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ノートルダムの悲劇にみる寄付の偏在

㈱クロスデジタルCEO・㈱ブロックチェーンハブCMO の増田 剛です。

フランス パリのノートルダム大聖堂で発生した火災は、ショッキングな映像とともにあっという間に世界を駆け巡りました。

鎮火するかしないかの時には、フランス国内のみならず各国政界・財界から多くの金銭的・物理的・精神的な支援が寄せられました。これはユネスコ世界遺産に列せられる大聖堂がパリ市民だけでなく世界中のひとびとを魅了してきた証左でしょう。そして、再建にむけた動きがすぐさま始まったことは不思議なことではありません。

大聖堂の再建にかかる費用は未だ算定されていませんが、おそらく巨額となることは想像に難くありません(算定だけでも時間とお金がかかりそう)。ニュースによれば、特にフランス財界の大物からの超大型寄付が集まっているようです(寧ろこれに寄付しないでいつやるのか、ということですね)。

ニュースになっているところで金額が大きいもの:
LVMH(ヴィトン・ディオール等)と大株主一族 1億ユーロ(≒127億円)
L'Orealと大株主一族 2億ユーロ(≒254億円)
Kering(グッチ・バレンシアガ等)と大株主一族 1億ユーロ(≒127億円)

今回の火災がショッキングであり、ノートルダムがパリ市民の心の支柱の1つであることから、再建の必要性は否定しません。一方で、こちらのFacebook投稿記事による問題提起は一考の価値があると感じました。

スペイン語の記事の為、翻訳は厳密ではありませんが、この記事では、大聖堂再建への寄付の必要性を認めながらも、より危急の諸問題(貧困飢餓、難民、海洋汚染、女性権利、等)をこそ振り返るべき、という問題提起をしていて、合意できる部分はあります。

我々は長きに渡って世界に横たわっている社会問題にはやや感覚が麻痺してきていて、それよりも、センセーショナルで分かりやすいワンショットの事案に目が向きやすい。また、社会問題の解決に向けて寄付を募っているさまざまなNPOや団体は目的や活動の内容が見えにくいものが少なくないことから、これらへの寄付が向かいにくいのかもしれません。

私は日本ファンドレイジング協会にファンドレイザーとして登録していますが、業界をみるにつけ、社会問題を取り扱っているNPOの資金調達環境は決して楽観的ではありません。特に日本はまだまだ寄付文化が根付いていません。

ふるさと納税という、実態として歪んだ制度によって、寄付(税務上、ふるさと納税も寄付の一種)という概念が誤って流布してしまった惧れもあります。見返りを求めるもの、節税効果があるもの、と。

加えて、私が注目する点は、規模の大きなNPOを除けば、
1. NPOの資金調達スキル・手段・ネットワークの欠乏
2. NPOの資金収支・資金使途の分かりにくさ、もっと言えば不透明性

といったイシューを多くのNPOが抱えているように思います。これらが、NPOが寄付者予備軍へリーチするのを難しくし、また寄付者予備軍が実際の寄付行動を起こすことを躊躇させている可能性があります。

ブロックチェーンのような新たな技術革新がこれらのイシューに解をもたらすことができるのかどうか。

例えば、ブロックチェーン上でNPOがトークンを発行し寄付者がそのトークンを購入するかたちで寄付活動に替えられないか。そのトークンはNPOから活動報告を受領したり関連・提携サービスを享受するのに使えたり、または他者に譲渡することができたり。
例えば、貧困地域での資金拠出に際してその内容をブロックチェーンに刻んで改竄が行えないかたちにし、また誰もが確認できるようにしたり。

色々な法規制や税務上の取り扱いなど、越えるべき条件は種々あると思いますが、寄付者の偏在(政財界の富裕層に偏り)・寄付先の偏在(今回のような分かり易いものへの偏り ※あまねく寄付の全体額から考えれば必ずしも偏ってはいないかもしれませんが)に何らか変化をもたらす可能性があるのではないかと感じます。