RADWINPS野田洋次郎のツイートはなぜ許されるべきではないか?いまさら聞けない優生学・優生思想の基礎・基本! ※拡散希望!
※私のnoteでは、最近の潮流である「障がい者」という語ではなく、敢えて「障害者」の語をそのまま使います。「障」は「さわる」と訓読みし、「さわる・さしつかえる」という意味がある漢字です。本質的には「障」も「害」も似たような意味です。形式より実質・想いが重要と考えます。ご理解ください。では始めます。
RADWINPS野田洋次郎の以下のツイートが大きな批判を浴びています。
※削除されるかもしれないので引用しておきます。ってか削除しろ💢
「前も話したかもだけど大谷翔平選手や藤井聡太棋士や芦田愛菜さんみたいなお化け遺伝子を持つ人たちの配偶者はもう国家プロジェクトとして国が専門家を集めて選定するべきなんじゃないかと思ってる。
お父さんはそう思ってる。」
このツイートの末尾にはハッシュタグで「個人の見解です」とあり、さらに批判が大きくなると自身を引用リツイートする形で「めちゃめちゃ真面目に返信してくださる人いますが冗談で言っています、あしからず。」と10分後にツイートしました。
上記ツイートは7/16の22:18と22:28になされたものですが、2週間が経過した7/31 0時の時点でもいまだに削除も撤回も謝罪もなされていません。
一方で、このツイートには7/31 0時の時点で2.7万ものいいねがついています。非常に憂慮すべきです。
本稿では、「いまさら聞けない優生学・優生思想の基礎・基本!」と題して、このツイートの何が問題なのかをご理解いただくことを目標に、優生学・優生思想とはそもそも何なのか、という辺りから解説してみたいと思います。現代人のマスト教養ですぞ!
※以下、本稿では「優生学」という言葉で統一します。
☆優生学とは?
優生学は、19世紀後半に正式な学問の一種として成立しました。
ダーウィンの「進化論」に影響を受けた、ダーウィンの従兄であるフランシス・ゴールトンが「優生学」を主唱していきます。(ダーウィンの「進化論」自体には優生学的な意図はまったくありません。)1865年のできごとです。
優生学は、例えば「生物の遺伝構造を改良することによって人類の進歩を促そうとする、科学に基づいた社会改良運動」と定義することができます。
喩えが適切かどうかわかりませんが、より美味しくて害虫や病気に強い果物を求めて品種改良をすることがありますが、それを人間にやってしまえばより良い社会になるのでは、という考え方です。
☆古くはプラトンから
なお、優生学に通ずる考え方は、プラトンの時代までさかのぼることができます。古代ギリシアですから、紀元前400年とかそのくらいですね。
プラトンの著作「国家」の中には以下のような記述があります。
「最も優れた男性は、意図して最も優れた女を妻に娶ったに違いない。そしてその反対に、最も劣った男性についても同じことが言える」
プラトンは、人間の生殖活動は国家によって管理されるべきであると考えていたのです。そして、露骨に選択させると傷つくから偽りのくじ引きで配偶者を決すべき、などと気を遣っているんだかいないんだかよくわからんことを書いています。
ご存知でしたか?プラトンのイメージがだいぶ変わったのではないでしょうか。
それにしても、「人間の生殖活動は国家によって管理されるべき」って、どこかで見ましたね。RADWINPS野田の考え方は、紀元前400年ころからまったく進化していないものと見ることもできるでしょう。
☆優生学の2つの側面
優生学は歴史的に以下の2つの側面に分けて考えることができます。
1 積極的優生学…子孫を残すに相応しいとみなされた者がより多くの子孫を残せるように奨励する考え方です。例えば、複数の子どもを持つ優れた素質を持つ両親を表彰したり、金銭的援助を与えたりすることが考えられます。
2 消極的優生学…子孫を残すに相応しくないとみなされた者が子孫を残すことを防ぐ考え方です。例えば産児制限をすることが考えられます。
☆日本人種改良論
優生学というとドイツのヒットラーが有名ですが、実は優生学的なイデオロギーに基づいた政策(以下、「優生政策」といいます)は日本を含む世界各国で行われてきました。
日本では1884(明治17)年に、高橋義雄という人が「日本人種改良論」という本を出版しています。
高橋義雄さんは、日本と西洋との格差は文明・科学の差によるだけではなく、個々人の知力・体格の差でもあり、日本人は西洋人に比べて大きく劣っていると考えていたようです。
「日本人種改良論」には、「より優れた子孫を残し日本人種を改良するために、日本人は西洋人と結婚すべきだ」というようなことが大真面目に主張されています。
