[長編小説] あいのかたち 〜もつれ〜
MICADOを出ると、冬の匂いがする冷たい空気がひんやりと二人を包み込む。
「家まで送ります」
いつものようにそう言って、彼は私の少し先を歩き出す。
シンプルでセンスの良いカーキ色のジャケットをはおった彼の背中を見つめながら、ゆっくりと私も歩き出す。
ふと、彼が後ろを振り返り、右手を差し出した。
その意味を一瞬、理解できずに、私は戸惑いながら彼の顔を見上げる。
ゆっくりと私のところまで歩んできた彼は、左のポケットに無造作に突っ込んでいた私の手を優しく抜き出し、そっと指を絡めた。
彼の温かな手のひら。
長くて細い指。
クールダウンしようと思っていた私の心臓に、再びどくどくと大量の血液が流れ込む。
彼の手のひらにしがみつくように、ぎゅっと握り返す。
私たちの中から何かが溢れ出し、お互いの中へ流れ込む。
この時間だけは、誰にも邪魔されない私たちの時間。
私たちはただ、お互いの手のひらの感触をゆっくりと味わいながら、無言で歩き続けた。
この時間が永遠に続けばいい。
彼がそばにいてくれれば、何も望まない。
マンションが見えてくる。
私の足が止まり、彼も静かに立ち止まる。
どうしようもなく溢れ出す自分の想いを、これ以上押し殺すことはできなかった。
ショウキチさんを見上げ、左手は彼の手のひらにつなげたまま、右手で彼のジャケットの腕をぎゅっと掴み、思いっきり背伸びをする。
驚いたように目を見開く彼の顔が、近づく。
目を閉じて、唇を合わせる。
冷たい彼の唇をそっとなぞるように、ゆっくりと味わう。
一瞬、緊張したように固まった彼の身体が、次の瞬間、柔らかく開き出す。
お互いの唇を開き、ゆっくりと舌を絡ませながら、やっとつながることができた悦びで、私の全身が戦慄く。
彼の左手が私の背中にゆっくりと回され、肩甲骨、背骨を1つずつ確かめるようにゆっくりとなでおろす。
もう、止まらない。
お互いの唇と舌を思う存分蹂躙した後、荒い息遣いと心地よい倦怠感の中で彼に体をあずけ、少しタバコの香りがするシャツに顔を埋める。
もう何も考えられない。
欲しいのは、あなただけ。
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