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1人百人一首

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2020年12月の記事一覧

1人百人一首~いもせ~

ふと伏せた瞳の奥の闇の中狭くて苦しい私の居場所

ぬばたまの紫の紐しめやかに左手で巻く君が弓引く

いつの日か君が振られるその日まで宙ぶらりんの私の愛よ

サヨナラの口づけ交わす夏の恋
君を連れ去る秋風涼し

さざなみの寄る君指を絡めては愛してくれた日々の残り香

雲間から漏れだす梯子くらいには好きで好きであなたが好きで

傷つけて傷つけられておわりなくわたしもあなたも欠陥品

この星は美しと思う

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1人百人一首~泣ける浜百合~

踊り場に臨む青空やましさを責めるみたいに皮肉に青い

その海はいづれを知るか孤独など自由などとはかわるものかは

あの日から1歩も動かずここにいる影は長くて陽は昇らない

浜百合の泣ける極暑と焼ける砂
後悔したから手を振っている

1人百人一首~宵のオレンジ~

オレンジと宇宙の境界曖昧にきもちを今日もごまかしていけ

遠くまで宵が影を落としても私の涙で滲むオレンジ

しあわせになれるべくしてなれるひとなれない私に星空が降る

1人百人一首~匂へよ椿~

あまい罠ながい幻さめる冬耳をすませて匂へよ椿

橘の葉に傷つけられし我の指午後のみぞれにかさぶた冷えぬ

瓶の底指で絡めてとったこと蜜の残りと君のいない冬

あの夏に確かに愛は本物で確かに地球は回っているよ

1人百人一首~願わくば~

甘い飴溶けてなくなる放課後の高鳴る鼓動春風二番

なによりも自分自身がでたらめと囁くみたいな春の夕暮れ

会いたいと思うことの虚しさは季節外れのひまわりみたいに

詠めなくなったかわりに

前はよく帰りのバスなんかで短歌を詠んでいた。短歌と言っても季語とか枕詞とか技巧を凝らしたものではなく自分なりの五七五七七を作っていただけである。

しかし、ふと「詠め」なくなった。いや、「詠ま」なくなった。

日本人は古来から気持ちが高ぶると歌を詠む。それは雅で風流で色っぽい、モテ仕草でもあった。私もいろいろと気持ちが高ぶることがあったら帰りのバスの中で指折り文字数を数えていた。平安時代だったらさ

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