☆日本における優生政策
19世紀末から20世紀前半、いわゆる戦争の時代に、アメリカやドイツなど世界各国で優生学は研究されました。その成果は日本にも紹介されていきます。
第2次大戦中に、遺伝性疾患を持つ人を強制的に断種(手術によって生殖能力を失わせること。もちろん現在では、本人及び配偶者の同意なき断種はほとんどの国が禁じています)させる内容の法律なども可決しましたが、戦中はむしろ「産めよ殖やせよ」が国策であったため、それほど大々的には行われなかったようです。
日本の優生政策は、むしろ戦後になってから本格化します。
1948(昭和23)年に「優生保護法」が成立します。その後何度かの改正を経て、遺伝性疾患だけでなく、ハンセン氏病や遺伝性以外の精神病(精神障害)、精神薄弱(知的障害)を持つ患者が強制的な断種の対象として定められました。(なお、ハンセン氏病患者に対する優生手術は1915(大正4)年に既に始まっていましたが、後から優生保護法が法律的にお墨付きを与えた形です。)
優生保護法に基づく強制的な断種は、1949(昭和24)年から1994(平成6)年の間に、男女合わせて1万6千件も行われています(7割が女性です)。
優生保護法は1996(平成8)年の改正で「母体保護法」に名称自体が変更になり、障害者およびハンセン病患者などへの強制的な優生手術に関する条文は削除されました。よって現在の日本においては、本人および配偶者の同意のない断種は禁止されていることになります。
1996年になって、ようやく国際水準に並んだ形です。わずか24年前の話です。
2020年6月30日、旧優生保護法に基づいて不妊手術を強制された男性が国に賠償を求めた裁判で、東京地裁が請求を棄却する判決を言い渡したことがニュースになりました。
これは、不法行為に基づく損害賠償請求権が既に時効であるということが理由ですが、国策による人権侵害を、普通の交通事故などと同じように機械的に時効の規定を当てはめ結論づけようとすることには被害者救済の観点から問題が極めて大きいように思われます。
☆ドイツの優生政策
ナチスの権力掌握後、「民族の血を純粋に保つ」というナチズム思想に基づいて、遺伝病や精神病者などの「民族の血を劣化させる」「劣等分子」を排除するべきであるというプロパガンダが開始されます。遺伝病患者などにかかる国庫・地方自治体の負担が強調され、これを通じてナチス政権は「断種」や「安楽死」の正当性を強調していったのです。
そしてついに1933年には、遺伝的かつ矯正不能のアルコール依存症患者、性犯罪者、精神障害者、そして子孫に遺伝する治療不能の疾病に苦しむ患者に対する強制断種を可能とする「遺伝病根絶法」が制定されるに至ります。
☆T4作戦
T4作戦(テーフィアさくせん)、をご存じでしょうか。
ナチス・ドイツで優生学思想に基づいて行われた安楽死政策です。
上記のように、断種については一応、法律に基づいて執行されたわけですが、このT4作戦と呼ばれる安楽死政策は、何の法的根拠もないまま、ヒットラーの命令により行われました。
各地の精神医療施設等から提供されたリストに基づいて、精神病者や遺伝病者のほか、労働能力の欠如、夜尿症、脱走や反抗、不潔、同性愛者などが「処分されるべき対象(処分者)」とされ、灰色に塗装されたバスに乗せられ、「処分場」と呼ばれる施設に運搬されたのです。
また、「処分者」は大人だけではありませんでした。障害のある子どもたちは、普通の病院と違う特別な病院に入れられ、安楽死の対象となったのです。子どもを対象とする安楽死は1943年4月頃から本格化し、やがては青少年をも対象としていきました。
犠牲になった方の数は正確なところはよくわかりませんが、判明しているだけでも10万人は下らないようです。
ナチスといえばユダヤ人を大量虐殺した「ホロコースト」が有名ですが、殺されたのはユダヤ人だけではなかったのです。
なお、2010年にドイツの精神医学会は、障害者の殺害に加担した事実を正式に認め、謝罪しています。
☆レーベンスボルン(生命の泉)
以上は、いわゆる消極的優生政策といえますが、他にもドイツでは、ドイツ民族の人口増加と「純血性」の確保を目的として、ドイツ人ナチ党員男性とノルウェー女性との性交渉を積極奨励するなどの積極的優生施策も行っていたようです。レーベンスボルン(生命の泉)と呼ばれる女性福祉施設などが有名ですが、あまり長くなってもアレなのでこの話は詳細は割愛します。
ただ、RADWINPS野田がツイートしていたようなことをナチスドイツは既に現実に実行していた、ということは記憶に留めておいてください。そして、今日の国際常識においてはそれは否定されているという事実も。
☆「優生学」は集団レベルから個人レベルへ?
