有名出会いましょう
リビング。
そわそわしているお父さん。
(ちょっと緊張するなあ。
なんか結婚相手、
紹介されるみたいで…。
どんな子だろう…
息子が連れてくる子だ…
きっといい子に違いない。
でもやっぱり緊張する~。
そうだ。
考え方を変えよう。
娘ができたと思えば…
いやいや…それは行き過ぎ。
余計緊張する…そうだ!
息子の幼馴染みが、
久しぶりに遊びに来る…。
これならいいんじゃないか?
そう思えば気も楽だ…そうしよう。
そして温かく迎えてあげよう。
うん、それがいい!
でも相手の子も、
急に恋人の両親と夕食なんて、
よく承諾したなあ。
私なんて相手の両親に会うのに、
半年も心の準備が必要だったけど。
それに父さんの時は、
最初の会食はレストランだったし。
とても相手の実家なんて…
父さんのハートでは無理無理…。
息子はママの手料理を、
食べさせたいからと言って、
彼女を誘ったようだけど…
今の子の感覚は凄いなあ。
でも彼女にすれば、
ここはアウェイなんだよなあ。
少しでも彼女が緊張しないように、
表情を柔らかく…。
笑顔の練習しよう!
スマイル♪スマイル♪
おっ、そろそろ来る頃じゃないか?)
ピンポーン!
「は~い!ほら、パパ」
「ああ」
「ただいま」
「こんにちは。お邪魔します」
(高めのハキハキとした声。
それでいて少し鼻にかかった、
甘ったるい感じだけど…
寄り添うような優しい声のトーン。
ん?…この声…なんか…)
「父さんただいま、連れてきたよ」
「こんにちわ。
はじめまして、如月と言います。
本日はお招きありがとうございます。
これはつまらないものですが、どうぞ。
お父さんが甘いものが、
お好きだと聞いたので、
私の行きつけのお店で買ってきました。
お口に合うと嬉しいです」
(……?
………?
…………?)
「お父さん?」
「ちょっとお父さん。どうしたの?」
(はっ!何っ?!
何が起きた?!
いま意識あったか?
いま呼吸してたか、私?
息子がリビングに入ってきて…
その後……
この人…
そう原因はこの…
息子!
バカーー!
父さんお前に対して、
初めてバカって言ったぞ!
お前は…何てことを!
その人は…あれだ…
ここに連れてきちゃ、
ダメなお方だ!)
「そこ座りなよ」
(待て待て待て!!
座らすな!!
おいっ!
しかもよりによって正面!
近い近い近い!
近すぎるって~!)
「え~と紹介するよ。
大学の同じサークルで知り合った、
如月芽衣さん」
(おい……息子よ。
お前…気付いてないのか?
まさか…
そのお方をご存じない?
嘘だろ?!
このお方は…
国民的アイドルグループ、
S☆mileのセンター、
如月芽衣さんだぞ!!
デビューから、
7曲連続オリコンチャート1位!
最新曲は8周連続1位を継続中!
その曲のMV再生回数は9千万回!!
それを…お前は…
なぜ?知らない…息子よ。
S☆mileの絶対的センターが、
お前の隣りに座ってるんだぞ!!
今まで親孝行なお前は、
私たちに心配など掛けたことはなかった。
でも父さんは急に不安だ!
今この瞬間から!
お前は誕生日はおろか、
父の日も忘れたことのない優しい息子だ。
いつも父さんが喜ぶものを、
リサーチしてプレゼントしてくれた。
嬉しかったよ…ありがとう。
でも父さん、これは頼んでない!
父さん、みんなに隠し事してた。
そう父さんはこのお方のことを、
神と崇めるほどの大ファンなんだ!
そうこのお方は、
父さんの神…絶対神!!
父さんいま…
このお方が神々しくて、
まともに顔を上げられない…
眩し過ぎて直視できないのだよ…。
御本人を直接見ることなど、
恐れ多くて…。
実は父さんコンサートに、
行ったことないんだ…。
なぜなら…
涙で何も見えなくなるから。
当然、握手会にもいけない…
なぜなら、1メートル以内の接近で、
恐らく父さんは意識を失うだろう…。
今、神との距離は…
1.2メートル…限界ギリギリだ!
この状況…
どうしてくれるんだ…
孝行息子よーーー!!)
「パパ、一体どうしたの?
さっきから黙っちゃって。
緊張して…
まあ~パパ、号泣じゃな~い。
パパそんなに嬉しかったの?
このお菓子?」
「父さん、良かったねぇ。
彼女のお土産が、大好きなお菓子で」
(ズマイル~ズマイル~)
つづく。
お疲れ様でした。