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小ぎたない恋のはなしEx25:さよならリターゲッティング広告

▼粗筋
かつて共に下校していた鳴海月(なるみ-るな)という少女の名前を大人になった僕が電車の中で思い出そうとしている。僕は電車に揺られてどこかに向かっている。名前が思い出せないどころか、人生上に彼女がいなくなってから見知った社会構造のいびつさや組織体制への恨み事ばかり思い出している。

▼前回

https://note.com/fuuke/n/n504b085eafd6

僕は待ち合わせの時間を予測するために携帯を開く。スマートフォンのロックが解除されて映し出されたものはある文の羅列がなされたサイトだった。

それは僕が今考えているような言葉群を文にして投稿するためにある単なるブログだ。メールアドレスさえ所有していれば猫だって持てるサイトだ。別に猫をばかにしているわけじゃない。猫にサイトなんて必要なく、サイトから魚の切り身が寄越されるわけがない。

サイトにはいらない機能というか広告が山積みになっていて辟易する。リターゲッティング広告の中には、僕の個人情報を潔く吸い取っているさまを隠し立てもしないような連中が渦巻いていると思うと反吐が出る。

僕は普段勿論そのようなリターゲッティングなどすべて消しているが、こと携帯上ではそこまでうまく行かないことがある。こと携帯は広告代理店どもに最適化されている。こと携帯アプリはマーケターに最適化され、個人情報を明け渡すようにあらかじめ設定されていてさらに反吐が出る。

携帯で開いた僕の画面では僕の文の羅列が終わった位置に、終わった位置というか以前の文を編集してプレビュー状態で待機させてただけなんだけどそこに「このブログを読んでいる人はこんなブログも読んでいます」みたいなコーナーが表示された。

そんなもの飛ばして、更新ボタンなり一時保存ボタンなりを押すなりする。だけどその時はブログの題名とかはどうでもよく、ブログ所有者のIDみたいなものがあり、目を奪われてしまった。

なぜならそのIDは僕の後輩が別の場所でよく使っていたIDに酷似していたためだった。翻ると表示されていた哲学的なブログの題名も彼に似ている気がした。

僕はリターゲッティングが位置情報すら悪用しているのだろうかと、後輩との妙な再会を喜ぶ前に憤ってしまった。位置情報は個人情報としてりようしてませんよーみたいなスタンスを見せつつ、僕が後輩ぽい人のブログを自分の所轄内で推薦されているということは、同じ学校を卒業しておおよそ未だ僕と割と近い位置で何らかの生活をしているだろう後輩の位置情報も同時に奪い、利用することで推薦アルゴリズムの算出に役立てているのだと思うと腹が立たなくてなんとする。

僕はこのIDの保持者が彼だったとして、彼がどこか遠い場所に要ると良いと思った。そうすればブログサービス提供企業が決して僕のデバイスから盗み読んだ位置情報を悪用していない証明になるからだ。

でもすでに連絡をとっていなかったから確かめようがない。僕は彼より2つ歳が上だったが、当時からそんなことは気にならなかった。僕は彼に物理的に支えてもらう事が多く、僕は彼を精神的に支える事が多かったように思う。

でも精神なんて何の役に経つだろう。そんなのただの奢りじゃなかったか。

そして僕はいま覚えた思いをこのようにそのブログへ投稿した。もちろん僕や後輩のサイトの名前が第三者にはわからないように。

▼次回

▼謝辞
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