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お手入れはセルフケア

ある人と10年後に会った時、その人が10年前と同じものを身につけていたら、素敵だろうなと思う。


日頃身につけるものを手入れをするのは好きな方だと思う。本革の靴やバッグはツヤが減った時にクリームで磨くし、スニーカーは汚れが目立ったら表面をクリーナーで洗う。春と冬のコートはシーズンごとにクリーニングに出してから衣替えするし、ぐらついてきたシャツのボタンは落としてしまう前に付け直す。


大人になるにつれて、手入れさえすれば長く使えるものを持つことが増えてきた。お手入れははじめはめんどくさいが、続けてみたら自分が快適だし、なんだかいいことをしたような気持ちになる。一種のセルフケアな気がする。


手入れの道具にあまりこだわりはなく、吟味して買ったわけではないが、靴用のクリームとエナメルローション、ボタンつけ専用の糸は特に持っておくといいなあと思うもの。ただ、どれも一度買うとなかなか無くならない(何年も使えてしまう)ので、試しに購入される際は一応口コミなど確認して買った方が良いかも。


クリーム

本革なのに妙に安いローファーを買ってしばらく経ったので、普段通りに「汚れ落とし→無色クリーム」の流れで磨いたら、黒い革に入っている細かいシワが白浮き出した。本革ならちゃんとした値段の靴を買わないと、安かろう悪かろうなんだな~チクショーとも思ったが、靴を買い直すのも万単位でお金がかかるので、その靴を捨てる前に、数千円で色付きのクリームを買って試してみた。

日頃使っていた無色クリームがこのメーカーで、するする塗りやすくて好きだったので、色違いを。テクスチャは変わらず塗りやすい。色付きだから手についたら取れなかったり、ズボンと擦れた時に色が移ったりしないかと心配したが、全く問題はなかった。かたや革にはしっかり色が入ったので、細かいシワが黒々と光るようになった。汚れ落としクリーナーが強かったのか、色が取れすぎてしまっていただけだったようだ。数万円使わずに済んだ。


エナメルローション

エナメルの傷は不可逆ではないのです。使い勝手がいいからか?買いやすいお値段のパンプスやバレエシューズはエナメル素材の物が多い気がする。大学生の頃からそういう靴を買うようになって、無意識のうちに擦って白っぽい傷をよく作っていた。その頃、ちょっといいところでエナメルの靴を買ったら、お手入れにエナメル用のローションをお勧めされた。身の丈に合わないお店で買い物をしているからこそ、お得意様のように自然と振る舞いたかったわたしは、プラス数千円となる付属品の購入を辞退するのを憚った。

その頃はまだお手入れの力を信じていなかったので、気休めばかりの処置になると思っていた。買ったばかりのエナメルの靴は傷一つないので、履き古していたけど気に入っていて捨てられなかったパンプスに使ってみると、傷が全部消えた。エナメルはむしろ雨を弾きそうな感じでお手入れ要らずのような印象があるが、お手入れをすればこそきれいに履けることを初めて知ったのだった。捨てられなかった靴はまたレギュラー入りした。


ボタンつけ糸

小学校の家庭科の授業のために買った裁縫セットをまだ使っている国民のうちのひとりです。縫い物に必要な最小単位のセットだけ残していて、白い糸だけは小学校からの年代物が残っていないので、実家の裁縫箱にあったミシン用の糸を入れていた。シャツのボタンの糸がびろびろ伸びてくるたびに、ミシン用の糸を使ってボタン付けをしていたが、ある時、この糸細いな、と思って手芸屋に糸を買いに行った。

虹色にミシン糸が並べられたラックの手縫糸コーナーをみると、ボタン付け用というのがある。私が針と糸を使うのはボタン付けだけだったので、専用糸をレジに持っていった。さっそく取れかけのボタンを付け直してみると、糸の伸縮性があまりないおかげで、締めたいところでキュッと糸が締まり、ボタンの高さをつけるために糸を巻く作業や、最後の玉留めが圧倒的にやりやすい。おかげで作業の所要時間も減る気がする。伊達に専用を謳っていないので、ボタン付けを家でやるという人はぜひ買われたし。


まだ10年使っているものはないが、手入れを続けて5年ほど使っているものはいくつかある。大切に手入れをするたびに、それを買ってくれた人とか、それを一緒に買いに行った人のこととか、それを身につけたときに褒めてくれた人のことを思い出す。着用しているときは、服も靴も意外と目に入らなかったりするので、あまり思い出さないんだけれども。


傷んでいるところはないかな、きれいになったかな、慈しみながら目で確かめて手で触ると、幸せな思い出が呼び起こされて嬉しくなる。ものの手入れにセルフケアっぽさを感じるのは、こういうわけなのかもしれない。幸せな記憶を何度でも辿ることができる。


北風が吹く日々が終わったら、アウター類をクリーニングに出そう。冬の靴は最後にもう一度磨いてから仕舞おう。春からたくさん着るシャツは、ボタンに綻びがないかひととおり確認しよう。季節の変わり目はお手入れのしどき。今シーズンもありがとう、来シーズンもよろしくね。

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