小ぎたない恋のはなしEx35:HAKOBUNE for Noa
▼粗筋
かつて共に下校していた鳴海月(なるみ-るな)という少女の名前を大人になった僕は思い出せない。僕は電車でどこかに向かっている。名前を思い出そうとしているがそれどころか、人生上に彼女がいなくなってから見知った社会構造のいびつさや組織体制への恨み事ばかり思い出される。所属組織を辞めた僕は電車の中で僕の体の中に寄生していたという一人の蜘蛛と話している。
▼前回
https://note.com/fuuke/n/na4e22feb7f1f
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果たして蜘蛛は僕に感謝しているらしかった。僕が彼(彼女?)に促した退避行動を蜘蛛は僕を評価するための指標として捉えていた。
蜘蛛が僕の体内にいるという驚愕すべき事実に僕はまだ向き合えていなかった。しかも僕と同化したことで生命体としての命のあり方ではなくなってしまった。この世の理の外にいるこの蜘蛛は実際には蜘蛛とすら呼ぶべきですらない生命体であるように思える。僕は僕の中で液体になって生きている(生きている?)彼女/彼についてどのように受け止めるべきなのかすら見定まっていないまま、彼女/彼の始めた話を聞き続けるしかなかった。
「私は……君と同化して、君の一部となり、君の血液と溶け合い、君のからだじゅうを巡るようになって、生命の道を外れたことになんとなく気がついた。この溢れ出る思考能力もそれを裏付けたひとつだろう。そしてそれとは別に、なぜそのような力を手にしたのかもわからないのだが、もう一つ私の中……むしろ君の中と表現した方が正しいのだろうか、新しい力を持っていることに気がついた。それは私に流れ込んでくる君の経験や体験に対する波紋、その感情の揺れ動きかたが映画のように私の中で再生されることだ。さらにその映画には続きがあり、君がその後どのように過ごすのかがわかる」
僕の人生が映画になって再生される?
「映画の続きはただの続きじゃなかった。私が君の中に棲み始めてからというもの、私が見定めた限りこの映画で再生される君に起こりうる行動とは実際に起こってしまうものらしい。だから私は……少なくとも君についての未来予知ができてしまっているようだ」
僕の身体の中にいる蜘蛛が、なぜか僕の未来を知っている。
「予知といっても、別に私が君を守ってやろうとか、あるいは宿主である君の生命の危機をリスクヘッジすることで、自らの置かれた環境を守ろうという欲求により自発的にしているわけではない。勝手に私の脳裏とでもいうような場所に映像が送られて来るのだ。私には今まで脳が自分にあるのかどうかすらもよくわかっていないまま生かされる人生しかなかった。だからこの映像が届く場所が私の脳という部位なのかどうかいまいち自身がないため、便宜上そうしておこう。このように自動的に、勝手に送られる君の未来の映像はその時時により変わり、今は数時間……数日後の君が何をするのかが見える」
蜘蛛は話し疲れたかのように、肩を落として足を曲げた。結果的に体躯が低い位置に落ちたことになる。
「数時間後、あるいは数日後の君は同じように電車に乗っている。そこに同様に私が内在しているかどうかまではわからない。もしかしたらその時までには私の自我が君と分離しているのかもしれない。そこまではわからない。君は淡々といま私が乗っているデバイスで人の日記を読んでいる。君の未来残留思念から聞こえる情報によれば君の後輩が書いた日記らしい。HAKOBUNE for Noaという題名のようだ。君は初めて社会の洗礼を浴びたという後輩の置かれた環境を知り、このように書いて励ましてやろうとしているみたいだが、私に言わせればしないほうがいい。ただ、私がこのように君の未来を変えようとして過去である現在に干渉したことがないので、未来が変わるかどうかはわからない。私は私の倫理にしたがって、しないほうが君のためなんじゃないかと思ったことをシェアしているだけに過ぎない。君が後輩に言っている文の内容はこうだ」
noa
お前は掛け値なしに俺たちの光だ
お前のさらけ出した心を見て、お前のことを病気だと認定したり、おかしな状態に陥っていると決め打ちし、お前を馬鹿にする、侮辱する奴らを目にしようとするな
居場所がないから殴ってくるような、匿名のゴミ以下の連中に関わるな
それは弱者=叩いていいとかガチで脳死で信じ込んでる病気以下の手遅れだ
仮にお前が病気だったとて、ジャンルもレベルもお前に匹敵などしない「本当に手遅れで、何の手のつけようもない、価値がゼロの存在」だ
そもそも弱者とはなんだ?風邪を引いたら弱者なのか?
精神疾患に陥ったらそれは病気で弱者なのか?
外的疾患を負ったら、さらには当該部分を欠損してしまったら弱者なのか?
そのせいで便宜上、自治体で受けられる障碍者共済を受けたら社会的弱者なのか?
弱者に分類されたら弱者なのか?分類してくる奴らとはなんだ?
それはお前が見る必要のない屑虫だ
どこでだって生きられない本物のやくたたずだ
お前はそんなもの意に介さないと信じている
お前はそんなものに影響される必要がない
お前はそんなものを視界にすら入れることがないと信じている
視界に入れたとて、路傍の石以下の気に留める必要もない事象として処理すると信じている
お前が進む道は今、こんなにも輝いている
俺はそう思っている
▼次回
▼謝辞
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