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「笑い占い」・・・ホラー。落ち込んだ友人を励ますために連れて行った先は。


ネットで一風変わった占いを見つけた私は、友達の可乃子を誘ってみることにしました。

可乃子は最近、長く付き合ってきた彼氏と別れたいと言い出し、ひどく落ち込んでいるのです。相手が誰なのかは知りませんが、彼氏があまり大事にしてくれないと聞いていたので、

「良いじゃん。そんな奴とは別れちゃいなよ」

と言っていたのですが、彼女は踏ん切りがつかないようでした。

仕事にまで支障が出そうになった可乃子を放っておくわけにもいかず、
何か励ます方法はないかと探していた時に見つけたのが、
「笑い占いの館」です。

笑ったときの笑顔と声の調子を見る「笑い占い」という方法を採用しているらしく、この占い方法は、古来から大規模災害が起こった時や、飢饉が続いた時に多く用いられた、というような内容が書いてありました。

特に目を引いたのは、

「笑う事により、誰でも幸福になります」

という一文です。

占いの信ぴょう性はどうあれ、無理やりにでも笑って、気が楽になるのなら連れていく価値はあるかもしれない。
それほど可乃子の落ち込みは酷かったのです。

ノー残業デーの水曜日。
私は可乃子を連れて、とある繁華街にあるビルの地下に来ていました。
細い廊下の終わりに重そうな扉があり、『笑い占いの館』と妙に明るい書体で書かれた看板がひとつ。

扉を開けると・・・中にはテーブルをはさんで椅子が二つ並んでいます。
部屋の装飾は、明るい雰囲気で、スピリチュアルや占いとは、ほど遠い感じがしました。

「ようこそ。笑いの館へ。どうぞ、お座り下さい」

どこからか派手なスーツ姿の男性が現れた。この人が占い師のようです。
促されるまま正面の椅子に可乃子を座らせ、私は後ろの席で見守る事にしました。

「私の占いは、笑い占い。人は笑う時、本当の心を表に出します。
笑う事で幸せになり、幸せになるために笑うのです」

よく意味の分からないことを一通り説明した後、占い師は可乃子に思いっきり声を出して笑うように言いました。しかし、

「ほへ、ひひははは」

可乃子の笑いは、とてもぎこちなかいものでした。
そりゃそうでしょう。グラビアアイドルじゃあるまいし、「笑え」と言われてもすぐに笑えるものではありません。

「ふはっははは」

無理やり続ける可乃子の笑いと、それをじっと見つめる占い師。異様な光景に、ここに連れてきてよかったのかな、と思い始めた頃、占い師は口を開きました。

「はい。ありがとうございます。全てわかりました」

笑いからどうやって読み取ったのか分からないのですが、驚いたことに、占い師は可乃子の過去を次々に言い当てていったのです。
可乃子はグイグイと引き込まれていき、彼氏の口癖である「黙って笑っているのが一番可愛いい」という言葉を言い当てられた時には、声を上げて泣き始めてしまいました。

「大丈夫ですよ。あなたの苦悩は、笑いによって救われます。これから笑顔を絶やさないようにして過ごせば、必ず幸福がやってきます。どんな時でも、その可愛い笑顔を続けてください。そう。もっと笑顔を。」

占いが終わると、泣き笑い状態の可乃子を連れて笑い占いの館を出ました。本当は私も占ってもらうつもりだったのですが、可乃子の姿を見て、少し怖くなった、というのが正直な感想でした。

ところが、次の日から可乃子は変わったのです。それまでの鬱々とした様子はどこへやら。誰にでも明るく声を掛け、はつらつと仕事をこなすようになり、私を驚かせました。

上司から大変な仕事を押し付けられても、

「分かりました。やっておきます。ふはっははは」

先輩OLのお局さまから嫌味を言われても

「はい。反省します。ふはっははは」

と、あの時の無理やりな笑いと共に、元気に働き続けるのです。

「占いは、カウンセリングの一面も持っていると言うけど、あの占いで運気も気持ちも好転したのかな。私も見て貰えば良かったかな」

と、羨ましく思えるほど彼女は明るくなっていきました。

しかし、半年ほど経ったある日、その日は来てしまいました。
なんと、可乃子が取引先からの入金を誤魔化していたことが発覚したのです。

総額は2000万円。

会社は上を下への大騒ぎとなりました。営業職の女性社員による多額の横領なんて会社始まって以来の大事件。事は常務にまで知れ渡り、課長、部長、そして可乃子が会議室に呼ばれました。

ところが、その席で可乃子は反省をするどころか、いつもと変わらぬ笑顔で、こう答えたらしいのです。

「ダメよ。常務さん。暗く考えちゃダメ。お金なんかに囚われないで。
明るく笑って過ごさないとダメダメ。ふはっははは」

常務は口角泡を飛ばし、その場でクビを宣告。責任を取らされる事になった課長と部長も真っ赤になって可乃子をなじったそうです。

「これは刑事事件になるからな。覚悟しておけよ!」

「だったら刑事さんにも笑ってもらわないと。ふはっははは」

「ふざけるな! おい! この女の家まで行って金を取り返してこい!」

部長の命令で可乃子の家まで課長が付いて行き、いくらかでも横領した金が残っていないか確かめる事になったそうです。

あいにく外出していた私は、夕方帰ったところで一連の騒動を聞かされ、
早退願いを出して可乃子のマンションに向かいました。

『可乃子。横領なんてどうしちゃったのよ。笑って楽しそうに仕事してたじゃないの』

信じられない気持ちを抱えながら、私はマンションのインターホンを鳴らしました。

ピンポーン。

何度押しても反応がありません。

「課長もいるはずなのに、変だな」

ドアノブに手をかけると、鍵はかかっていません。

「可乃子。入るわよ」

中は静まり返っていて、少し生臭い匂いがしました。恐る恐る玄関から続く廊下を中へ入っていくと、何度か泊りに来た事がる奥の寝室に明かりが点いています。

寝室の三面鏡が開かれ、鏡に向かって可乃子が座っていました。

「可乃子。大丈夫?」

「ああ。来てくれたんだ。ごめんね、今、上手く笑えないのよ」

こんな時にも笑いについて話す可乃子が奇妙に思えましたが
振り返った彼女はもっと異様でした。

真っ赤口紅を口元から頬にまで大きく引き、
右手には包丁を持っているのです。

「笑わなくっちゃ。笑えば幸せになれるのに上手に笑えなくなっちゃった。課長みたいに、もっと大きく口を開けて笑わないと不幸になっちゃうわ」

可乃子が視線を足元に向けました。

そこには、口元から耳の近くまで大きく切り裂かれた課長が、ぴくぴくと痙攣しながら転がっていたのです。

「きゃああ」

私の悲鳴を聞いた可乃子が立ち上がってきました。

「ダメよ。そんな怖い顔して。もっと笑って。笑うのよ、こんな風に」

可乃子は持った包丁を自分の口の中に突っ込み、
大声で笑いながら包丁を一気に横に引いたのです。

「ふはっははは」

空気が抜けるような笑い声を聞きながら、私は意識を失いました。

後日分かったのですが、遺体の傍に置かれた手書きのメモに、事の顛末が全て書かれていたそうです。それによると、可乃子と課長は付き合っていて、彼女は言われるまま帳簿を誤魔化し、現金を課長に渡していたらしいのです。
怖くなった彼女が会社に報告すると言うたびに、課長は暴力を振るって脅していたのです。

そして、その後で必ずこんな風に言っていたそうです。

「お前は黙って笑っているのが一番可愛いいんだから」

                 おわり




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