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展覧会ができるまで(美術館の舞台裏)vol.8【チラシ、ポスターを制作する】

美術館で展覧会が開催されるまでの工程を、学芸員の立場からひとつひとつ解説していくコーナーです(前回の記事)。
だいぶ進んでまいりました。

全工程はこちら(↓)をご覧ください。

14. チラシ、ポスターを制作する

さて、展示する作品の写真(素材)がすべて揃いました。

この写真を使って、広報物と展覧会図録を作成するのですが、今回は広報物について話をしましょう(図録は次回)。

広報物にも色々ありますが、王道はチラシとポスターですよね。みなさんもよく見かけると思います。
予算があれば、さらに色々な媒体(街中の広告、駅の広告、WEB広告)に向けたものも作ったりしますが、話が広がりすぎるのでここでは割愛します。

正直、このチラシ・ポスターの出来如何で来館者数が大きく変わります。
どんなに展示内容にこだわっても、まず足を運んで中に入ってもらわなくては伝わりませんから、アイキャッチとしてのチラシ・ポスターの役目は重大です。

さらに言えば、そのヴィジュアルが、展覧会のイメージそのものを決定づけます。
なので、ポップな感じ、厳かな感じ、クラシカルな感じなど、どういったテイストで展覧会を打ち出していくのか、学芸員はその方向性をしっかり定める必要があります。

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広報物を作成する時に、必要不可欠な存在がデザイナーと印刷会社です。

学芸員はデザインはできません。
いや、素人仕事ででっちあげることがないわけではありませんが(そのあたりに詳しく触れた記事→「誰もがちょっとデザインできる時代に生き残るデザイナーの話[学芸員の仕事論]」)、ある程度ちからを入れた展覧会ではきちんとプロに頼みます。

さて、では誰に頼むのか。
個人のデザイナーか、はたまたデザイン会社か。

展覧会のコンセプト、企画内容から合いそうな人を探さないといけないのですが、とりあえず今まで仕事をお願いした中でマッチする人がいるかどうか考えます。
やはりデザイナーさんにも個性・色があるので、その得意な方向と展覧会のイメージが合うかどうか考えなくてはいけません。

このあたりのことは、以前詳しく書いたので(↓)あわせてご覧ください。

そして、予算面も当然ながら無視できません。
デザイン料って相場があるわけではないので、いつも悩みます。
今まで発注したことがないデザイナーさんの場合、「この人はいくらぐらいでやってくれるんだろう?」というのが皆目わからないわけです。とくにこちらの予算がカツカツだと、相手に失礼かと思ってしまい二の足を踏みます(小心者)。

なので、ついつい以前もお願いしたことがある、デザイン料の見当が付きやすいデザイナーさんに再度依頼をしがちです…。
でも、巷には数え切れないデザイナーさんがいますからね。できれば色々な人と仕事をして、引き出しを増やしていきたい気持ちもあります。難しいところです。
みんなどうやっているんだろう…。

ちなみに、他の美術館のチラシなどもチェックしていて、気になるデザインのものを見つけたら取っておきます。いざという時は、そのデザイナーさんを紹介してもらうこともできますからね。

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まぁ、そんななんやかんやでデザイナーが決まったら、そこから打ち合わせです。

素材となる作品写真を見せ、その中で目玉になるのがどれなのかを学芸員の立場からデザイナーさんに説明します。
それから展覧会のコンセプトやなんとなくのイメージを伝えます。
あとチラシやポスターの判型とかも(そこからデザイナーと相談する場合もあり)。

デザイナーさんから、方向性を決めるための試案を何パターンか出してもらい、そこから一つにしぼって、細部をつめていく、というのが王道の流れでしょうか。
人によってやり方は色々だとは思いますが。

デザイナーさんによっては、色々な変化球的提案をしてくる人もいます。
印刷の加工で特色を出そうとか、A4判のチラシを想定していたけれどこれを見開きにしたらどうか、とか。
そうした提案を受け入れるかどうかも、懐具合次第です。

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そこで印刷会社との相談です。

印刷会社も千差万別です。
大きな会社、中規模な会社、ネット印刷の会社など。

大きなところだと、企画からデザインまですべて一社でこなせる設備と人材が揃っています。いろんな意味で話が早く、手間がかからないので楽ちんですが、当然お値段も高めです。

逆に、昨今はネット印刷が充実してきました。たとえば格安印刷でおなじみの株式会社グラフィックなど。
いまのネット印刷は、単純なチラシだけでなく、製本の細かな仕様まで対応しているので、かなり助かります。
ただし、色味の確認をスクリーン上でするしかないので、シビアに美術品の色にこだわる場合は使えません。

というわけで、中規模な印刷会社が結局とても頼りになるのです。
美術館の近場の会社だと印刷会社の営業さんと気軽に打ち合わせができるので、そこで「使う紙を変えたらどれぐらい見積もりが変わるか」「特色印刷にしたらどうなるか」「変形版のサイズにしたらどうか」など問い合わせたり、色校正の段階では実際の紙に刷った見本を持ってきてもらい、「この赤はもう少し強く出したいですね」とか細かな指定をしたりもできます。

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こうして、美術館側のイメージをデザイナーさんの力で具現化してもらい、それを印刷会社で大量印刷してもらって、ようやく広報物(チラシ・ポスター)の完成です!
チラシが納品されると、いよいよ展覧会間近だなという気になります。


つづく

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