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小説に近いもの

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書いたもののうち、小説だと思うもの
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#毎日更新がんばる

くつ屋のペンキぬり-15(小説)

「こればかりは信じていただくよりほかにありません」  男は、青年の目の奥のぎらぎらしたと…

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くつ屋のペンキぬり-14(小説)

「ほんとうに、なんて不躾なんだ」  青年は器を傾ける手を止めません。 「おれが酔っていると…

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くつ屋のペンキぬり-13(小説)

 カウンターの一番奥、大小と色のさまざまな酒瓶にほとんど埋もれたような席へその青年は座っ…

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くつ屋のペンキぬり-12(小説)

 聞きつけた場所まで行ってみますと、明るいうちから薄暗い、洞穴のような酒場でした。これは…

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くつ屋のペンキぬり-11(小説)

 図書館をぐるりとめぐって帰った翌朝、男は下宿の一画の狭い自分の城に、全財産を広げてウー…

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くつ屋のペンキぬり-10(小説)

 図書館の入り口には上等な敷き物が用意されていました。貴重な史料にうっかりと砂が混ざらな…

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くつ屋のペンキぬり-09(小説)

 室内に入るとすぐ、古い書物独特のつんとしたにおいが鼻を突きます。太陽のぎらぎらとした国にあって、館内に一定の涼しさに保たれ、湿ったような乾いたような空気は、静寂と相まってどこか懐深く誰をでも受け入れる場所に思われました。男はこの空気をめいっぱいに――といっても入り口で両手を伸ばして深呼吸もできませんから、そこはとても静かに――胸の奥、肺のずっと端のほうまで吸い込むと、やはり静かに吐き出して、それからやっと館内をよく"見上げ"ました。  商店の屋根々々の上に大きく高く見えただ

くつ屋のペンキぬり-08(小説)

 大きな建物のわりに、窓はずいぶんと小さく、太くて高い塔の上の方にばかり空いています。古…

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くつ屋のペンキぬり-07(小説)

 男は繁華街の真ん中を通って、時折脇道へひょいと逸れてみては、また真ん中の道へ戻ってを繰…

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くつ屋のペンキぬり-06(日記)

 その日はからりとよく晴れた、とびきり天気の良い日でした。この国はいつだって太陽がとても…

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くつ屋のペンキぬり-05(小説)

 それから三日か四日か、男は不要な持ち物を売っては今の住処に必要なものを調達して過ごしま…

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くつ屋のペンキぬり-04(小説)

 さあさあ、太陽の近くこの町で新しい暮らしの幕開けです。  とは言いましても、このとおり…

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くつ屋のペンキぬり-01(小説)

 ある男が、砂漠近くの暖かい国へやってきました。身にまとう衣服を少なく、少なくしながらや…

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白い女・黒い女-04(小説)

***  早央里の生まれた町はひどく寒くて雪深い土地だったから、昇降口で防寒ブーツを履いて外へ出ると、目に刺さるほど眩しかった。積雪に陽光が照り返して、視界がちかちかとする中に今日子がいた。余計にいつもコートが白く、ことさらに肌も白いから、ほくろのほかは、えくぼのわずかな影だけが彼女の輪郭みたいだった。おまけに今日子は、首の後ろの自分では見えない場所にあるほくろが気に食わないといって、隠せる限りいつもマフラーで隠していたから、いよいよえくぼとまつ毛の影だけが彼女を縁取るのだ