【凡人が自伝を書いたら 12.中学3年生(前編)】
3年B組金八先生ではない。
3年6組「飯地(いいじ)先生」だ。(知らん)
この頃の僕には部活とプロレス、この2つしか無かった。(プロレス!!)
梅雨明けには、中体連の大会(最後の大会)の予選が始まる。
僕らは必死で、できる限りの練習をした。
そうして、夏がやってきた。
群雄割拠
もはや1年の頃のような、僕らの独占体制はほとんどなくなっていた。3ペア対抗の団体戦では、僕らは3ペアとも強かったので、常勝軍団であることに違いはなかったが、他校のエース級のペアには負けることも増えてきていた。
各校に名の知れたエースペアが乱立するようになっていた。
地区大会では団体優勝、個人も市大会出場圏内の上位3ペアを、僕らレギュラーメンバーで独占した。
市大会。団体戦あっさりと優勝した。
問題は個人戦だった。
まず、レギュラーメンバーの1組が予選落ちした。県選抜のメンバーだった。僕と宇野君のペアは予選を勝ち上がり、ベスト8に駒を進めたが、次で負けてしまった。
もう一組のレギュラーペアも順調に駒を進めていた。そちらが僕の中学のエースペアとなっていた。そして、そのペアはそのまま優勝した。
結局、県大会に駒を進めたのは、このエースペアだけとなった。
心乱されずに
県大会。
僕らは現王者。県内の公式大会では団体として、1度も負けた事はなかった。
上位大会に進めるのは2チーム。要は決勝に残った2チームだ。
後で他校の生徒から聞いた話だが、他校からするとほぼ運ゲーだった。僕らと反対ブロックにいれば、2位で上位大会に進む可能性はあるが、僕らと同ブロックだったら、死にゲー。これである。(残酷)
現にトーナメント表を見て、僕らと同じ側のブロックだった学校はどこも上位大会を諦めた。反対側のブロックの学校はそれだけで歓喜していた。
ただ、この大会は誰も予想しないスタートで始まることとなる。(むむ!)
僕らの一回戦。
相手は何と新人戦の県大会の準優勝校だった。あちらが地区大会の下位で上がってきていたからである。
僕らは一回戦だったが、注目の的だった。試合のない他校の選手。すでに地区で敗退し見学しにきた選手たち、高校のスカウト陣、一回戦らしからぬギャラリーの数だった。
3本勝負の1本目。
僕と宇野君のペアだ。相手はエースペアだった。
個人戦績は対戦回数が少なかったこともあり、一度も負けたことは無かったが、実力は拮抗していた。
試合が始まった。僕はいつも通り、無駄なし鉄壁戦法で戦っていた。
ただ、すぐに異変が起こった。
審判の判定がおかしい。誤審が多いのである。
しかも外野から見ても異常だった。
応援メンバーや顧問の先生、外野の見物客もざわざわしていた。
原因は2つあった。
まずは審判がおそらく「他校の不慣れな先生」だったこと。若い女性で、明らかに様子が不慣れな感じだった。コールの間違いも多くあった。
そしてもう一つは、「相手ペアの歓喜」だ。ラインギリギリに僕らのボールが入ると、アウトとして喜んでいた。それに釣られるように「アウト」の判定がされていた。
明らかにやばい判定は、こちらで再確認をお願いしたが、プロテニスのように「カメラ判定」があるわけではないので、全てがうまくいくわけでは無かった。
当然、全てのポイントがそんなふうに誤審されるわけではないので、僕らもポイントを重ね、拮抗したまま試合は進んでいった。
「宇野。誤審は仕方ない。ギリギリに打たなけりゃいいんだ。気が楽だろ?」
我ながら、なかなかのポジティブ具合で「心乱されずに」戦っていた。
その散り際たるや美しく
僕らは先にマッチゲームを握られたが、何とか盛り返し、ファイナルゲームに持ち込んでいた。この時点で試合時間は1時間を超えていた。(平均30分くらい)
誤審の方は減ってはいたが、時々ん?という判定は続いていた。
コートチェンジの休憩中、ベンチのレギュラーメンバーがこう言ってきた。
「マジあの審判やばくね?腹立つわ。」
僕は確かに誤審をされることには困っていたが、このような空気のまま試合を進めるのが嫌だった。
「美しくありたい」
これである。
僕は答えた。
「いや、それはどうでもいい。アイツらは強ええ。でも俺らが勝つよ。」
「先生、大丈夫です。俺ら勝ちますから。」
これである。
これは僕が人生で最もイケメンだった瞬間である。
僕は自分で自分の言葉に感動して、泣きそうになっていた。(ちょっと愚か)
いや、何ならこれを書いている今も泣きそうだ。(変わらず愚か)
そして僕らは美しく散った。
普通に考えれば、恨んでもおかしくない状況だったが、不思議にそれは無かった。清々しさを感じていた。
そして、次のエースペアも負けてしまった。初めてあんなに崩れたところを見た。もしかすると流れを変えてやる。という力みなのか、もやもやしたものがあったのか、日頃では考えられないプレイをして負けてしまった。
僕らの夏はいきなり、終わってしまった。
試合後、僕らと戦ったペアが話しかけてきた。
「ごめん。微妙なところは喜ぶようにって、先生から言われてたんだ。マジごめん。正直厳しかった。」
僕は、
「ははっ!やっぱり?笑、でもお前ら強かったからな。優勝しろよ?また高校でな。」
これである。
これは僕が人生で2番目にイケメンな瞬間だった。(いちいち言うな)
チームメンバーの気持ち全ては今となってはわからないが、少なくとも僕は最後に美しく散ることができた。メンタルの脆さなどそこには微塵も無くなっていた。
夏は終わり、僕らもその先を考える時期がやってきた。
つづく
お金はエネルギーである。(うさんくさい)