【都市と民主主義】都市の「テーマパーク」的ブランディングは何が問題か
「新今宮ワンダーランド」は、大阪市と電通がタイアップした「西成地区」の「新今宮エリアブランド向上事業」= 地域観光推進&都市マーケティングのプロジェクトの名称です。話題になった以下のPR記事からこの地域の宣伝企画の存在を知りました。
ティファニーで朝食を。松のやで定食を。|しまだあや(島田彩)
一般女性がホームレスの男性と過ごす1日をデートと呼び、訪れた店や観光スポットを紹介しつつ、地域の人々との係わりを綴るエッセイ風の宣伝記事です。この地区の特徴を著者は以下のように説明しています。
そして、以下が、このプロジェクト「新今宮エリアブランド向上事業」のHPです。
来たらだいたい、なんとかなる。
新今宮ワンダーランド
私は上記のPR記事の内容とHPの趣向に驚きました。また多くの人が記事の対象(地域やそこで生活する人々)に対する立ち位置や目線にショックを受けたようです。「西成地区」のようなドヤ街と呼ばれる地区は日本の貧困の最前線です。その地域を観光客として訪れ「(自分にとって)絵になる街歩きコース」で写真を撮影し、「激安グルメを楽しむ」というのです。私はこうやって貧困や格差も尖った都市マーケティングにより「差別化された商品」にされ、娯楽の対象になるのだな、と暗い気持ちになりました。
「新今宮ワンダーランド」という名称やイラストも「(貧困の)テーマパーク」を連想させる名前です。命名者たちの発想がよく分かるように思いました。その地域の住民は、彼らにとってはアトラクションのモンスターのようなものだし、建物や街並みも「現実世界」とは隔絶された「異世界」の小道具くらいにしか思っていないのでは、と感じてしまいました。
途上国でフィールド・ワークの経験のある女性は以下のように語っています。
これは貧困問題等に取り組む研究者が守るべき「倫理」として、現場に赴く前に習うことですが、企業のPRの担当者も同様に無自覚であっていいはずはありません。海外で勉強した経験のある人なら、すぐに気がつくような倫理や人権の問題ですが、階級格差が妙な形で隠蔽されている日本では無自覚な人が多いことに驚きます。大人になる前、小学校から「人権教育」は必須だと思いました。
私が「新今宮ワンダーランド」を知って真っ先に思い出したのは「ポストモダン社会における文化及び都市空間の消費」をテーマとして執筆された、David Harvey教授の地理学の名著です。
”The Condition of Postmodernity: An Enquiry into the Origins of Cultural Change” by David Harvey
日本では斎藤幸平先生のマルクス理論を使った労働や環境学の分析が人気ですが、欧米ではDavid Harvey教授によるマルクス理論の解釈とその原理を使った現代資本主義社会と都市空間の分析が著名です。彼はマルクス理論をもとに、新自由主義下での経済格差、文化消費、搾取の問題点や矛盾・権力構造の歪みを空間を軸に据え、鋭い考察を試みました。
David Harvey on Karl Marx
都市は近代的民主主義及び社会福祉政策の誕生の地と言われています。人間が密集して居住し、資本主義の生産と消費が集中的に発生する場所だからこそ、「人権」が都市で最初に意識されるようになったのは偶然ではありません。以下の書籍リストは「新今宮ワンダーランド」の不条理を理解するための重要なヒントを与えてくれるはずです。
Architecture and Cities: Verso Student Reading
そして、リストの最初に上記の紹介文があるように、私たちが「都市と民主主義」について知るべきことはまだまだたくさんあります。
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