見出し画像

展覧会ができるまで(美術館の舞台裏)vol.9【図録を制作する】

美術館で展覧会が開催されるまでの工程を、学芸員の立場からひとつひとつ解説していくコーナーです(前回の記事)。
だいぶ進んでまいりました。

全工程はこちら(↓)をご覧ください。

15. 図録を制作する

展覧会といえば、図録ですよね。

出品作品の図版がカラーで掲載されていて、その作品についての解説文があり、また展覧会全体のテーマについてのある程度まとまったテキストが載っていたりする冊子のことです。展覧会会場内にサンプルが置いてあることも多いですよね(帰りに買ってね、という意味で)。

この展覧会図録、かつては薄めの小冊子という感じでしたが、年々装丁も立派になり、カバンに入れて持って帰るのをとまどうような、分厚く重たい豪華図録へと変貌してきました。
まぁ、そういった豪華本が2,000円〜3,000円程度(と言っても、全然安くはありませんが)で販売できるのは、それだけ大量に部数を発行するからであって、大手の美術館・博物館に限りますね。
私のいるような小規模美術館は、たいした部数を発行できるわけではないので、なんとか手に取ってもらえる価格におさえるため、印刷コスト、紙のコストもろもろをにらみながらの制作となります。

工程的には、前回触れたチラシ、ポスターの作成と並行して行います。
図録の表紙と、チラシ・ポスターのデザインに統一感を出すために、両方同じデザイナーさんにお願いすることが多いですね。

で、図録の制作に関する一部始終は前に書いていたので、そちらのリンクを貼っておきます。これを読めば、一発で理解できちゃいます。

昨今は、出版社と美術館が組んで展覧会図録を作成し、ミュージアムショップで販売するだけでなく、ISBNコードをつけて全国の書店で販売する例が増えてきました。みなさんも書店の美術コーナーで見かけた記憶があるのでは?

小学館や講談社のような大手出版社が手がけることもありますし、美術書を専門とする東京美術、求龍堂、青幻舎などもこの手の図録制作を得意としています。

この場合、基本的に印刷・製本費用は出版社が負担してくれますし、ふだん美術館に行かない人にも書店で手に取ってもらえるので、メリットは大きいです。ただ、当然ながら出版社も商売なので、ある程度売り上げが見込めるような展覧会内容(人気作家、魅力的テーマ)でないと、そもそも成立しませんけどね。

***

振り返ってみると、図録に関しては過去に何度か関連記事を書いてました、私。やはり学芸員にとって、割く労力も大きく、それだけにやりがいもある部分だからだと思います。よければあわせてお読みください。

いやー、図録作りはほんと大変なんですよ。
巻頭テキスト、作品解説、コラム、参考文献一覧、作家年表などなど、執筆しなければいけない原稿のボリュームが半端じゃないですからね。
そういうことをやっているから、noteに2,000字、3,000字ぐらいの記事を書くのが特に苦にならず、こうして続けていられるのかもしれませんね。

それに、表紙デザインや中のレイアウトをあーでもない、こーでもない、と悩みながら、デザイナーさんと煮詰めていくのも楽しいですし、納品された完成物を手に取った時の満足感は癖になります。

そんなわけで、展覧会準備の中でもかなりのウェイトを占めるのが、この図録作成というわけなんです。


つづく

美術館の舞台裏のさらに裏の話は、ときおり限定記事で配信中。
興味のある方は「オトナの美術研究会」まで!

美術作品や美術館について質問や相談がある方はフォームからお気軽に。