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迷走神経が炎症を抑える

アレルギーとたたかう理学療法士
及川文宏 より


日々、臨床でアトピー性皮膚炎などの炎症を持っている方と向き合っていると自律神経の状態と炎症の状態が密接に関わっていることを痛感します。

今回、炎症と自律神経(特に迷走神経)の関係についての文献を紹介したいと思います。


この研究で分かった結論として


迷走神経の興奮は炎症を軽減する

ということです。

もう少し説明すると
迷走神経刺激は、サイトカイン産生を阻害し、関節リウマチの疾患の重症度を軽減する

※ サイトカイン:侵入した病原体に応答して産生され、免疫細胞を刺激、動員、および増殖させます。サイトカインには、インターロイキン(IL)、ケモカイン、インターフェロン、および腫瘍壊死因子(TNF)などがあります。つまり、簡単にいうと炎症が生じた時に増えるタンパク質と言えます。


「炎症反射 “inflammatory reflex” 」

という言葉があります。
一見すると炎症を引き起こす反射のように思いますが、逆ですww。

炎症反射

迷走神経への刺激が、サイトカイン産生を阻害し、炎症を軽減するという反射。
(関節炎を持つマウスとラットにおいて、迷走神経からの信号は、サイトカイン産生を阻害し、関節炎の重症度を軽減することが確かめられている)

具体的には

● てんかん患者において

迷走神経を刺激すると、炎症に関わる物質(TNF、IL-1β、IL-6)の産生を阻害することが分かっています。
 ※ TNF:腫瘍壊死因子

● 関節リウマチ患者において

迷走神経を刺激すると、炎症に関わる物質(TNF)の産生を阻害され、関節リウマチの重症度は、大幅に改善することも分かっています。
※ 関節リウマチ(RA):関節の痛みを伴う腫れと重大な障害を特徴とする自己免疫疾患です。


この研究では、迷走神経への刺激を中断した時の状況も調べています。
84日間の研究の途中の14日間に迷走神経刺激装置をオフした期間中は、TNF産生は有意に増加しました。刺激装置を再びオンにすると、TNF産生は84日目までに再び有意に減少しました。これは、迷走神経の能動的な電気刺激が、リウマチ患者のTNF産生を阻害することを示していますね。

リウマチの兆候と症状を示す疾患活動性スコアDAS28-CRPにおいてもTNFの値と同様の傾向が認められた。つまり、迷走神経刺激をしている時にはリウマチの症状が落ち着き、刺激を止めた期間は症状が目立ったという結果であった。

まとめるとこれらのデータは、
迷走神経刺激がTNFを阻害し、RA疾患の重症度を大幅に軽減することを示しています。


ちなみにこの研究で分かったことの内容で、私が凄いと感じたところは、電気刺激の時間が短い!ということです。

使用される電気刺激は、てんかんで使用される刺激プロトコルとは大幅に異なっています。

この研究:電流(最大2.0 mA)が1日1〜4回、60秒間、頸部迷走神経に供給
     この研究の全ての患者の電流の最大時間:1日4分
てんかんの治療:電流(最大2.25 mA)が60秒間隔で供給
     その後5〜180分のオフ間隔が連続して繰り返される
     この治療では毎日最大240分間の電流供給を受ける可能性がある

この研究前の臨床試験で、以下のことが分かっていたそうです。
炎症反射をわずか60秒間刺激すると、最大24時間までサイトカイン産生が有意に抑制されることが確認されています。


話を元に戻すと

炎症反射を標的とする迷走神経刺激がTNF産生を調節し、ヒトの炎症を軽減するとも言えますね。


このシステムは、リウマチの患者さんに限らず、他の自己免疫疾患および自己炎症性疾患の治療方法や薬の開発にも結びついていくことを期待したいですね⭐️


交感神経の興奮も炎症を軽減する

え⁉️ってなりますよね。
普通、交感神経と副交感神経は逆の働きをしますよね。ほとんどのシステムが逆に働くと考えて良いと思います。。。ただ、炎症に対する反応としては、交感神経・副交感神経の二つが協力していることが分かってきています。
(※情報を受け取る受容体によっては、交感神経は炎症を増強させる方にも働きます。)


とっても簡単に説明すると
交感神経が興奮するとリンパ節の出口を塞いでリンパ球が外に出れなくします。そのことによって炎症している箇所に集まるT細胞の数を減少させます。

きちんと説明すると
交感神経からのノルアドレナリンの入力が、β2アドレナリン受容体とケモカイン受容体CCR7およびCXCR4とのクロストークを介してリンパ球のリンパ節への保持を促す結果、リンパ球のリンパ節からの脱出が抑制される。炎症性疾患においては、この機序によって病原性T細胞の炎症部位への到達が妨げられる…

ね、分かったような分かりにくくなったような感じしますねww。


ざっくりと全部をまとめると自律神経、特に迷走神経の働きが炎症を抑制する働きがあり、交感神経もリンパ球の動きをコントロールして炎症が長引きすぎないようにするために働いていると言えます。

自律神経が乱れていると炎症が長引く可能性が高くなると言えそうですね。

最後までご覧いただきありがとうございました。


[参考文献]
koopman FA, Chavan SS, Miljko S, et al. Vagus nerve stimulation inhibits sytokine production and attenuates disease severity in rheumatoid arthritis
・Andersson, U., et al.: Reflex principles of immunological homeostasis. Annu Rev Immunol. 30: 313−335, 2012.
・Tracey, K.J.: Reflex control of immunity. Nat Rev Immunol. 9: 418−428, 2009
・Nakai, A., et al.: Control of lymphocyte egress from lymph nodes through beta2-adrenergic receptors. J Exp Med. 211: 2583−2598, 2014.


アレルギーとたたかう理学療法士
及川文宏
より
日本アレルギーリハビリテーション協会
アレルコア
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