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小ぎたない恋のはなしEx27:きみとアタシとアパシー

▼粗筋
かつて共に下校していた鳴海月(なるみ-るな)という少女の名前を大人になった僕は思い出せない。僕は電車でどこかに向かっている。名前を思い出そうとしているがそれどころか、人生上に彼女がいなくなってから見知った社会構造のいびつさや組織体制への恨み事ばかり思い出される。

▼前回

https://note.com/fuuke/n/nc34e3602bb3a

彼が訴えかけていたのは(訴えかけ、といっても勿論、彼は自分のページを大々的に世間に向けて発する行動は伴っていなかった。ページの宣伝ができる寄り合いや検索エンジンにクロールされやすくなる場所へのリンク送信をしていなかった)、どうして俺は思い悩まなければならないのだろうという事自体についての悩みだった。

若きウェルテルの悩みという言葉ばかり有名になっていると僕は思っているが、自殺してしまいそうな程の恋だの愛だの以外にも若くして悩まれがちな問題は存在すると考える。

つまり彼の悩みもそのあたりに該当するんじゃないだろうか、と捉えてしまった。これは僕が彼を甘く値踏みしていることの証左になってしまうのではないだろうかとも想起された。

たぶん彼は幸せなのだった。自分が置かれている環境が自分に合致しており、能力相応のタスクを日々こなせている。その視界にそうではない人が映ってしまった。つまり彼は自分以外の従業員に対して哀れみの視点をえてしまったんじゃないだろうか。

想像される行動はこのようである。彼は日記の中で自分より年上の待遇がよろしくない職員を見かけた。彼は彼なりにきちんと働いているらしい。

僕の後輩はその職員がなぜそんな待遇で文句も言わないのかがどうしても気になったそうだった。そしてこの世の理不尽を嘆いた。

僕はそれを別に悪いことじゃないと思うけど、それだけだとどうしても彼が与えられた職場の達成目標が非常にアパシーかボアダム状態にあるだけにしか思えないのだった。

つまり彼の能力不相応な職務が与えられており、彼はそんなに簡単なことをしているのにもっと大変な働きをしている人を見て、どうして俺より頑張っているのに俺より稼ぎが低いのだろうと哀れに思っていた。

それを見て僕は、彼はなんて余裕のある人生を送っていたのだろうと思った。今の彼はどうなのか知らない。しかしながらひととき社会への射出を余儀なくされてその世界を不安に思っていた彼にとって、得られた世界はいかにも拍子抜けで安全な世界だった。

安全どころか、何の刺激も感じられなかったのだ。僕はそれを羨ましいと感じた。

もっとも今の彼がどのようなひどい目に合っているのか、あるいは管理者なる立場となり、より辛辣な裁定を現場に下しており、かつて抱いたこのような思いすらすっぽ抜けたフロー状態にあるのかも知れない。人を切り捨てることが彼のフロー状態なんだったとしたら、僕はどのような顔で彼に再会すべきなのかが正しいのか全く考えに及ばなかった。もはや僕と彼の接合点は永遠に失われてしまったのかも知れない。

▼次回
(URL)

▼謝辞
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