fuokumi

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湧いてきたものを書き散らかしています。同じようなツボをお持ちの方がいれば、スキしていただけると励みになります。

最近の記事

[短編小説] ホ・オポノポノ

いつだって、ワタシはここにいたのだ。 押し込められ、虐げられ、存在を無視され、否定され、この世から亡きものにされても、ワタシはいつだって、ここにいた。 最初は、「ここにいる!お願い、気づいて!」と、一生懸命声をあげていたけれど、いつしか、沈黙を守るようになった。 何を言っても、どう騒いでも、響かない。 誰にも、届かない。 どんな手段を使っても、何も変わらない。 変えられない。 もう、疲れてしまった。 喉が張り裂けんばかりに叫ぶことも。 爪が割れるくらい、壁を引っ掻

    • [短編] 涙の理由

      気がつけば、涙が流れていた。 ぽたり、ぽたりと、一雫ずつおちているそれは、いつしかとめどなく流れ、もう私の意思では、止めることができない。 彼を見つめながら、どうしようもなく、胸がしめつけられるのだ。 自分の好きなことを、夢中になって話している姿。 鼻歌を歌いながら、目を細め、次は何を歌おうかと、真剣に楽譜を見つめる眼差し。 子供みたいにちょっとおどけた表情も、芝居がかった大袈裟な所作も、一つ一つが、ことごとく私の琴線に響くのだ。 この涙はなんなのだろう。 この感情はなん

      • [長編小説] あいのかたち 〜刹那〜

        「ん・・・」 ゆっくりと、唇を啄む。 だんだんと角度が深くなり、やがて私の両腕が彼の首の後ろに回され、後頭部を優しく抱きしめる。 唇だけでなく、手のひら、腕、胸、お腹、太もも。 全身で彼の感触を感じながら、お互いがお互いに溶け込むように、抱きしめ合う。 心地よい粘着質な音が、私の中の、何かをゆっくりと呼び覚ましていく。 ひとしきり、お互いを貪った後は、そっと唇をはなし、見つめ合う。 少し照れ臭そうにはにかんだ後、ちょっと背伸びをして、彼のうなじに顔を埋める。 タバコの匂い

        • [短編小説] いけにえ

          「おい、チヨをどこへ連れて行くんじゃ!母ちゃん、なんで見てるだけなんじゃあ!あいつらを止めてくれ!」 「チヨ、チヨ!おまえら、チヨを離せ!儀式がなんぼのもんじゃ!」 「チヨーーーーーーーーー!」 喉が張り裂けんばかりの金切声。 妹の名を叫ぶ一人の少年の悲痛な叫び。 ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう。 なんだってこんなことになったんじゃ。 チヨが一体、何したっていうんじゃ。 言葉にならない少年の叫びが、虚しく空にこだまする。 「とお坊、堪忍してな・・堪忍な・・・」

        [短編小説] ホ・オポノポノ

          [短編小説] ココロの置き場所

          大きくて、暖かな何かが、ふわり、と私を包み込む。 忘れていた衝動が、体の奥からふつふつと湧き上がり、私の血管、髪の毛、筋肉、骨に至るまで、マッハで駆け巡る。 体の芯から、何かが震え出し、私の内側から外側に向かって振動する。 この中は、なんて暖かくて、気持ちがいいのだろう。 思考回路がだんだんと麻痺していくのが、自分でもわかる。 目も、口も、毛穴も。 体中の穴という穴が半開きになり、そこから黒くてどろりとしたものが、ゆっくりと流れ落ちる。 今まで私の皮膚の下で、どろどろにたま

