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短編小説 木魂に腐った性根を彫り出せ  2/3回(1002字)

庭で作業を始めた、丸太の表面をチェーンソーで切り落として

縦、横、幅、約八十センチ角の木魂が出来た、仏像を創るには、

分割する方が良いが、私にはこの大きさを割る勇気が無かった。

グラインダーで表面を磨いて体裁を整え、苦労して

ブルーシートを引いた書斎に台車に乗せた木魂を運び込んだ。


五十九歳で亡くなった妻明子のスナップ写真を、

滲みの付いたアルバムから、引き剥がして戻した。

歳を重ねた明子のイメージとは違い過ぎた

それは、美醜の問題ではなく、

明子は歳を重ねて表情に

ツンとした

理知的な冷静な側面が目立つ顔立ちになった。

それは目鼻立ちの問題ではなく、

滲みの付いたアルバムの明子には、それが欠けていた。

探し回ると箪笥の引き出しに、読書する明子のスナップ写真があり、

その下に、クシャクシャに握りつぶした様な痕のある事務封筒があった。

何か気になり、開けると破り刻まれた写真片が出て来た。

私は、ジグソーパズルをする様に組み立てた。

はっとした。

そこには、ラブホテルから出た直後の

私と腕を組む明日香の姿が撮られていた。

十年以上前の話だ。

伊藤明日香は取引先の派遣社員で、

当時営業部にいた私は取引先の情報を取る為にいろいろな口実をつけて明日香に近ずき、

社外秘の情報を手にした。

しかし、ドライな関係では済まず、

間もなく不倫関係になった。

独身の明日香には、結婚を考える男性がいたのだが別れた。

恐らく私が現れたためだと思う、

数カ月が過ぎた頃、

明日香は失踪した。

会社も辞め、アパートを引き払い、携帯も解約していた。

私の心は乱れた。

しかし妻への罪悪感からだろうか、

深追いはしなかった。

憶測だが、明子が関係していたのかもしれない。

知っていたのは間違いない。

私は、いつも明子に対して、すまないと言う気持ちを二つ持っていた

一つは不倫の事だが、

二つ目は中絶を強要した事だ。

当時うつ病に苦しんでいた私は会社を休職していた、

妊娠を切り出した明子に、

私は今は無理だ、

堕ろしてくれ。

すすり泣く明子に、

冷たく堕胎を強要した。

今も明子を思い出すとその二つの棘は、
呼吸不全の重い酸欠患者の様に胸を喉を押さえながら、
もがく様に私を苦しめる。

私は木魂にレリーフを刻むことにした。

木魂に向かい、上辺に3Bの鉛筆でメモを書いた。

偽善ではならない。

読書する明子の冷静な横顔と、

繋ぎ合わせて復元した写真の寄りかかる明日香の姿、

そして何も知らず羊水に浸る命

のデッサンを始めた。

続く。















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