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『栄養素を考えない栄養学 ~現代栄養学の盲点から視野を広げる~』第一章・無料全文公開

12月15日に発売した書籍『栄養素を考えない栄養学 ~現代栄養学の盲点から視野を広げる~』より、第1章「現代栄養学に日本人の未来はあるのか」を全文公開しちゃいます!

現代栄養学の歴史を紐解く

未来をよくしていくためには、まず歴史を知ることが大切ですので、栄養に関する近現代史を時系列で端的にまとめます。
 
●1870年代、ドイツの生理学者カール・フォン・フォイトが、ドイツ栄養学を提唱
●1876年、ドイツの医師エルヴィン・フォン・ベルツが来日、ドイツ栄養学を教える
●1914年、佐伯医学博士が営養研究所を設立
●1919年、内務省が栄養研究所を設立(現在の国立健康・栄養研究所)
●1934年、栄養学会発足
●1945年、終戦
●1947年、全国300万人の児童に対して給食がスタート
●1954年、MSA協定を締結(別名:日米相互防衛援助協定)
●1974年、日本初のサプリメント「ソイプロテイン・ビタミンE」発売開始
●1988年、ソウルオリンピックからアスリートへの本格的な栄養指導がはじまる
●1996年、遺伝子組み換え食品の輸入解禁(大豆と菜種)
●2005年、厚生労働省と農林水産省の共同で「食事バランスガイド」を策定
 
これらを見ると、日本の栄養学と向き合う際は、次の3項目を頭に入れておく必要があることがわかります。
 
①ドイツの栄養学が基礎になっているため、日本人に合っているとは限らない
②戦後、アメリカの思惑が入り込んでいるため、健康にフォーカスしていない可能性がある
③栄養研究所が設立されてから100年程度しかたっていないため、まだ発展途上である
 
では、一つひとつ見ていきましょう。

①ドイツの栄養学が基礎になっているため、日本人に合っているとは限らない

世界地図を見てみると、ドイツは日本の最北端である稚内市よりも北にあります。よって、平均気温や降水量などの気候が異なり、それに伴って採れる作物も異なってきます。また、ドイツは作物が育ちにくく、やせた土地も多かったことから、雑草を食べてくれる家畜を飼い、食べ物を確保してきた歴史があります(牛からミルクやチーズを得て、豚肉からハムやソーセージをつくる)。
一方、日本は、米・ひえ・あわ・大豆・大麦に代表される穀類と魚介類を主として食べてきた歴史があり、食性がまったく異なるのです。

②戦後、アメリカの思惑が入り込んでいるため、健康にフォーカスしていない可能性がある

アメリカは第二次世界大戦中、ほとんど本土攻撃を受けることなかったため、戦争中も国内の農業は安定して成長することができました。一方、アジアやヨーロッパは、激しい戦禍に見舞われ食糧不足が起き、世界的に大きな食糧の需要が生まれていたのです。
その需要を満たしたのがアメリカ。この絶好のタイミングで、国をあげて農業の大規模化・機械化・効率化を進めました。その結果、アメリカは膨大な食糧の需要に応えることに成功し、アメリカが世界の食糧難を救っていったのです。
 
しかし、1945年に戦争が終わると事態は一転。アジアでは戦いが終わったことにより、兵士たちの食糧が必要なくなります。一方、ヨーロッパでも農業が復興し、アメリカに頼らずとも自国で食糧がまかなえるように回復しました。
これにより、アメリカが困ってしまったというのは、火を見るより明らかですね。
多額の資金を投資し、大量の農産物をつくって輸出していましたが、突如として需要が消滅してしまったのですから。このままではアメリカは、大量の小麦をはじめとする農産物の在庫を抱えることになり、国内の農業に大打撃を与えてしまいます。
 
そこで制定されたのが「MSA協定」。
アメリカが日本に防衛力増強のため兵器などの援助を約束し、日本はアメリカの農作物を購入するなどといったことを約束したのです。そのような流れから、学校給食においてもパンと脱脂粉乳が使われるようになりました。それ以来、戦後75年以上経った今でも、パンと牛乳が学校給食に登場し続けているのです。

③栄養研究所が設立されてから100年程度しかたっていないため、まだ発展途上である

人類が誕生したのは約500万年前。アウストラロピテクス → ネアンデルタール人 → クロマニョン人と進化し、世界中に広がったとされていますが、日本にやってきた時期はいつ頃なのでしょうか? 人類進化学者の海部陽介氏は「約3万8000年前に到来したとしか考えられない」と述べています。この説で考えると、栄養を摂るにあたって私たちの祖先は、3万7900年もの長い間「栄養素」や「カロリー」といったものを考えずに食べ物と向き合ってきたといえます。
よって、提唱されて間もない現代栄養学に囚われることなく、広い視野で栄養について掘り下げることが重要であると考えております。