第2次大戦も終結し、1948年に国連により「世界人権宣言」が採択されると、当然ですが優生学は遍く批判の対象となっていきます。表向きは、公には優生学は否定され、教科書や雑誌には掲載がなくなります。
しかし、2000年代に入りヒトゲノム(ヒトの遺伝情報)が解明され、遺伝子工学が発達するにつれて、再び優生学的なヒト遺伝子の選抜が論じられるようになりました。新たな優生学が誕生しつつあると言えます。
従前は、ユダヤ人や黒人、障害者、精神病者などのくくりで国家の政策として行われてきた優生政策が、今日では、商業化された遺伝子診断の利用という、個人のレベルで現実に問題になってきています。
☆出生前診断は是か非か?
例えば、出生前に胎児の遺伝子や染色体の変異を検出する「出生前診断」というものがあります。遺伝子または染色体障害の赤ちゃんを持つリスクが高いカップルに提供されています。
出生前診断は、妊娠を中止するかどうかの判断などに役立つ情報ではあります。
しかし、その実際はどうでしょうか。
日本看護協会の公式ページには、出生前診断を受けた夫婦のケーススタディが載っています。以下、要約して記載していきます。
42歳、妊娠18週、過去に流産経験のある女性が、夫の両親に強く勧められ、また前回の流産の際に遺伝的な原因の可能性を指摘されたこともあり、心配で胎児の出生前診断を受けることにしました。
医師から、検査結果で染色体の異常がみられること、産まれてくる子どもの染色体異常の確率について、そして、中絶可能な週数は妊娠22週までである、ということについて説明がなされました。
医師との面談後、助産師に呼ばれカウンセリングルームに入るなり、「どうしていいかわからない」と泣き出してしまったそうです。
中絶可能な週数が近づく中で、短い期間で非常に重い決断が迫られている現実がよくわかります。今の日本で障害を抱えた子どもを育てていくことに大きな不安を覚えるのも無理はなく、しかも本人だけでなく夫や家族の気持ちなども交錯することでしょう。
また、どんな診断も100%正しいわけではありません。上記とは別の事例で、検査の結果「異常なし」であったにもかかわらず赤ちゃんが障害を持って生まれてきた場合の、両親の受け入れがたい現実も問題になっており、訴訟に発展した事例もあります。
では、出生前診断なんかやらなければよいのかというと話はそう単純なものではなく、「診断を受けないという判断は正しかったのか」と繰り返し不安になってしまったり、「検査できるのになぜ受けないのか」と周囲から非難されたりといったことが問題になっています。
受けても受けなくても気が重くなる、出生前診断。なかなか罪な技術ではないでしょうか。
果たして、出生前に「赤ちゃんが障害を持って生まれてくる」と相応の確度で予測できることは良いことなのかどうか。障害がある可能性が高いから中絶しましょう、という判断と行動は赤ちゃん自身にとってどうなのか。いろいろ考えるべき複雑な問題がここにはあります。
☆デザイナーベイビー
デザイナーベイビーとは、受精卵の段階で遺伝子操作を行うことによって、親が望む外見や体力・知力等を持たせた子どもの総称です。
1990年代から受精卵の遺伝子操作は遺伝的疾病を回避することを主目的に論じられてきていました。しかし、親の「より優れた子どもを」「思いどおりの子どもを」という欲求は強いもの。しだいに、病気を防ぐという話だけではなくて、外見的特長や知力・体力に関する遺伝子操作も論じられるようになってきているのです。
もちろん、お話しだけであって現実にはそんなことはあり得ない…と思いたいところですが、限りなくこれに近い話は現実になりつつあります。
2013年、アメリカ合衆国の個人向け遺伝子解析大手企業である「23アンドミー」が開発したシステムがアメリカ特許商標庁に認められました。
