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【第5回】パーソナルストーリー~次世代リーダーのつくり方~ 三菱UFJアセットマネジメント株式会社常務取締役 代田秀雄さん(対談を終えて)


✏️ 各回のポイント

第1回 新規サービス「eMAXIS Slim」立ち上げ背景

  • 投資信託の中で最大規模の「eMAXIS Slim」シリーズを創り出したきっかけは「既存のビジネスモデルは本当に個人投資家のためになっているのだろうか」という違和感。

  • 個人投資家の長期的な資産形成につながるインデックスファンドを社会のインフラと捉えて取り組んでおり、投資家がファンド選びの主導権を獲得することが投資の民主化につながる。

  • インデックスファンドの普及はアクティブファンドの質的向上にも貢献している。

第2回  マーケティング戦略はファンとともに

  • 広く支持されるためには情報開示と対話、そして共感を重視したファンベースマーケティングを重視。

  • ユーザーを単なる購入者として見ているのではなく、一緒に新しい商品・サービスを生み出す「パートナー」として対話を通じた関係性を育む。

  • 製造から販売まで垂直統合したビジネスモデルで、よりユーザーに近いインデックスファンドを目指す。

第3回 代田流リーダーシップ~両利きの経営を成功させるために大切なこと~

  • 新規事業立ち上げにおいて社内で共感を得るためには「モデルを示し、説明を尽くすこと」。

  • 「eMAXIS Slim」という旗を揚げ、方向性を提示し、まわりに働きかける際に重視した「明確な価値基準」。

  • 今までの改善・ベターではなく、ディファレントなことをいかに早く打ち立てて企業の独自の経営戦略ストーリーとして発信し、共感してもらうかが大切。

第4回 リベラルアーツの実践〜視野を広げ、独自の視点を持つための工夫〜

  • 短期的ではなく、長期的な時間軸で考えることができればブラック・スワンは飼い慣らすことができる。

  • 大前提としてひとり一人の視座、視野、視点は異なる。会社の中を歩き回って対話をすることにより異なるものの見方を拾う。

  • 変化を創造し、持続的に成長していくためにはダイバーシティにおける見方の多様性=認知的多様性が大切。

🔎 対談を終えて(グローバル人材戦略研究所の視点)

【小平の視点】

代田さんに話を伺っている際に、まず頭に浮かんだのが「オーセンティックリーダーシップ」という言葉です。オーセンティック(authentic)とは、本物の・正真正銘の、などの意味で、「オーセンティックリーダーシップ」は自分の中にある根源的な自分らしさを自覚し、首尾一貫して発揮することを言います。世の中には「偉大な経営者論」が多く、スーパーマン・スーパーウーマンのような現実離れした人を取り上げて「これぞリーダー!」ともてはやすことが多いですが、いくら「リーダーっぽく」振る舞っても、それがその人のもつ本来の性格や特性と異なっていたら、リーダーについていくフォロワーはそれを見抜いてしまいます。今や固有名詞で取り上げられる「オルカン」をはじめとするeMAXIS Slimシリーズの生みの親、代田さんは自らが持った違和感を大切にし、かつ社内外の人たちと対話を続けて両利きの経営を実践しているのはまさにオーセンティックリーダーシップだと思いますし、関わる人々も代田さんの問題意識に共感してきたのだと思います。 

また、代田さんの持っていた違和感、本当にその状況が個人投資家のためになっているのか、社会から必要とされているのだろうか、という「感じる」から始まった問題意識は「考える」「行動する」というサイクルとなり、その中心にある本質は「資産形成のインフラ」であり、「個人投資家の将来的なお金の悩みからの解放」であるという気づきを得ました。

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カナダ北極圏1600Kmを徒歩で踏破した探検家の角幡唯介は冒険とスポーツを比較して以下のように述べています。

「冒険はもともとスポーツではない。むしろ冒険とスポーツは対極だ。そもそも行為がおこなわれる舞台がまったく違う。冒険とはシステムの外側にある未知で混沌としたカオスに飛び出す行為であり、一方、スポーツは競技場のような管理された場で勝敗や能力を競う行為だ。(『極夜行前』文藝春秋、2018年)」

 既存のビジネスで漸進的に改善しベターを目指すのは、競技場のような管理された場で勝敗や能力を競うスポーツ的なもので、そこにはわかりやすい客観的な判断基準(Judgement、Right thing to do)があります。一方、代田さんが新規に立ち上げ今なお拡大中の「eMAXIS Slimシリーズ」は、対談中の「成功や独自性はリスクを取りに行かなくては実現できません」というコメントにあったように、ディファレントなこと・知の探索であり、システムの外側にある未知で混沌としたカオスに飛び出す行為であり、主観的な決断(Decision、Do the right thing)の連続、角幡の言葉を借りれば冒険なのだと思います。