 現代栄養学が重要視するもの

一般的な基礎栄養学の教科書第1章には、次のような記述があります。
「生物が代謝を営むために体外から取り込む物質を、一般に栄養素という。栄養素は次の5つに大別されるが、これを5大栄養素という。①糖質(炭水化物) ②脂質 ③たんぱく質 ④ビタミン ⑤ミネラル(無機質)」
まずは、物質を5つに分けることからはじめています。その後に「5大栄養素は、体内でエネルギー源になる栄養素、構成にたずさわる栄養素、代謝調整に関与する栄養素に分けられます」と明記。エネルギー源になる3つの栄養素を3大栄養素とし、熱量(カロリー)を定義しています。
 
①糖質(炭水化物):1gあたり4㎉
②脂質:1gあたり9㎉
③たんぱく質:1gあたり4㎉
 
この栄養素とカロリーの両方を加味して、厚生労働省は「食事バランスガイド」というものを提唱。その定義は「主食・主菜・副菜・乳製品・果物の5項目をしっかりと摂れる食事」とあります。

●主食=ご飯、パン、麺類
●主菜=肉、魚、卵、大豆料理
●副菜=野菜、きのこ、芋、海草料理
●乳製品=牛乳、ヨーグルト、チーズ
●果物
 
では、この図の右記に沿って2パターンの食事例を挙げます。
 
(A)
●主食:麦ごはん
●主菜:さんまの塩焼き
●副菜:海藻サラダ
●乳製品:チーズ
●果物:みかん
 
(B)
●主食:食パン
●主菜:ビーフステーキ
●副菜:シーザーサラダ
●乳製品:牛乳
●果物:オレンジ
 
端的に申し上げると「Aは和食」「Bは洋食」です。共に食事バランスガイドの定義には沿っていますが、まったく異なる内容であることは明白でしょう。
「食の欧米化が生活習慣病の要因である」といわれている中、Bはまさしく生活習慣病の要因になるであろう食品が並んでいます。
 
ここであらためて厚生労働省が掲げる「食事バランスガイド」の図をご覧ください。その上で次の厚生労働省の説明を見てみましょう。
「一日に、何を・どれだけ食べたら良いかを考える際の参考にしていただけるよう、食事の望ましい組み合わせとおおよその量を、イラストでわかりやすく示したものです」とあります。
 
この説明文と図で、理解できましたか? 私は未だに理解できておりません。運動によって、コマが倒れないようにしている、ということは何となく伝わってくるのですが、そもそも「食事バランスガイド」であって、運動を含めた「健康バランスガイド」ではありません。「食事バランスガイド」ならば、運動は一端横に置いて考えるべきです。
また、「SVとはサービング(食事の提供量の単位)の略」など、日常でまったく使わない単位を当て込んでいることも、わかりにくさを増幅させています。〝おおよそ〟という単語が入っているように全体的にアバウトであり、幅をもたせているのに、唯一「牛乳」という固有名詞が入っていることにも、不自然さを感じずにはいられないのです。

日本が抱える3つの大きな問題点

我が国には、大なり小なり数多くの問題がありますが、健康面に関しては次の3つが大きな問題であると考えています。
 
①医療費・介護費の増大
②平均寿命と健康寿命の差
③労働生産性の低下
 
一つひとつ見ていきましょう。

①医療費・介護費の増大

2019年の国民医療費は44兆3895億円であり、毎年8000億円ほど上がり続けています。また介護費は10兆5095億円であり、こちらも毎年3000億円ほど上がり続けています。ということは合計で約55兆円となり、毎年1兆円以上増え続けているという異常な状態なのです。2025年には、65歳以上の高齢者が全人口の約30%になり、認知症の患者数は700万人前後と推計されており、これは高齢者の約20%に相当します。医療費とともに介護費の急増が、とても大きな社会課題なのです。

②平均寿命と健康寿命の差

平均寿命と健康寿命の定義からお伝えします。
 
平均寿命:0歳の人の平均余命
健康寿命:健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間
 
2019年の日本人の平均寿命は、男性が81.41歳、女性が87.45歳です。
この年の健康寿命は、男性が72.68歳、女性は75.38歳。
平均寿命から健康寿命を引いた年数が不健康な状態(認知症・歩行困難・寝たきりなど)で過ごしている、ということになります(男性で約9年、女性で約12年)。
 