そのシステムでは、精子や卵子の提供候補者ごとに遺伝情報を解析して、望み通りの子どもが生まれる確度を予測できるということです。唾液に含まれるDNAの遺伝子配列のわずかな違いを分析して、アルツハイマー病や糖尿病など約120の病気のリスクのほか、目の色や筋肉のタイプなど計250項目を判定する事業を展開しています。
2013年時点における価格は99ドル(約1万円)。利用者は50ヵ国以上、日本人を含め40万人を超えているとのことです。
よろしいでしょうか。SF映画の話をしているのではありませんよ。現実の話です。
子どもが特定の性質を持つように事前に遺伝子を設計する。
こんなことをして果たしてよいのか。このことが人類にもたらすのは幸福か、それとも不幸か。
もちろん、デザイナーベイビーは今日の段階では技術的にも倫理的にも強く問題視されています。
親の子に対する愛情に、条件を付すべきではないと私は思います。頭が良いから、イケメンだから愛するのですか?違いますよね。我が子だから愛しいのだと私は思うのですが、あなたはどう考えますか。
☆障害者権利条約
障害者権利条約は2006年に国連で採択され、日本は2013年に批准しました。
優生学に関連のある条文を簡単にご紹介します。(条文の引用は日本政府公定訳によります)
ます10条には、優生学による障害児の産み分けの禁止が謳われています。
次に15条では、「いかなる者も、その自由な同意なしに医学的又は科学的実験を受けない。」とあり、同意のない医学的実験が禁止されています。
そして17条には、「全ての障害者は、他の者との平等を基礎として、その心身がそのままの状態で尊重される権利を有する。」と書かれています。これは「身体的不可侵性」を保障したものであると言われます。
最後に23条には、障害のある人も他の者と平等に、結婚や養子縁組を含めて家族を築く権利を保障されていることや、障害を理由とした断種から保護されることなどが謳われています。
以上、障害者を対象とする条約を見てきましたが、他にも例えばEUの「欧州連合基本権憲章」では、人の選別を目的とした優生学的措置を禁止しています。
結論として、現在の国際的な考え方としては、優生学的措置の一切は禁止されていると見てよいでしょう。
☆昨今の日本
昨今の日本におけるできごとを箇条書きにしてみましょう。
✅2016年7月26日未明、入所者19人を刺殺し、職員を含む26人に重軽傷を負わせた「相模原事件」が発生。犯人が重度の優生思想の持ち主であることが判明し、世間を震撼させました。(2020年3月に死刑判決が確定)
✅相模原事件のわずか2ヶ月後、元アナウンサーで維新から出馬予定だった長谷川豊氏が「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ! 無理だと泣くならそのまま殺せ!」とブログに書いて問題になりました。
✅2018年7月、自民党の杉田水脈議員が「(子を産まないLGBTは)生産性がない」と発言。自民党は何らの処分もせず、事実上この発言を容認しました。
✅同年12月、落合陽一氏と古市憲寿氏が雑誌の対談で「(高齢者に)「最後の1ヶ月間の延命治療はやめませんか?」と提案すればいい」と語りました。
✅2020年6月、自民党がこのようなバカな4コママンガを掲載。
自民党がバカなのは今に始まった話ではないのは既報のとおりですが、「唯一生き残ることができるのは変化できる者」などとはダーウィンはまったく述べてません。案の定、専門家から大きな批判を浴びました。
生物が環境に合わせて変わるのではなく、多様な生物の一部が結果的に生き残れるに過ぎません。それが正しい進化論の考え方です。
既に述べたとおり、優生思想はダーウィンの進化論をもとに着想されたものでもあり、為政者たるものその扱いにはとりわけ慎重であるべきなのですが、そんな高尚なことをバカに求めてみても詮無きことかもしれません。
✅2020年7月3日、れいわ(当時)の大西つねき氏が「正しさ依存症とそれを生み出す教育について」というタイトルのyoutube動画において、視聴者からの質問に応答する形で「政治が高齢者の生命を選別すべき」と発言。
