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短編小説女将さんと大将の居酒屋始末記2 (1677字)

大将と常連客で女将に協力し店を続ける。盛り上げる。
さっきまで、他人事の様に、はしゃいでいた女将さんが、ハンカチを目頭に当てて、じっと聞いていた。
常連客の四人と大将は、どうやつてお客に理解してもらい、居酒屋を続けられるか話し出した。
全員の注目を集めた認知症患者の河合克之が続けて言った。
「とにかく忘れます、自分自身がバカに成っていくのが、日に日に解ります、それが怖いのです。怖くて、怖くて、寝たら、朝になったら、またもっとバカに成っていると思うと、寝れないのです。」
女将さんが言った。
「私なんか、バカになる恐怖も忘れた感じがする。もう怖くない、それより、大将に怒られるが怖い、気を使われて、特別扱いされるのが、情けなくて、バカにされている様で、堪らなくいやなのね」
大学生の高島亜由美が言った。
「素人考えなんですが、頻繁にメモを取るのはどうなんでしょうか」
大将が言った。
「どうも、いつもじゃないらしいが、メモの意味も忘れる様なんです」
僕が口を挟んだ
「認知症のグループホームに勤めてますが、結局マンツーマンでくっいて介護しないと、対応できないのですね」
女将さんは、ハンカチで目頭を押さえて俯きカウンターをジッと見ている。
会社員で自身の母も認知症で介護もしている齊藤富治が言った。
「大将、営業中女将さんに介護士をつけたら、月に最低30万は掛かるな、それで店やっていけるの、それに金魚の糞みたいに一人くっいて、居酒屋の雰囲気は大丈夫なの、商売が赤字じゃ続かない」
大将は腕組みして、じっと壁に画鋲で止められたお品書きを見つめていたと思ったら、突然指差して言った。
「あそこの、大人のお子様セットて、あるよね、あれ女将が作ったのよ、ハンバーグとから揚げのセットでね、売れたのよ。なあ、女将、売れたよな」
女将が顔を上げ、品書きを見つめて言った。
「売れたわね、いい時代だった。何にも考えず、体だけ動かしていた」
大将が、独り言のように言った。
「忘れてないか、」
高島亜由美が合いの手を入れるように言った。
「女将さん、まだまだやれるよ」
他の3人が励ますように
「やれる、やれる、女将さんがんばれ」
と無責任に言った。
結局この日の話し合いは、認知症の新しい薬が出るとか、
認知症の人は他人に悟られないように、嘘をついたりして誤魔化す。
認知症は人によってタイプが違い、見当識が駄目になったり。
CTを撮ると頭が真っ黒になっている。
毎日毎日、意識がフェイドアウトする様に薄くなりボンヤリしてくる。
とか取り留めのない話に成ってしまった。
最終電車の時間がせまり、大将が話し出した。
「当面、女将は私の傍で働いてもらって、忙しい時は会計バイトの手伝いをして貰うようにします。みなさん、もし女将が粗相した時は、助けてやってください。この通りですお願いします。」
大将は深く頭を下げた、少し遅れて女将も深々と頭を下げた。
4人のお客も恐縮して、大将と女将以上に頭を下げた。

翌日の事だった、僕はレジ脇の指定席でいつもの様に熱燗をチビチビ飲んでいた。
昨日の今日であるからか、大将の傍で女将は大そう機嫌が良さそうだった。客が込んできて、レジが手薄となり女将が会計に出て来た。
大学生4人組の客の会計を女将が始めた。僕は脇で見ていた。
女将のレジを打つ手が止まり、チョット間をおいて、
取り繕うように女将が言った。
「今日は気分がイイから、ただでいいよ」
大学生は驚いて
「ただ。」
すかさず、
「御馳走様です」
と残して去って行った。
僕は
「女将さん、大丈夫ですか」
と言ったのだが、
「いいの、いいの、気分がイイから」
と、取り合ってくれない。
結局、この日は、無料の客が3組いた。
勿論大将には報告したが、
申し訳ないね、心配させてと笑って居るだけだった。
もしかしたら、素早く介護士30万の経費と損得勘定をしたのかも知れない。
口コミとは恐ろしいもので、女将が会計すると、ただの時があると。
しだいに広まっていった。その証拠に女将がレジに現れると、そそくさと会計に向かう客が増えた。
それと同じくして店の顧客が明らかに増えだし人気が出て来た。
次回へ











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