2001年と比較すると、平均寿命・健康寿命ともに男女双方伸びていますが、平均寿命と健康寿命の差は縮小していません。今後、平均寿命が延びたとしても、健康寿命との差が拡大すれば、不健康な期間が増大することを意味しますので、医療費や介護費の増加により家計や社会保障費に多大な影響が及んでしまうのです。

③労働生産性の低下

産業活動における生産性とは、資源や労働力などの投入量に対して、どれだけ付加価値が生み出せたかをあらわす概念です。
投入した労働量に対して生み出された成果を測る目安が「労働生産性」。近年は、より短い時間で効率的に仕事を行うことが重視されるため「1時間あたりの労働生産性」が指標として利用されています。日本の労働生産性の水準は、諸外国に比べて高いとはいえず、この点が大きな課題になっています。
※「労働生産性の国際比較2019」によると、アメリカに比べて6割程度、かつ主要先進7か国では最下位。
 
この格差を縮小し、よりよい労働環境を創り上げるためにも、短い労働時間で業務を遂行するための意識改革や、業務の効率化を進めることが求められています。その中のひとつが「健康経営」で、従業員などの健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することをいいます。
 
経済産業省が健康経営に係る各種顕彰制度として、2016年に「健康経営優良法人認定制度」を創設しました。優良な健康経営に取り組む法人を見える化することで、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業」として、社会的に評価を受けることができる環境を整備しています。
 
近年、労働生産性を語る上で重要なワードのひとつに「プレゼンティーイズム」があります。プレゼンティーイズムとは、欠勤には至っていないものの、健康問題が理由で生産性が低下している状態のことです。たとえば、頭痛・腰痛・腹痛、首こり・肩こり・目の疲れ、花粉症などのアレルギー、メンタル面の不調、月経前症候群など。これらによって、なんと生産性が20%前後も低下しているという調査結果も出ています。
 
右記の健康問題は、栄養面のアプローチで大きく改善できるものもありますので、私は健康経営のためのコンサルタントを、活動のひとつとしております。
日本が抱える3つの大きな問題点の改善に向けても、現代栄養学に囚われない栄養アプローチが有効になると考えています。

栄養とは、一体何なのか?

「高たんぱく食で筋肉を増強」「野菜から食べて血糖値の急上昇を防ぐ」「グルテンフリーで思考をクリアに」などに代表されるように、現代の栄養情報といえば小手先の手段が語られることがほとんどです。それゆえ、小手先の手段に重きを置いて食習慣を構築している方が非常に多いと感じています。はじめに「栄養の定義」を見ていくことで、栄養を掘り下げるきっかけとしましょう。

〝栄養とは、生物が体外から取り込んだ代謝に必要な物質に化学反応を起こし、体成分の合成やエネルギーを獲得して、これを生活活動・成長・生殖などに利用する状態をいう。もし、生物のこの状態が止まれば死であり、無生物となる。〟 

『Nブックス 改訂基礎栄養学より』

私たち人間が体外から取り込む物質といったら、動物と植物です。それゆえ、動物と植物がもつエネルギーを数値化し、それをいかにバランスよく、かつ効率よく摂取していくかということに目を向けているのが「現代栄養学」です。
しかし、栄養を語る上で絶対に避けて通れないのは、数値化しにくい(目に見えない)エネルギーです。個人個人で健康力に差があり、心の在り方も千差万別である人間同様、動物と植物にも数値化しにくいエネルギーが存在しているのです。
 
ここで断言します。カロリーや栄養素が中心である「現代栄養学」のみを指標にしていたのでは、あなたの健康力と、あなたのお客さまの健康力が高まる可能性は低い、といわざるを得ません。なぜなら現代栄養学は、人間が頭で分析し組み上げた学問であり、机上で考えられたものでしかないからです。そのような狭い視点は、「食べ物を食べている」というよりも、頭で得た「情報を食べている」とも言い換えられます。
 
冒頭でも申し上げたとおり、現代栄養学が日本に広まったのは1920年頃で、まだたった100年ほどしか経っていないのです。人類の長い歴史からすると、つい最近といった感じです。現代栄養学が広まる前、私たち人類はどのようにして食べ物や栄養と向き合っていたのでしょうか?
そう、今あなたが想像したとおり、旬や土壌、視覚・嗅覚・触覚・味覚といった「数値化しにくい感覚」だったことでしょう。
それら数値化しにくいエネルギーの筆頭は「命」です。豚の命は80、カツオの命は60、キャベツの命は20というように、数値化することはできません。当たり前のことですが、命は命なのです。
 