これに関連して、7月15日にはれいわの木村英子議員が公式ページで声明を出し、さらにその旨をTwitterでもツイートしました。(それとは別に舩後靖彦議員も16日に声明を出しています。)
しかしそこには、れいわ支持者からも大西氏を擁護するような否定的なリプがたくさんつけられています。
れいわ支持者の言動については私もやや思うところがあり、実際にTwitter上で言い合いになったこともあります(この件とは直接関係ないですが)。ですが本稿でれいわについてまで話を広げると収拾がつかなくなるので、またの機会にします。
✅2020年7月16日、冒頭でご紹介したRADWINPS野田洋次郎によるツイート。
✅2020年7月23日、51歳の女性に頼まれてこの女性を殺害したとして、京都府警が医師2人を嘱託殺人容疑で逮捕。女性は全身の筋肉が動かなくなる難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者で、「惨めだ。こんな姿で生きたくない」と語っていたとのこと。
報道によればこの医師も重度の優生思想の持ち主であった模様。
✅この事件を受け同日中に維新代表の松井一郎大阪市長が「維新の会国会議員のみなさんへ、非常に難しい問題ですが、尊厳死について真正面から受け止め国会で議論しましょう。」とツイートしました。28日には、改めて市役所での記者団の取材に対し「人間としての尊厳や尊厳死、生き方について議論をすべきだ」とし、尊厳死の法整備も視野に国会で議論を始めるべきだとの考えを述べています。
本件では51歳の女性は「人工呼吸器や点滴などの生命維持装置を外し、人工的な延命措置を中止して、寿命が尽きたときに自然な死を迎える」ということではなかったので、松井市長の「尊厳死」という言葉の使い方は適切でないように思います。
なお、「安楽死・尊厳死・医師による自殺幇助(嘱託殺人)」の議論も深入りすると難しいです。高校生向けの易しい説明としてベネッセのページの記載がわかりやすいのでご紹介しておきます。
ところが、維新には安楽死と尊厳死を区別できるような常識ある人材が一人もいなかったらしく、29日には馬場伸幸幹事長が尊厳死を考えるプロジェクトチーム(PT)を設置すると発表しました。
しかもあろうことか、「生きる権利」の大切さを訴えるコメントを公表したれいわの舩後靖彦議員に対し、「議論の旗振り役になるべき方が議論を封じるようなコメントを出している。非常に残念だ」と語っています。
重度のALSを患う方に尊厳死の議論の旗振り役をせよと公言する維新の幹部。生きる権利の否定にも通じる、看過し難い発言です。が、維新についてこれ以上長く論じてもアレなので、「残念なのはお前だよ」とだけ申し上げておきます。
✅2020年7月27日、石原慎太郎が次のようにツイートし非難轟々となっています。
時代錯誤に過ぎるのでどこから突っ込んでよいかわからないのですが、特に看過し難いと感じるのは、ALSに対し「業病」という語を用いている点です。
業病(ごうびょう)とは、単なる「難病」という意味ではありません。
「前世の悪業による報いでかかるとされる治りにくい病気」
という意味です。
つまりこの発言は、ALS患者の人格を著しく貶めるものであり、極めて許しがたい発言です。
RADWINPS野田のみならず、こんなクズツイートにも2.6万いいねもついてしまうヘルジャパン💢
石原慎太郎は東日本大震災を「天罰」だと抜かした前科もあります。私は東北の生まれです。決して許すことはできません。「天罰」だの「業病」だの、とても日本語を扱う人間のする発言とは思えません。
学歴や経済力だけでなく、障害や病気の有無、はたまた天災に遭うことまでをも「自己責任」と考えていることが言葉の端々から漏れ伝わってきます。強く非難されて然るべきであるとともに、このような一連の発言が一定の支持を得ているという事実を強く憂慮します。
☆障害者を不幸にしているのは誰か?
