【凡人が自伝を書いたら 65.春のように暖かく(下)】
ブルブル。。
ブルブルブル。。おー、寒い。
12月、すっかり冬が訪れていた。
そんな寒さの厳しい季節になっても、店に入れば暖かい。
残暑厳しい9月には肌寒く感じたお店が、12月だというのに暖かい。
「エアコンじゃね?」なんて「野暮」な事は言っちゃいけない。
「気持ちの問題」である。
スタッフがみんな笑顔で働く、そんな「暖かいお店」になっていた。
Yチーフのコミュニケーションも徐々に変化していた。
スタッフに助けを求めたり、お願いをするようになっていた。以前のそれは、冷たく言い放つ「命令」だった。
それが、そんな時に「ありがとう。」と言って、笑顔を見せる。
スタッフにミスあったときも、
「もー、こうやってって言ったやんかー。」
「あ、すいません。」
みたいな感じ。
うん。だいぶ柔らかくなった。
ただ、言うべきことは言う。教えるべきはきちんと教える。伝え方も受け取り易い、良い感じに思えた。
「頼れるお母さん」みたいなポジションになっていた。
イイ感じだなぁ。
そんなふうに思っていた。
ただ、これはあくまで「気持ちの問題」。
今まで目に見える結果としては、「人が辞めなくなった。」
それくらいのものだった。
ただ、12月になって、この店に「目に見える変化」が訪れた。
「120%」
僕の「やる気が120%」ではない。
「売上前年比」である。
これはなかなかのものだった。会社全体として、年々売上が下がっていた。「前年比95%」くらいが会社の平均だった。
その中での「120%」である。
べつに外的な要因は何も変わっていない。近くに集客力のある何かができたわけでもない。実は、少し前から徐々に上がってきていた。それが12月に入ってから伸びの角度が増してきたのである。(なぜこのタイミングかは本当に不明)
上司も「〇〇マジック」だと言って、よく分かっていなかった。完全に僕の店は任されていたため、店にも顔を出していなかったからである。(実は規定違反。2週に1回は店に来ないといけない)
ただ、僕の中では、確固たる確証があった。
1.「リピーターが明らかに増えたこと」
スタッフがお客に褒められることも増えていた。お客と気さくに話をするスタッフも増えていた。
「へー。楽しそうで、良いねえ。」
なんて、鼻くそをほじる勢いで呑気に眺めていたが、実は「あれ」だった。(才覚の無さ)
2.「スタッフが増えたこと」
スタッフが増え、出勤にも前向きになったことで、忙しい日に十分な人員を置くことができていた。
「おー、やっぱ忙しかった。人置いててよかったなあ。ははっ、みんなありがとね!お疲れさーん。」
なんて、これまた呑気に言っていたが、これだった。(才覚。。)
昨年ももしかしたら、これくらいのお客が店に来ていたのかもしれないが、人が足りず店が回っていなかった。それが今年は入れられた。
そういうことだった。
3.「能力向上」
スタッフの能力が上がったことで、メリハリのあるスケジュールを組めるようになっていた。暇予測の時は、最低限。忙しい予測の時は、全力。そんな感じだ。能力が低いとこれがしづらい。どうしても不安で、人員を多くしすぎるからである。多くの店はこういう形で人件費がかさんでいることが多かった。
現に、土日や祝日の人員を増やしながらも、人件費は昨年とほとんど代わりがなかった。営業が円滑に回ることは「売上」に、メリハリのある人員体制は「利益」につながっていた。
おー、いいねえ。来てるねえ。来てるねえ。
後から考えれば、今までもこんなことは起きていたのだが、不思議なことに、これを意識して、実感したのはこれが初めてのことだった。(才覚問題)
「新たな仲間たち」
この店はとにかく応募が少ないことで有名だった。
理由は明快。なんだか雰囲気悪かったからである。(明快かは疑問)
それが、11月ごろから、応募が増えてきた。
結構変なことである。
普通応募が増えるのは、3月、4月。新生活が決まった学生や、保育園入園を決めた主婦さんなんかが主である。
え、いま?
これだった。
考えてみれば、理由は明快。なんだか「いい感じ」の雰囲気になったからである。(再び明快かどうかは疑問)
理由はどうあれ、応募が増えた。
さらに、アルバイトスタッフの紹介のスタッフも増えた。
これも理由は明快。なんだか「楽しい感じ」の雰囲気だからである。(もういい)
いい雰囲気を作ると、こういうことも起きるのか。
これは僕が全く狙っていない「副産物」のようなものだった。
僕が狙っていたのは、スタッフを辞めさせない。だったからだ。
へー。すご。(真面目にやれ)
アホだと思われるのは、遺憾だが、正直そう思っていた。(まず自己受容しなさい)
「団結の力」
店には、なんだか「一体感」のようなものが生まれていた。
スタッフは仕事に前向きになり、その分成長もしていった。
チーフがいたことで、新人教育を敬遠気味だったスタッフたちも、積極的に仕事を教えるようになった。僕に対する質問もめちゃくちゃ増えた。
スタッフ同士も本当に仲良くなった。
うんうん。せっかく一緒にやってんだから、やっぱこうじゃないとな。
僕は、そんな姿を見て微笑んでいた。(いい奴風)
本当に真面目で、気が良いスタッフたち、そんな人間たちが本当に誇らしかった。
仕事場へ対する表現としては、微妙かもしれないが、なんだか「温泉に入っているような気持ち」でとても居心地が良かった。
もちろんダラけたり、スタッフに甘くなることは無かった。温泉ものぼせてしまっては意味がない。メリハリが肝心である。
それでも、すごく愛着が湧き、居心地が良い店になったことは、本当のことだった。
売上や利益率も、前年をはるかに超えて、110%、120%、130%と伸びていた。エリア10店舗の中でも5番目だったのが、3番目になった。
1位と2位の店は営業時間が長く、立地も良くて、流石に条件が違いすぎた。
ただ、店の運営状況、伸び率みたいなものは、圧倒的に1番。
いつしか、そんなふうになっていた。
ただ、僕は所詮は「必殺仕事人」。(自称)
問題が解決したら、次に行く。
この運命からは逃れられなかったし、僕自身そんなあり方が「自分の能力が使い切れている感じ」がして好きだった。
そう、旅立ちが近づいていた。
ただ今回は、いつもとは少し違った。
僕1人で行くという単純な話ではなく、Yチーフも異動の話に絡んできた。
セットで異動。
それもエリア1位の店に。
そういう話だったから、いつも通り、「了解っす!」では済まなかった。
彼女には家族もいる。5歳の子供もいる。保育園のお迎えなんかの話もあるから、勤務地が遠くなることは、意外に問題が多かった。
そして、そんな話の中、Yチーフ自身が向き合っていた「大きな問題」を知ることとなるのであった。
つづく
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