ここで私なりの「栄養とは」をシンプルに定義します。
〝栄養とは、動物と植物の命をいただくこと〟
 
私たち人間と同じように、代々受け継がれてきた動物・植物の命をいただく行為が、すなわち栄養なのです。
数値化しにくいエネルギー(目に見えないエネルギーと言い換えてもよいもの)をしっかりと考えた上で、カロリー・栄養素などの現代栄養学を活用していくことが健康増進のための栄養の土台となります。
数値化しにくいエネルギーの筆頭が「動物・植物の命」なのです。

 「いただきます」「ごちそうさま」「合掌」の意味とは?

あなたは毎食、「いただきます」「ごちそうさま」をいっていますか?
この2つの言葉は、食事の際に欠かすことはできませんが、毎食欠かさずいっている方はどれほどいるのでしょうか……
食べ物が溢れ返っている日本では、この2つの言葉への意識が希薄になりがちです。カロリーや栄養素をいかに効率よく摂取するかではなく「動物・植物の命をありがたくいただく」という視点に立ち、食事をする際の心構えについて一緒に考えていきましょう。
 
多くの方は1日3回、1か月で90回、1年間で千回以上、食事をすることになります。その食事、現代の日本ではコンビニ・スーパー・ドラッグストアで無数に並ぶ食品の中から、食べたいものを手軽な価格で手に入れることができます。
また、全国には70万店ほど飲食店があり「食べることに困らない」といっても過言ではありません。2020年の流行病を境にデリバリーも盛んになり、自宅から出ずとも食べたいものが食べられる、そのような時代となりました。
そんな状況がゆえに「命」と「時間」をいただくことへの感謝の気持ちが芽生えにくいといえます。私たちは、食べることで生命を維持しているのですが、私たちが食している動物・植物にも命があります。
 
まず「いただきます」とは、一体何をいただくのでしょうか?
お肉のたんぱく質? 野菜のビタミン? お米のカロリー?
はい、栄養素やカロリーではありません。「いただきます」とは、「食卓に並んでいる動物と植物の命をいただいて、私の命に代えさせていただきます」という意味です。
さらに踏み込んで考えてみましょう。命には「時間」というリミットがあります。命を「時間」と捉えるなら、動物・植物が育った時間、育ててくれた農家さんや調理してくださった方の命の時間もいただいていることになります。「いただきます」は、命の尊さを考える、うってつけの言葉なのです。
 
続いて「ごちそうさま」。漢字で書くと「御馳走様」です。「馳」という字も「走」という字も、「走る」という意味をもちます。料理を食卓に並べるためには、まず食材を育てるために走る人がいますね(農家さんや漁師さん)。
次に、食材をお店に並べるために走る人がいます(八百屋さんやスーパーのバイヤー、運送屋さん)。
そして、その食材を買い集めるために走る人がいます(主にお母さん)。
たくさんの人が走り回って、私たちの前にはじめて料理として並んでいるのです。「走る」という意味の漢字を2つも重ねた上で、敬意をもって「御」や「様」という字をつけて、感謝の気持ちをあらわすのが「ごちそうさま」なのです。
 
最後は「合掌」について。
「手を合わせてください。いただきます!」
あなたも幼稚園・小学生のときには、毎日やっていたことでしょう。しかし、大人になってからはどうでしょうか……
今朝の朝食時、しっかりと手を合わせて挨拶をしましたか?
日本人は、お墓参りの際や神社仏閣へ参拝に行った際に手を合わせます。仏教では、まず手を合わせることからはじまるといわれていますが、なぜ手を合わせるのでしょうか?
 