以上、長くなりましたが優生学の歴史的経緯や、日本における最近のできごとと問題発言などについて述べてきました。
ここからは、これらを踏まえた私の考えです。
✅母親が、出生前に最新技術を駆使してまで赤ちゃんの障害の有無を気にするのはどうしてでしょうか。
✅「診断ができるのに受けない」という周囲の非難の声を気にしなければいけないのはなぜでしょうか。そもそもなぜ、そのような非難をする人がいるのでしょうか。
✅51歳のALSの女性は、なぜ医師に自分を殺してほしいなどと頼んだのでしょうか。
答えは、「日本が障害者に冷たい社会だから」ということに尽きます。
仮に、障害者に対する差別なんかなくて、国や自治体も豊かな支援をしてくれるような、障害者福祉の充実した日本であったならば、「生まれてくる我が子に障害があったらどうしよう」「障害を持つ私は生きる価値がない、殺してほしい」などと考える必要はなくなります。
よろしいでしょうか。上にご紹介した問題発言の数々。れいわの支持者ですらも木村英子議員に投げかける数々の暴言。
こうした声が、人を死に追いやっているのです。その罪をまず自覚しなければいけません。
☆死ぬ権利を言う前に生きる権利を保障すべき
✅「死にたいと思う気持ちにも寄り添い尊重すべき」
✅「生きる権利だけでなく死ぬ権利もあるはず」
✅「諸外国では安楽死や尊厳死を認める国もある」
どれも、耳に心地よい、一見(一聴?)するとキャッチーな言葉の数々です。政治家が自信たっぷりにこんなことを言っていたら、思わず支持したくなってしまいますか?
それは騙されていますよ。なぜなら、そもそも「死にたい」などと思わなくて済むような生きやすい社会を作ることこそが政治家の仕事だからです。
人権保障が十分に充実している諸外国であれば、その延長線上として「死ぬ権利」を発想し、一定の要件の下で安楽死や尊厳死を認めるような制度設計も許され得るでしょう。
しかし、今の日本で「死ぬ権利」だけを保障したならば、経済的効率性や生産性ばかりを追い求め、社会的弱者に死を迫るような風潮が生じることは明らかです。RADWINPS野田や石原慎太郎に大量のいいねがついたり、木村英子議員に大量のクソリプがつけられたりする現状を想起すべきです。
物事には順序というものがあると思います。
蔓延する差別の意識は、一朝一夕ですべてをなくすことは容易ではないかもしれません。しかし福祉の充実は、政権がその気になればすぐにでも実行できることです。
一日も早い政権交代が強く望まれます。
なお、政権交代によって進展するのは障害者福祉だけではありません。同性婚、選択的夫婦別姓、待機児童解消、学費・給食等の無償化、男女差別や外国人差別などの解消、検査・医療体制の拡充と十分な補償を前提とした外出自粛・休業要請によるコロナの感染拡大防止など、非常に多岐にわたるということを改めて指摘しておきます。
はっきり言います。日本を生きにくい社会にしているのは自民・公明・維新(と、それに加担して税金の中抜きを目論む既得権益団体)です。
☆改めてRADWINPS野田のツイートを検討する
以上の議論を踏まえ、改めて冒頭にご紹介したRADWINPS野田のツイートを見ておきましょう。
「遺すべき優秀な遺伝子」を考えるということは、結局は「遺すべきでない劣等な遺伝子」を考えることにつながる危険な発想です。
「個人の見解」や「冗談」としても、公にツイートしてよいことではありません。
もっと言えば、ここに具体名を挙げられた方々は、確かに「遺伝子も優秀」かもしれませんが、それだけでなく、類稀なる努力を積み重ねたからこそ各界で一流になっているわけです。才能を遺伝子と見做す考え方は一流の人物に対して甚だ失礼です。
さらに、結婚をするかしないか、子を持つか持たないか、いかなる性別の人をパートナーに選ぶかなどは、個人の意思が尊重されるべきことです。
このツイートは異性と結婚して子をなすことが前提となってしまっており、その点からも人権を侵害するものであり、非常に問題が大きいと言わなければなりません。極めて悪質な「未成年者に対するセクシャルハラスメント」になってしまっている側面を指摘しておきます。
35歳にもなってこのようなツイートをし、これだけ批判されても何も反省しないのは大人として痛々しいです。芸能人はその言動により国民に大きな影響力を行使し得る存在です。最低限度のことはちゃんと勉強していただきたい、と考えるのは高すぎる要求水準なのでしょうか。
本人だけでなく、グループのメンバーや所属会社を含め、このツイートを問題視し諫められる大人は誰もいないのでしょうか。余計なお世話でしょうが、リスク管理の観点からとても心配です。尤も、この手の発言が大きなリスクにならず、それなりに受け入れられてしまう社会のほうを問題にすべきでしょうか。
