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テレワークの生産性

前回の投稿では、仕事をする上での就業場所の制約が減り自由度が高まっていくことについて取り上げました。そして、時間同様就業場所についても、個人による選択と自己管理が求められていくことについて考えました。
https://note.com/fujimotomasao/n/n69ee0a4f651a
今日も、テレワークをテーマに考えてみます。

1月20日の日経新聞で、「テレワークの生産性 出社時の8割強」という記事が掲載されました。以下に、一部抜粋してみます。

~~パーソル総合研究所(東京・千代田)は新型コロナウイルスの感染拡大による雇用や労働意欲への影響について調査結果をまとめた。テレワークを実施する人が感じている生産性は出社時と比べて平均8割強にとどまった。在宅勤務などを導入する企業が増える一方で、仕事の効率性で悩む人が多い実態が明らかになった。

テレワークの生産性はオフィスに出社したときを100%としてどの程度かを聞いたところ、平均で84.1%だった。回答者の64.7%が100%を下回ると回答した。特に新型コロナをきっかけにテレワークを始めた人の生産性は平均82.2%と、コロナ前から実施していた人(89.4%)よりも低かった。

新型コロナが給与面に及ぼす影響も深刻だ。回答者が所属する全業界で年収がコロナ前から減少する見通しだ。特に「宿泊業、飲食サービス業」の個人年収は平均28万5000円(7.5%)減るという。副業を検討する人も3割に上った。~~

こういった統計を見る際に注意すべきは、何を前提条件としているかという点です。
例えば、以下が前提条件になっているとしましょう。

・生産性=ひとりあたりの生み出す付加価値額/ひとりあたりの総労働時間とする。
・付加価値額を、ざっくり売上-売上原価と捉える。
・コロナで会社全体の仕事量(=売上)は減っている。
・仕事量が減った人ほどテレワークに移行している。
・業務時間中のことだけを考慮し、移動時間等業務以外に付随する効果を考慮に入れていない。

そもそも、コロナ前と比べて100%以上の仕事量がある人は少ないはずです。多くの人が、100%未満でしょう。仮に上記のすべてが前提として成立している場合、生産性が減っていても当然となります。テレワーク自体に問題があるとは限らず、出社して仕事をしても同じ結果になることでしょう。場合によっては、出社するともっと下がっていた=テレワークだから84.1%で済んでいる、という可能性だってあり得ます。また、回答者の35.3%は生産性がオフィスと同じかそれ以上と回答していることも見逃してはいけないでしょう。

厚労省による現金給与総額の統計では、2020年4月以降対前年比でマイナスの状態が続いています。所定外労働時間も対前年比マイナス続きです。これらのことからも、仕事量自体が減っているのは明らかでしょう。もちろん、仕事量の減少以上の割合で総労働時間を減らすことができれば、ひとりあたりの生産性は上がるかもしれません。しかし、それはオフィスワークでもテレワークでも簡単ではないでしょう。

上記のような記事情報に飛びついて、「だからテレワークはだめだ」「コミュニケーションの面で無理があるよね」などと結論付けるとするならば、ミスリードとなる可能性が高いと思います。

テレワークの生産性を考える上では、「仕事の内容」と「仕事のやり方」に整理して捉える必要があるでしょう。そして、オフィスワークかテレワークかの0か1の二元論ではなく、その中間も考えることです。

仕事の内容とは、テレワークという空間でもオフィスワークと同様のアウトプットができる仕事(=移動の削減などを考慮するとその分生産性がプラスになる)、あるいはテレワークのほうがむしろ効率性の高い仕事をテレワークの対象にすることです。

仕事を課業(タスク)単位で分解したとき、多くの人は複数の課業を担当しているはずです。例えば、それらの課業のうちテレワークに適しているものとオフィスワークのほうが適しているものに分け、テレワークに適している仕事を集中して持ち帰りテレワークする。オフィスへの出社時にはオフィスワークのほうが適している仕事に特化することで、生産性は上がります。ごく自然なことですが、この切り分けができていない職場はたくさんあります。

仕事のやり方とは、業務プロセスや関わる人とのコミュニケーションの取り方などを、テレワークも含めて環境整備・定義することです。1月21日の日経新聞記事では、GPTWジャパン代表 荒川陽子氏の示唆として、次のように紹介しています(以下、一部抜粋)。

~~日本企業には従業員間の密接なコミュニケーションと擦り合わせを通じて、仕事を進めていく文化がある。そこで培われたチームワークが競争力の源泉となっている。テレワークにはその強みを損なうリスクがある。オフィスでの仕事とテレワークを組み合わせたハイブリッド型の働き方が標準になるだろう。

オフィスには連帯感を醸成し、やりがいを高める機能がある。同じ空間で話し合うことが組織に貢献している実感をもたらし、同僚との何気ない雑談がイノベーションのきっかけになる。確かにコロナ禍でビデオ会議システムなどオンラインのコミュニケーションツールも普及した。これらは情報共有や共同作業の工程管理などには役立つが、企業の文化や価値観を分かち合うには限界がある。

働きがいの高い企業はコロナ前からテレワークに取り組むとともに、オフィスもなおざりにしてこなかった。従業員を家族として扱うので有名な米セールスフォース・ドットコムは、出社・来社する人がくつろいで過ごせる内装にするなどオフィスを企業文化の象徴として活用している。

特に若手は仕事の段取りがわからず、プライベートとのメリハリがつけられない。結果として長時間労働になり、やりがいはもちろん働きやすさも高まらない。若手はまずオフィスで先輩と顔を合わせて関係をつくり、その後にテレワークを活用するという段階が必要だ。若い世代ほど企業が持つ価値観や連帯感を重視しており、その共有が妨げられるのは心理的なストレスになる。~~

この示唆も参考にすると、仮に業務手順やコミュニケーションツールといった環境整備がなされていても、その他の要素である仕事を通した貢献実感や価値観の共有が実現できていないことで、生産性を下げる可能性もあるということでしょう。

こうした論点も踏まえた上で、働く場所に関する自社流の位置づけを定義していくことが、今後ますます求められるのだと思います。

<まとめ>
テレワークが生産性を下げるとは限らない。テレワークで行う内容とやり方次第。


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