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「果て」の象徴 ジョン・オ・グローツ村 (初めての海外一人旅でイギリスを縦断した-10)

こんにちは。ゲンキです。
イギリス旅行記第10回は、イギリスの北東の端っこにある村「ジョン・オ・グローツ」編をお届けします。


~旅の概要~

鉄道が好きな僕は、鉄道の祖国であるイギリスを旅することにした。「果て」の景色を求めて本土最北端の駅「サーソー(Thurso)」から本土最南端の駅「ペンザンス(Penzance)」を目指す旅である。遠く離れた異国の地で、僕は一体何に出会うのだろうか。(2023年3月実施)

↓第1回をまだ読んでいない方はこちらからどうぞ。



7:00 Sandra's Backpackers Hostel, Thurso

今日でイギリスに来て4日目だ。ここはイギリス最北の鉄道駅がある町、サーソー。もうイギリス本土のてっぺんまで来たも同然だが、実はサーソー駅とは別にもう一つ「北の果て」を象徴する場所がある。今日はそこに行ってみようと思う。

ナミビアから来た同室のサバナくんはまだぐっすり眠っている。彼を起こさないよう静かにドアを開け、共用のダイニングへ向かう。

ダイニングの椅子にはダンディーな白髪のおじさんが一人座っていた。昨日は会わなかったので別の部屋に泊まっていた人だろう。「Good morning!」と挨拶すると彼も笑顔で言葉を返してくれた。

キッチンにあるものは自由に食べたり使ったりしていいそうなので、棚からお皿とスプーンを取り出し、シリアルに牛乳を注いで朝食にする。

おじさんの名前はダンさん、スコットランド南部のスターリング(Stirling)出身とのこと。旅をしながら日記をつけているそうで、上から下まで文章がぎっしり書かれた大きくて分厚いノートを見せてくれた。「将来について考えたこととかをメモしてるんだよ」と説明してくれるダンさん。

けっこう気が合ったのでまだ彼と話がしたかったが、あいにく僕はもう行かなければならない。ダンさんにお気をつけてと告げ、昨晩洗濯に出しておいた服を回収して荷物をまとめる。
結局サバナくんは最後まで起きてこず、無言で出ていくのも寂しいので、無理矢理起こしてでもちゃんと挨拶することにした。彼は眠そうだったが、「お互い良い旅を!」と最後にちゃんと言葉を交わせた。階段を降り、鍵をレセプションのポストに返却してチェックアウト。


7:55 Sir Geoges Street Church Stop

これから乗り込むバスの行き先はJohn o'Groats(ジョン・オ・グローツ)。日本人には全く馴染みのない地名だが、「イギリス縦断」をするならぜひ立ち寄っておきたい場所だ。

バスは僕一人だけを乗せてサーソーの町を離れていく。すぐに建物もまばらになり、ひたすらに平坦な草原の真ん中を走る。

古城らしきものが見える
ときどき住宅街を通過する。意外と人が住んでそうな雰囲気

バスの状態がちょっとよろしくないようで、アスファルトの段差を越えるたびに車体や座席が「ギャギャギャギギギ!!!」と不安になる音を立てて軋む。エンジントラブルがあったのか、数分ほど路肩で停止して運転士さんが確認に行くようなこともあった。

曇り空、薄暗い緑、枯れた草木。どこを見ても色彩が薄い。このあたりは有史以来一度も開発されたことのない原野のようだ。冬だから一層寂しさが際立つ。

これほどまでに「荒涼」という言葉が似合う風景もなかなかないだろう。

対向車がバスに道を譲ってくれる
築100年超えてそうな石の家
もうすぐ終点



8:50 John'o Groats

サーソーから約50分で海沿いの小さな村・ジョン・オ・グローツに到着。この村はサーソーからさらに東に25km進んだところにあり、まさに本土の端っこだ。途中乗ってくる人はなく、乗客は最後まで僕一人だけだった。

乗ってきたバスはどこかへ行ってしまった

そもそも人口が少ない地域なので、バスの本数も1、2時間に1本しかない。今回僕がジョン・オ・グローツに滞在できる時間は、帰りのバスが発車する9時15分までの25分間だけ。それを逃すと、この寒い中で2時間ぐらい待つことになってしまう。
というわけで早速目的のものを見に行こう。バス停のあるロータリーから海の方に向かって少し歩いたところに、まさに「イギリス縦断」の旅にふさわしいモニュメントが設置されている。


それがこちら。

JOHN O’GROATSと書かれた柱を中心に、ニューヨークやロンドンなど各地への距離が示されている。いわゆるサインポストと呼ばれるものだ。遥か遠い場所に想いを馳せるように、白い道標が一本、冷たい北の海を背に佇んでいる。

とても端っこ感のある場所だが、実はここが本土最北端という訳ではない。本当の本土最北端はサーソーとジョン・オ・グローツの中間に位置するダンネット・ヘッド(Dunnet Head)という半島である。なぜジョン・オ・グローツの方が有名なのかというと、それにはこのサインポストととある場所が関係している。