盛重寺住職の平尾宗信氏の言葉を借りて説明いたします。
「右手と左手というのは、同じ手でありながらそれぞれ役割があり、常に違った働きをしています。右手が箸を持てば左手はお茶碗を持ち、右手がペンを持てば左手は紙を押さえます。
また右手を私とすれば左手は相手となります。仏教では、右手が私なら左手が仏様、神道では右手が私なら左手が神様となります。合掌をすることで仏様と自分とがひとつになり、神様と自分とがひとつになります。ご飯をいただくときにもまず手を合わせますね。食事をいただくときには、食材の命と自分の命がひとつになる。相手と自分とがひとつになるというところからはじまります」
 
食前と食後、これまでも合掌をしていた方はそのままご継続を、最近していなかった方は次の食事からしっかりと合掌をして、感謝の気持ちをかたちにあらわしていきましょう。合掌をしての「いただいます」「ごちそうさま」は、たった1秒の深い儀式なのですから。

 コラム① たんぱく質を多く含む食品を分類してみる

「スポーツ選手の身体づくりには、たんぱく質が欠かせない」「体重1㎏あたり2gのたんぱく質を摂ろう」「卵はアミノ酸スコア100の完全栄養食」など、栄養に関する記事には必ずといっていいほど「たんぱく質・アミノ酸」という文字が出てきます。ここで一度立ち止まり、たんぱく質を掘り下げていきましょう。
 
なぜ「たんぱく質」がこれほどまでに注目されるのか?
 
たんぱく質が重要とされる理由はいくつかありますが、今回は3つだけ挙げます。
 
①私たちの身体は、水分を除くと60%がたんぱく質でできている
②脂肪のように貯めておくことができない
③体内で合成できないものがある
 
あなたの筋肉だけでなく、肌や爪や脳などのあらゆる組織をつくり、またホルモンや酵素、免疫物質をつくり出す材料でもあります。炭水化物・脂質と共に「3大栄養素」と呼ばれ、心身のさまざまな働きに深く関わっていることはご存知でしょう。
 
また脂肪のように貯めておくことができず、常に体内で分解と合成を繰り返しています。しかし、加齢と共に合成能力は低下していき、不足すると活力の減退や肌荒れ、免疫力低下など心身に悪影響をもたらすといわれています。
 
そもそも「たんぱく質」とは、アミノ酸の集合体のことです。種類は約10万種あるともいわれていますが、そのいずれも、たった20種類のアミノ酸の順序や組み合わせの違いによってつくられています。このうち体内で合成できない9種類は「必須アミノ酸」と呼ばれ、食品からの摂取を勧められています。
※必須アミノ酸=バリン、ロイシン、イソロイシン、リジン、トレオニン、ヒスチジン、トリプトファン、メチオニン、フェニルアラニン
 
では、たんぱく質を豊富に含むものの代表例を6つ挙げてみます。
①牛肉 ②豚肉 ③鶏肉 ④魚介類 ⑤大豆製品 ⑥プロテイン
 
これらを「食品」と「補助食品」に分けてみましょう。
①②③④⑤が「食品」、⑥が「補助食品」ですね。
 
では、5つの食品を「動物性食品」と「植物性食品」に分けてみましょう。
①②③④が「動物性食品」、⑤が「植物性食品」ですね。
 
続いて4つの動物性食品を「陸上動物」と「水中動物」に分けてみましょう。
①②③が「陸上動物」、④が「水中動物」ですね。
 
最後に3つの陸上動物を「四足歩行動物」と「二足歩行動物」に分けてみましょう。
①②が「四足歩行動物」、③が「二足歩行動物」ですね。
 
ここまでの分類でおわかりのように「たんぱく質」と一言であらわされる食品も、それが……食品なのか、補助食品なのか? 動物性なのか、植物性なのか? 陸上動物なのか、水中動物なのか? 四足歩行なのか、二足歩行なのか? を考える必要があるのです。
 
「たんぱく質は重要だから積極的に摂る」という表面的なところで留まっていると、栄養指導の幅は広がっていきません。しっかりと分類も考えて指導していくことが大切なのです。
※具体的な指導の仕方・提案については、第4章で詳しく述べます。

 コラム② たんぱく質以外のエネルギーを考えてみる

コラム①では、たんぱく質の重要性を再認識すると同時に「分類」を意識することを提案しました。今回は分類を基に、さらに一歩踏み込んでたんぱく質について考えていきましょう。
 
まえがきでも少し触れましたが、私の軸としている言葉を紹介します。
 
「人間は自然から離れるほど、健康からも離れる」
by 医学の父 ヒポクラテス
 
ヒポクラテスは、紀元前5世紀に活躍したギリシャの医師で、それまでの呪術的医療と異なり、健康・病気を自然の現象と考え、医学の基礎をつくったことで「医学の祖」と称されています。上記以外にも、数々の名言を残しています。
「食べ物で治せない病気は、医者でも治せない」
「食べ物について知らない人が、どうして人の病気について理解できようか」
「人間は誰でも体の中に百人の名医をもっている」
「病人の概念は存在しても、病気の概念は存在しない」
「病気は、人間が自らの力をもって自然に治すものであり、医者はこれを手助けするものである」
 