          [短編小説] ココロの置き場所

          彼のこと

          「えっ、麻衣子さん、彼氏いないの?はいはいはーい!じゃ、俺、立候補する!今日から俺が彼氏ね!」 そう言って彼は、私の手をさっ、とさらうと、さりげなく5本の指を絡めてきた。 ひんやりとした彼の手の感触を、なぜか心地いいな、とぼんやり思いながらも、私は状況を飲み込めずに、ぽかん、とした顔をしていたらしい。 「おい、孝之、麻衣子さん困ってるじゃないか。おまえ、馴れ馴れしいぞ!ってか、まいこさんに気安く触るんじゃない!」 正面に座っていた坂本さんが、ちょっと拗ねた様な口調でそ

          彼のこと

          [長編小説] あいのかたち 〜もつれ〜

          MICADOを出ると、冬の匂いがする冷たい空気がひんやりと二人を包み込む。 「家まで送ります」 いつものようにそう言って、彼は私の少し先を歩き出す。 シンプルでセンスの良いカーキ色のジャケットをはおった彼の背中を見つめながら、ゆっくりと私も歩き出す。 ふと、彼が後ろを振り返り、右手を差し出した。 その意味を一瞬、理解できずに、私は戸惑いながら彼の顔を見上げる。 ゆっくりと私のところまで歩んできた彼は、左のポケットに無造作に突っ込んでいた私の手を優しく抜き出し、そっと指

          [長編小説] あいのかたち 〜もつれ〜

          [短編小説] 他には何も見つからないから

          明けないで欲しいと願った夜が、ゆっくりと、1日の始まりに向かって白んでゆく。 さっきまで隣に座っていた君の甘い残り香が、無防備な僕の鼻腔に忍びこむ。 僕の右手には、冷たくなったミルクティーの缶。 そんな甘いの、よく飲めるね 君が笑いながら僕をからかっていたあの日が、まるで遠い昔のようだ。 ぐい、と一口含むと、いつもの甘ったるい後味が口の中いっぱいに広がる。 君が最後に見せた泣き出しそうな笑顔が、僕の脳裏に焼き付いている。 ありがとう。 消え入りそうな声でそうつぶやいた

          [短編小説] 他には何も見つからないから

          [長編小説] あいのかたち 〜事実〜

          ショウキチさんは琥珀色の液体に目を落とし、華奢なカップの柄にその細い指を絡める。 久しぶりに聴く彼の低い声。 心から待ち望んでいたはずなのに、酷くなる頭痛と、言いようのない不安感が私を苛んでいた。 シュウくんと逃げるようにMICADOを飛び出したあの雨の日。 ショウキチさんが、いつもよりだいぶ遅れてMICADOに来た理由。 「あの日、俺は病院にいました。」 そう言って、静かにカップを持ち上げ、心を落ち着かせるように、その液体をゆっくりと喉に流し入れたショウキチさんの

          [長編小説] あいのかたち 〜事実〜

          [短編小説] 明日〜彼のストーリー〜

          少し寝返りを打つだけでも、まるで針の筵に寝かされているかのような激痛が全身を襲う。今日何度目かの麻酔のボタンを押し、ゆっくりと薬の作用に身を委ねる。 見慣れた病院の真っ白な天井は、あの日、僕たちのまわりに積もっていた雪のようだ、と、ぼんやりした頭でいつもの幻想の中へ迷い込む。痛みから逃避するように、僕の思いはあの頃へと飛んでいく。 2月の寒い夜。 僕たちは雪の降る木立の中で、なす術もなくただ立たずんでいた。 1ヶ月ぶりに会う彼女の瞳は熱く潤み、しかしその表情はどこか疲

          [短編小説] 明日〜彼のストーリー〜

          [短編小説] 明日〜彼女のストーリー〜

          ずっとそばにいると あんなに言ったのに いまは一人見てる夜空 儚い約束 つけっぱなしのラジオからは、透き通るような歌声と、心を優しくなぜるハープの音色。 久しぶりに聞く彼女の声は、あの頃とおなじように私の中に静かに注ぎ込まれる。 部屋のストーブの上では、ホーローのケトルがシュンシュンと音をたて、うっすらと細長い煙を吐き出している。 窓の外には、静かに、絶え間なく降り注ぐ白い結晶たちが、ひらひらとダンスを踊りながらそっと地面に着地する。 彼と最後に会った日も、こんな