サインポストをよく見ると、距離が示されている場所の中にLAND’S END (ランズエンド)という地名があるのがわかるだろうか。「地の終点」を意味するその場所こそ、北東端のジョン・オ・グローツと対になるイギリス本土の南西端なのである。そしてランズエンドには、ジョン・オ・グローツのものとほぼ同じ形をしたもう一つのサインポストが置かれているのだ。

(©OpenStreetMap contributors)

北の「ジョン・オ・グローツ」と南の「ランズエンド」。
それぞれに置かれたマイルポストは2つで1セットのような存在であり、ともに「果て」を象徴するアイコンとして人々に親しまれている。特にその事がわかるエピソードが、2012年のロンドンオリンピックでランズエンドが聖火リレーのスタート地点として選ばれたということ。それぐらいイギリス国民には「端っこと言えばここ!」的な認識が定着しているのだ。

またこれら2つのサインポストを結ぶ1000kmオーバーの行程は徒歩やサイクリング、ドライブでイギリス縦断する際の定番コースとなっており、その道のりは「End to End(端から端へ)」とも表現される。同じように「From Land’s End to John o’Groats」という表現も「端から端まで」という意味で通じるという。
とまあこんな感じで、本当の最南端・最北端よりもこれら2地点の方がイギリスでは知名度が高いのだ。

今日は天気も良くないし朝も早いし、というかオフシーズンなので、僕以外に観光客はいなかった。港にも人の気配がない。空気は冷たく、手袋を外してスマホで写真を撮る数秒の間に指先が痺れてしまう。海の水は透き通っていて、水中の岩までよく見えた。

小さな港
売店やカフェはけっこうある
「道の終わりコーヒーショップ」
これはホテルらしい
地層の見える海岸


ギフトショップ

僕はあまり旅先でお土産を買わないタイプなのだが、今回ばかりは何か記念になるものを買いたくなった。こんな辺境にも意外と売店はあるもので、しかも驚くことに朝9時から営業してくれていた。店内には服やマグカップやペンやバッジなど、多種多様なおみやげが売られている。僕は商品棚からポストカードを1枚取って、レジのお姉さんのところに持って行った。

なんとなく誰かに自慢したくなって、店員のお姉さんに「僕日本から来たんですよ!」と言うと「遠くからわざわざここへ!?」と驚いていた。当然ながら一人旅だと会話の機会が少ないので、こうやって人とコミュニケーションを取るのが楽しみになってくる。お姉さんが狙い通りの反応をしてくれて気持ちよかった。


25分の滞在時間はあっという間。もう帰りのバスがロータリーにやってきた。
いや、帰りのバスと言うより「新たな旅の第一便」と呼ぶべきかもしれない。

そう、僕はこれからランズエンドに行きます。


次の目的地はイギリス最南端の駅「ペンザンス(Penzance)」。ペンザンス駅はその立地から必然的にランズエンドの最寄り駅なので、ぜひついでにランズエンドにも行っておきたい。鉄道旅のおまけ程度とはいえ、まさにEnd to Endの旅である。

それなりに苦労しつつ最北端まで来て「着いたーー!」と思ったら、間髪入れずさらに長距離の移動が幕を開けた。むしろ今までが超長い序章で、ここからが本番かもしれない。今思い返すとなかなか気が遠くなることをやっているが、当時の僕は一切そんなこと感じていなかった。

小走りでサーソー行きのバスに乗り込む。来たばかりの道を引き返すように、ぬるっと新しい旅が始まるのであった。


つづく




というわけで、イギリス旅行記第10回は以上になります。

更新が長く止まってしまいすみませんでした!!!
実は前回の記事を更新した後、3週間ほど山陰と四国を旅しておりました。言い訳に聞こえてしまうかもしれませんが、旅している間はその旅に集中したいんです!!!(というか旅以外に集中できなくなる)
ともかく、楽しみにしてくれていた皆さんをお待たせしてしまったことをお詫び申し上げます。今後、長めに更新停止する時はなるべく事前に告知するようにしたいと思います。

あともう一つ。この度noteのフォロワーが100人を突破しました!!
今ではこれだけ文章を書いている僕ですが、昔はかなり作文が苦手だったのです。中1の頃には「シュガーラッシュ(小説版)のあらすじを要約しただけ」とかいう先生も呆れるような超絶低クオリティの読書感想文を書いたこともあります。
そんな僕でも、やっぱり言葉にしてみたい感情や誰かに聞いてほしい話があったのです。そうして書き始めたのがこの旅行記シリーズでした。それを今これだけ多くの人に読んでもらえるのは、とても幸せなことだと感じています。「書きたいことを書く」こだわりに加えて、「どうすれば人に伝わるか」という視点が僕の文章力を成長させてくれました。これからも面白い文章、美しい言葉を作り出せるよう精進して参ります。

次回、第11回は最北の町で出会った紳士「ダンさん」編をお届けします。お楽しみに。

それでは今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!


↓第11回はこちら





(当記事で使用した地図画像は、OpenStreetMapより引用しております)

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