主観的な決断やそのベースとなる想いは、往々にして「思い込み」になってしまいがちですが、代田さんは常に社内外問わず、いろいろな人の対話を通じ、多様なものの見方(視座・視野・視点)に触れ、取り入れることによって、よりよりものにされていることも理解することが出来ました。

最後に代田さんが紹介してくれた、作家 プルーストの言葉を共有させていただきたいと思います。

‘’ Le véritable voyage de découverte ne consiste pas à chercher de nouveaux paysages, mais à avoir de nouveaux yeux.‘’
冒険(旅における本当の発見)とは、新しい景色に巡り合うことではなく、世界を新たな目で見ることなのだ。

「世界を新たな目で見ること」とはまさに自分自身のものの見方からの解放であり、リベラルアーツの実践です。パーソナルストーリー〜次世代リーダーのつくり方~では各分野のリーダーに話を伺い、今までの経験・キャリアとあわせ、リーダーならではの世界の見方やその為の考え方などを伺う企画ですが、お忙しい中、まさにパーソナルな側面をご紹介くださった代田さんに改めて御礼を申し上げるとともに、『あり方を描くこと』であるリーダーシップは、マネジメントの『やり方』とは異なり、リーダーその人の、ものの見方こそが決定的に大切であり、そのためにも広い意味でのリベラルアーツの実践が重要であると改めて認識をしました。

【飯田の視点】

これまで全4回元インターン生や社会人の方に対してインタビューを行い、パーソナルストーリーの記事を執筆しましたが、今回は初めて経営者の方にお話を聞かせていただく貴重な機会をいただきました。今までと比べてよりマクロな視点でパーソナルストーリーを捉え、社会全体へのインパクトも含めたご経験のダイナミズムにたくさんの刺激を受けました。

第1回の内容を通して、なぜ世の中で合理的に考えれば実現していそうなことが、現実に起こっていないのかと非常に不思議に思いました。合理的に良いと考えられるものは当たり前に実現されるのではなく、利害関係者を巻き込み、リスクを冒してでも「社会のため・世の人々のために」と行動を起こす勇気と未来への希望をもった代田さんのような人がいてこそ、実現されるのだと強く感じました。また同時に長年お仕事をされている中で、その違和感について深くお考えになった結果として行動され、形になったのです。小平さんもおっしゃっていましたが、まさにそれは「感じる」「考える」「行動する」のサイクルを常に実行しているかどうかなのだと感じました。

また第3回の内容として社内でどのように「共感してもらう」かについてのお話、そして第4回では視座・視野・視点を拾うために社内で行っていることのお話もしていただきました。その中で今までは視座・視野・視点を広げよう、高めよう、たくさん持とうとすることだけを考え、意識する場面が多かったですが、それだけではなく視座・視野・視点を高めたり、広げたり、時には低くしたり、狭めてみたり、さらにはそれら自体を全く違うものにしてみたりと自由自在に操ることが重要なのではないかと考えるきっかけとなりました。カメラに例えるのであれば、被写体(対象とする人やモノ、事柄)によってピントや高さを調整する、合わせにいくことかもしれません。そうすることでしっかりと被写体を捉えて、シャッターを押す(共感してもらう)ことができるのでしょう。

最後に代田さんのお話を聞いている中で、こんなにも金融や経済というトピックで「なるほど!」「わかりやすい!」と感じたことは今までなかったと思います。私自身高校時代にアメリカの現地校に1年間留学していましたが、金融教育先進国・アメリカでは高校の授業で「お金」の基本を学ぶとされ、一時期「アメリカの高校生が学んでいるお金の教科書」という本が話題になっていたと思いますが、日本ではどうでしょうか。日本人の私たちはお金というものをしっかりと理解しないまま、世の中に出て行ってしまっています。そのような社会の中で資産運用を行っていくための「インフラ」、インデックスファンドは日本にこそ広めるべきものだったのかもしれません。これからの未来を担う覚悟をもった若者の一人として、改めてお金・金融の知識を身につけていきたいと考えております。

執筆:インターン 飯田知世(慶応義塾大学 政策・メディア 修士1年)

【パーソナルストーリー】
この「パーソナルストーリー」という企画では、グローバル人材戦略研究所に関わる人々の経験や学びなどを紹介していきます。一人ひとりのエピソードを通じて、グローバル人材戦略研究所の活動に興味を持っていただければと思います。

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