図録がまだ小冊子だった時代[展覧会図録と著作権のはなし]
ここ2回ほどnoteで展覧会図録について書きました。
そこで言い忘れたことというか、図録を制作する際の著作権の取り扱いについて追記しておきます。
著作権についてもこれまで何度か触れてきましたが、創作活動とは切っても切れないものなので、美術館で仕事をしていると嫌でも詳しくなります(それにしても、我ながら結構書いてるもんだ)。
では、著作権について軽くおさらいです。
展覧会図録には、作品の図版が掲載されます。その場合、著作権のことをクリアしなくてはいけません。二つの意味で。
一つは、作家の著作権。
もう一つが、写真を撮影したカメラマンの著作権です。
一つ目の、作家の著作権は説明不要ですね。
展覧会に展示した作品の作者が、現役、もしくは没後70年が経っていない場合、著作権保護期間にあたるので、作品を複製、つまり図版として印刷するためには、著作権者(作家本人、または作家ご家族)の許可をもらわなくてはいけません。たとえ、美術館の収蔵品であっても、美術館が勝手に印刷することはできないのです。仮に著作権者が「掲載NG」と言った場合は、展示している作品であっても、図録には載せられないことになります。
もう一つのカメラマンの著作権については、少し解説が必要でしょう。
図録に載せる作品の写真(フィルムや画像データ)は、たいていの場合プロのカメラマンに撮影してもらったものです。
写真も創作物のひとつです。つまりその写真の著作権は、撮影したカメラマンが保有していることになります。ですから、図録に図版として使う時に、カメラマンにも許可をとる必要があるのです。
といっても、どんな写真でも著作権が認められるわけではありません。慣例として、立体物(工芸作品や建築物)の写真は撮影者の著作権が認められる一方、絵画のような平面作品の写真は撮影者の著作権は不問とされます(もちろんケースバイケースですが)。
平面ならプロでも素人でも同じ写真が撮れるとは言いませんが、立体の撮影は照明の当て方やアングルなど明らかにカメラマンの技量が発揮されるので、出来上がった写真も著作物として認められるということです。
たとえば、古い陶磁器は作品そのものには著作権がありませんが、その写真には著作権があるということです。ややこしいですね。
まぁ、そんなわけで作家やそのご遺族、また撮影者などに連絡をとって、著作権使用許可をもらうというのも、学芸員の仕事になります。せっせとお手紙を書いたり、お電話をしたりします。書面手続きとクレジット表記で済む場合もあれば、いくらか著作権使用料をお支払いする場合もあります。
さて、昔からこうやってきちんと著作権の手続きがなされていたかというと、全然そんなことはなくて、それはもうゆるゆるでした。
著作権法の中にこんな一文がありまして
つまり展示する作品を紹介する小冊子なら、著作権のある作品であっても美術館の方で図版に使っていいですよー、というのです。
図録はこの「小冊子」にあたるものとみなして、著作権使用許可なんて取らずにかつての学芸員はばんばん図版使用していたわけです。たぶん皆さんは昭和の展覧会図録とか見たことないと思いますが、「うん、たしかにこりゃ小冊子だ」と納得できるようなペラペラのモノクロ印刷のものが多かったりします。
でも、だんだん図録のクオリティが時代とともに上がっていき、図版はフルカラー、装丁も立派になり、今はどの美術館にある図録を見ても、とても「小冊子」とは呼べないものになっていますよね。
てことで、この47条を振りかざして勝手に図版使用することはできなくなったというわけです。
のんびりした時代もあったんだなぁ、というお話でした。
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