          [短編小説] 明日〜彼女のストーリー〜

          [短編小説] ある日の朝

          もぞもぞと動く気配に、重たい瞼を開けると、白い天井に淡い虹色の光がざわめくように広がる。 カーテンの隙間から漏れる冬の光が、窓辺でゆれるクリスタルの魔法で虹色の流れ星を描いていた。 しんしんと部屋の壁から忍び寄る冷たい空気の匂い。 うーん、と、手足をぐっと、足先もピンと伸ばす。 清潔なシーツの手触り。 そして、足元に感じるあたたかくて柔らかい重さ。 「おはよう」 手を伸ばして、心地よい毛並の手触りを楽しむ。 いつものように彼は、ぴしょぴしょに湿った鼻を私の手の

          [短編小説] ある日の朝

          [長編小説] あいのかたち 〜警鐘〜

          シュウくんと別れたあの日から、2週間が経っていた。 MICADOの前まで行っては扉に手をかける勇気が出ず、そのまま通り過ぎて家へ向かう日々。 薬の禁断症状のように、ショウキチさん一目会いたい、という狂おしい思いと、もう会わない方がいいのかもしれない、という、どこからくるのかわかない不思議な警鐘が、毎日のように私の中で入り乱れていた。 その葛藤も2週間が限界だったようだ。 MICADOのお店の前に漂う香ばしい珈琲豆の香りに吸い寄せられるように、少し重たい木の扉をゆっくり

          [長編小説] あいのかたち 〜警鐘〜

          [長編小説] あいのかたち 〜年下の彼〜

          サラサラとクセのない栗色の髪を、ゆっくりとかきあげる。 額から鼻先にふわりと滑り落ちた、男の子にしてはちょっと長めの髪を、そっと指先で弄ぶ。 「ん・・・。」 薄目を開けて、眩しそうに私を見上げる瞳は、濃いブラウン。日本人離れした髪と目の色は、彼の中に異国の血を感じさせる。たしか、おばあさまがイギリス人だったとか。 「ごめん、起こしちゃった?」 返事をする代わりに、彼の髪を撫であげていた私の右手首をそっと掴み、手の甲に唇を押し当てる。 あたたかい唇の感触、ぬるっとし

          [長編小説] あいのかたち 〜年下の彼〜

          [短編小説] ある日のクロスケ

          ボクの名前はクロスケ。 生まれはどこかの段ボールの中で、兄弟はボクを含めて、3匹。いや、1匹は生まれて間もなく死んでしまったから、正確には4匹か。 名前の通り、ボクの全身は真っ黒な毛で覆われている。母さんもボクと同じような黒猫だったらしい。らしい、というのは、ほとんど記憶がないからだ。ある日、突然、ボクは段ボールの箱の中からむんず、と掴まれて、小さなカバンに押し込められ、随分と長い時間閉じ込められていた。母さんも兄弟たちの姿も見えず、心細くて声がかれるまで叫んだっけ。やっ

          [短編小説] ある日のクロスケ

          [長編小説]あいのかたち 〜再会〜

          ためらいがちにしのびこんでくる手。 やさしく絡められる指を、そっと握り返す。 自然と体を寄せ合い、私の頭を彼の腕にゆっくりと預ける。 そう、これだ。 この安らぎ。 もう長いこと忘れていた、肌の温もりと、揺るぎない安心感。 この人なら大丈夫かもしれない。 全てを受け止めてくれるかもしれない。 再会して数時間しかたっていないのに、私たちはまるで、ずっと恋人同士だったように寄り添い、夜の街を歩いていた。 ◇◇◇ 濱口翔吾と再会したのは、夏を忘れられない太陽が照り

          [長編小説]あいのかたち 〜再会〜