短編小説 昭和の残り香に生きる男(2134字)
渋谷区恵比寿の坂を上り小さな路地裏を縫うように歩くと、
突然昭和が現れる。
これは昭和の風景だ。
つまり男の住むアパートの一区画だ。
それは三十年以上続く経済的停滞の産物ではない。
男の中では、この風景と一緒に昭和は続いている。
ここに紹介するのは昭和に立ち止まった、ある男の生き様である。
この男は昭和三十年に生まれている。
終戦から十年焼け野原から劇的に復興する最中に男は生を受けた。
新幹線が出来、東京オリンピック、首都高速、大阪万博、あらゆるヒトモノが上昇志向で社会経済が