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短編小説 木魂に腐った性根を彫り出せ   1/ 3回(625字)

定年退職して、半年も経たないうちに妻が亡くなった。

職場を失い、家庭を失い、私に残ったのは、

あっちこっち傷んだ肉体と

あっちこっち傷んだマイホームと

あの世までの不確定な生滅時間だけである。

娘二人はそれぞれ自立して去って行った。

親密な煩わしい付き合いを敬遠した私に友人はいない。

何も考えず、ぼーとしている、

若い頃に煩悩を捨てようと禅寺に通った事があるが

今の私には座禅も警策もいらない

すでに自身が抜け殻となり無に近い存在に成っている。


インターフォンが鳴った。

玄関に出ると台車に荷物を積んだ男がいた

宅急便です

サインすると男は風の様にいなくなった。

一m四方の大きなダンボール箱が残った。

開けるとそれは切り株の様な形の一m四方の檜の丸太だった。

私は最近暇つぶしにスマホで

アンケートに答えてポイントもらい、

更に景品が当たるゲームに凝っている。

おかげで、セールスや、詐欺の電話、メールが増え

毎日、詐欺犯から来る電話をからかいながら時間を潰している

この丸太は森林組合のアンケートで当選した賞品である。

恐らくDIYの素材なのだろうが、

しかし残念ながら私にその心得は無い

困ったものだ。

一カ月そのままにしていたのだが

ある日、閃いたのだ。

妻をモデルした仏像を彫ろう。

私は木彫教室に通い始めた。

道具も一通り揃えた。

しかし私はすぐに音を上げた。

緻密な段取りが、いい加減な私の性格に全く合わない事を

思い知った。

そこで私は、フリーに勝手気ままに、木魂を切り、彫り、削る事にした。

続く。








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