☆まとめ
既に1万字を超え、私史上最も長い記事になっていますので、そろそろまとめます。最後に私から3つ言わせてください。(まだ3つもあるの!笑)
☆主張1 みんな違ってみんないい
金子みすゞ さんの「 私と小鳥と鈴と 」という詩の中に、「みんな違ってみんないい」という有名な言葉があります。
有名な詩ですが、改めて全文を引用させていただきます。
私が両手をひろげても、
お空はちっとも飛べないが
飛べる小鳥は私のやうに、
地面を速くは走れない。
私がからだをゆすっても、
きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のやうに
たくさんな唄は知らないよ。
鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがって、みんないい。
障害者が健常者よりも劣っていると発想すること自体がそもそも誤りです。
☆主張2 国家の義務
憲法25条1項には次のように書いてあります。生存権です。
「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」
そして、以下に示すのはWHO(世界保健機関)による健康の定義です。
(強調はコペル&アヤによる)
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
(健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。…日本WHO協会による訳)
以上2つを併せると、国家には、国民が精神的にも豊かに生きられることを保障する義務があることになります。生存権は単に経済的な豊かさについて定めた条文ではないと解釈するべきです。
そもそも「死ぬ権利」などを希求しなくてもよい、「生きる権利」がきちんと保障された社会を形成することが国家に課せられた義務です。そのために私たちは高い税金を納めているのです。
ALS患者が「惨めだ。こんな姿で生きたくない」と語って亡くなった事件を受けて「死ぬ権利」の議論を開始するような政治家は人でなしです。そもそも惨めと感じなくてすむ、それこそ尊厳を保って精神的に豊かに生きられる国家を作ることこそが政治家の仕事だと思います。
生きている人間の尊厳すら尊重しない者に、尊厳死を語る資格を与えるべきではありません。
☆主張3 高度に思考せよ
最後の主張です。
ノーベル賞は、自身の発明品であるダイナマイトが人殺しの道具として用いられたことを嘆き、科学技術が正しく活用されることを願って創設されたものであることは有名です。
ダイナマイトは化学反応を利用したものですが、核反応を応用した原子力は、化学反応に比して何桁も大きなエネルギーを生成することを可能にします。
しかし、そんな原子力は原子爆弾の投下という悲劇を生みました。手塚治虫先生のマンガ「鉄腕アトム」は原子力で動いているという設定です。これには手塚治虫先生の、やはり科学技術が正しく活用されることを願う気持ちが込められています。
そして21世紀の遺伝子工学。人類は今度こそ、科学技術を正しく活用して幸福になることができるのか。それとも同じ過ちを繰り返して不幸になるのか。
日本には「文系・理系」を峻別する謎文化があります。しかしこれは、入試科目を減らさないと受験生が確保できないという専ら大学側の経営的事情によるものであって、何ら学問の本質に関係するものではありません。
現代人は文系・理系を問わず、自然科学だけでなく、倫理学・論理学・哲学・歴史などの人文科学や、政治・経済・法律などの社会科学も含めて広く深く学ばなければ、例えば本稿でご紹介した「出生前診断」や「デザイナーベイビー」についてどのように考えるべきかについて、適切な判断ができないでしょう。
ましてや、科学や文明は日進月歩です。我々の学びもまた日進月歩である必要があります。
漢字が読めない、言葉を知らない、人が書いた原稿の朗読しかできない、立法府と行政府の違いもわかってない、科学や論理よりやってる感やイメージだけを重視、そんな政治家にはもういい加減にご退場願いましょう。
高度に思考できる政治家を選出できる、高度な学びをする日本人で在りたいと切に願います。
以上です。最後までお読みいただき真にありがとうございました。
(参考文献…以下の本のほか、多くのネット上の記事などを参照しました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。)
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