乗りがしないと言う澪果とリンを説得し、
チーム初のシンクロこっくりさんをやる事になった。

難しいことはしない、
A3サイズの画用紙に、五十音表、0から9までの数字、
Yesと Noを書き、その上に十円玉を置いて全員が人差し指を乗せ、
聞きたいことを尋ねると十円玉が動いて答えを示す、いうオーソドックスな方法だ。


五十音表の上に十円玉を置いて、私は言った。

「ほな。皆ええか? 心を一つに合わせて指乗せるんやで」

6人は手をつなぎ、呼吸を合わせた。
初めてのこっくりさん。全員が緊張しているのが分かった。

以前は互いに主張が激しく、息を合わせるのが難しかったが、
ここ数か月の訓練の賜物で、自然と呼吸のタイミングを合わせる
癖がついている。

『これなら、大会も大丈夫かもしれない。
練習だけでシンクロさせていると、どうしてもストレスが溜まる。
だから、時々遊びや楽しいことを一緒にするのが良い。
今日放課後に、みんなで残ったのは正解だったかもしれない』

私は大会への手ごたえを感じていた。

その気持ちが通じたのか、みんなの顔を少し紅潮して
心がときめいているように思える。

「さあ。いくで。3,2,1」

私たちは一斉に手を伸ばして、十円玉に指を乗せようとした。
しかし、十円玉は6本の指が乗るには小さすぎた

真っ直ぐに伸びるように指先まで鍛えぬいた6人の人差し指は、
ガチガチガチッとぶつかり合い、ある指は別の指と絡み合い、
ある指は弾けるように画用紙の上を滑り、
全ての指が十円玉から外れてしまった。

「いった~い」

「何やってんのよ~」

「おっかし~」

「なんで今まで誰も気づかへんの~。
こんな小さなコインに指6本も乗る訳ないやん」

「アホやな~ウチら」

「バハハハハ」

私たちは大笑いした。

もうこっくりさんなど、どうでも良かった。
不思議な事に、気持ちはすっきりとしていた。

そして、これからは今まで以上に心が通じ合っていくような気がした。

その時、私はひとり、五十音表の上の十円玉が気になっていた。

誰も触れていない十円玉が、五十音表の上をさささっと動き、
いくつかの文字の上に止まって、ある言葉を提示したような気がしたのだ。

その文字は、

『ゆ・う・し・よ・う』だった。

優勝かな、それとも友情かな。

どっちでも良い、と私は思った。

だって、こっくりさんに頼らなくても
私たち6人は最強なのだから。


                おわり



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