キーワードは「自然」です。私たち人間が手を加えれば加えるほど、自然から離れるということになります。
ここで、天然のブリのお刺身と養殖のブリの竜田揚げについて考えてみましょう。お料理にブリ100gを使用したとしたら、たんぱく質の摂取量としては同じですが、自然からの乖離度はまったく異なります。天然のブリのお刺身は自然に近く、養殖のブリの竜田揚げは自然からかなり離れています。
人の手がどのくらい加わっているかを、①遊泳範囲 ②餌 ③殺虫剤の3点について見てみましょう。
 
①遊泳範囲 天然:大海原で制限なし。養殖:いけすで制限あり。
②餌 天然:食べたい物を自らの力で食べる。養殖:抗生剤(アンピシリン・チアンフェニコール)や添加物(プロピオン酸・プリアクリル酸ナトリウム・ソルビタン脂肪酸エステル)を含む人間都合のものが与えられる。
③殺虫剤 天然:不使用。養殖:寄生虫の発生の予防・解決の目的でDDT(有機塩素系殺虫剤)、フェニトチオン(有機燐系殺虫剤)、ヘプタクロル、 ディルドリンなどが使用されている。
 
右記3点の他にも、加熱なのか非加熱なのか、衣の有無などを考えると「高たんぱく食だから積極的に摂取する」というような短絡的な思考では、健康増進につながっていかないことがおわかりになるでしょう。
 
ここでコラム①の4分類において、どちらが自然に近いのかを考えてみましょう。
①食品と補助食品
②動物性と植物性
③陸上動物と水中動物
④四足歩行と二足歩行
「人の手が加わっていない方はどちらだろう?」ということを想像すれば、自ずと答えが出てきますね。
 
①食品。補助食品は製品にするまでの加工度が高い
②植物性。動物は本来、動き回るものであるにもかかわらず、人間が囲いをして行動制限している(とくに牛・豚・鶏)。また食べるエサに関しても、人間が動物本来の食性を無視して、遺伝子組み換え作物を与えている
③水中動物。人間も陸上で生活しているため、陸上動物に対してのほうが手を加えやすい
④二足歩行。四足歩行動物のほうが、多くの餌を必要とする(自然・環境への負荷大)
※すべての食品が該当するとは限りません。四足歩行動物においても、自然に近いものがあることも、また事実です。
 
一度深呼吸をして、周りを見渡してみましょう。現代の人間社会は、自然と共生しているといえるのでしょうか? 自然からかけ離れてしまったがゆえに不自然な状態に陥り、さまざまな問題が生じているのではないでしょうか?
私たちは自然に寄り添うことで自然からのエネルギーをもらい、本来もっているエネルギーも高まっていきます。自然に近い状況にいて、自然に近い食品を感謝の気持ちをもっていただいてこそ、健康が増進されていくのです。

*   *   *

第1章はここまで!
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本書は、栄養学の参考書のような専門用語は極力使わずに、サッとお読みいただけるように構成しております。最後までお読みいただくことで栄養の視野が広がり、指導力向上、そしてあなたの健康増進のお役にも立てるものと確信しております。

では「栄養素を考えない栄養学」の世界へ、一緒に参りましょう。

【目次】

第1章 現代栄養学に日本人の未来はあるのか
第2章 あなたの日常は、99・999%の質量のないエネルギー
第3章 現代栄養学以外の視野を持つべき3つの理由
第4章 何をどのように買えばよいのか
特別付録「パワーフード」と「パワーサプリ」

■著者プロフィール

久保山誉

フィットネストレーナー、健康ナビゲーター、健康経営コンサルタント
大学時代から総合格闘技に目覚め、総合格闘技「修斗」にてプロデビューを果たすも2連敗。その頃、仕事であるトレーナ業においても、うまくお客様を目的に導けなく悶々とした日々を送る。そんな時、医学の父ヒポクラテスと、杏林予防医学研究所 山田豊文 所長の言葉に出会い、一気に視野が広がり食習慣を大きく改善。その後、プロ格闘家として5連勝し世界ランキング入りを果たす。
栄養・運動指導歴22年。講演会実績250回以上。現在、健康系の資格を4つ取得し主に「経営幹部層を中心とした出張トレーニング」「労働生産性向上のための健康経営サポート」を行ない、講演会やオンライン栄養カウンセリングの活動もしている。

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