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勤務地の制約が消える?

前回の投稿では、労働時間管理という概念が希薄化していくのではないかということをテーマにしました。つまりは、私たちの就業環境において、時間の制約が弱まっていくということです。
https://note.com/fujimotomasao/n/n3c85fe47dfee

今日は、場所の制約について考えてみます。
1月19日の日経新聞で、「テレワークで勤務多様に 富士通は遠隔地に居住解禁」という記事が掲載されました。以下に一部抜粋します。

~~新型コロナウイルス感染拡大で、テレワークを前提とした多様な働き方が広がっている。富士通は配属地以外での遠隔勤務を認め、単身赴任の解消につなげる。ソフトウエアのテストを手掛けるSHIFTは在宅専門のエンジニア採用を始めた。休暇先で業務を行うワーケーション制度を導入する企業も増えている。テレワーク助成なども広がり、暮らし方や場所の制限を受けない全員参加型の働き方が可能になってきた。

内閣府が2020年12月に全国約1万人を対象に実施した調査では国内のテレワーク実施率は21.5%と19年12月調査(10.3%)の2倍。東京23区内の実施率も同2.4倍の42.8%と、テレワーク普及が進む。

日本でも共働きの一般化で配偶者の転勤に伴う帯同は難しくなっている。夫婦がそれぞれのキャリアを継続するため片方が単身赴任を選ぶケースは多い。

テレワークで副業の機会を得る人も多い。地方企業に対してネット経由で副業人材を仲介するJOINS(東京・千代田)では、20年12月末時点で専用サイトに登録する副業希望者は約5千人となり、同1月比で4倍に増えた。中小企業のホームページ制作を支援するITエンジニアなどの登録が増えており、「在宅勤務の浸透で、本業との両立が可能になったことが大きい」(同社)。

場所を選ばないテレワークが普及すれば、女性や高齢者などの労働参加も高め、中長期的な日本の労働力不足を緩和する効果も期待できる。~~

まず、日本企業によく見られる、住居移転を伴う転勤が就業規則上義務になっているのは、世界標準ではありません。他国でも転勤という事象はありますが、本人同意の上で行われるのがほとんどです。同意なしに転勤辞令を出せるのは、日本企業のみぐらいと考えてもよいかもしれません。こうした概念のない外国人の雇用、介護など様々な事情を抱える人材の活用を考えていく上で、同意なしの転勤を可にする転勤制度が今後人材戦略の障害になる可能性があります。

日本においても、特に若手世代でこの傾向は顕著と思われます。手元にこれといったデータがなく見聞きした範囲の印象にはなりますが、今の土地を離れたくないことから転勤辞令が出たのをきっかけに離職した、という事例は、多く聞きます。また、採用コンサルタントにお聞きしても、若手世代ほど仕事本位で選ぶ人、場所本位で選ぶ人が、明確に分かれている印象があると聞きます。

経営コンサルタント 大前研一氏の有名な言葉に、「人間が変わる方法は三つしかない。一つは時間配分を変える、二番目は住む場所を変える、三番目は付き合う人を変える、この三つの要素でしか人間は変わらない。もっとも無意味なのは、「決意を新たにする」ことだ。かつて決意して何か変わっただろうか。行動を具体的に変えない限り、決意だけでは何も変わらない。」というのがあります。その意味では、住む場所を強制的に変える転勤制度は、人生のプラスになるのかもしれません。ただし、それは個人の人生の選択に基づくのが大前提であって、住む場所含めて指示命令されるべきものでもないと思います。

次に、転勤有無にかかわらず、自宅で勤務したり好きな場所から勤務したりするテレワーク制度が、かなり進んできているのが、同記事からも伺えます。一方で、自身の労働価値を提供する方法と場所を切り離せない種類の仕事もあるでしょう。例えば観光業や医療介護業などです。また、仕事上一定の場所の制約は受けるものの、労働時間のすべてにおいてではなく、特定の場所に紐づく現地対応とテレワークをブレンドできる人も今後さらに増えていくでしょう。

このように考えると、個人の視点としては、これから次のようなことが求められると考えられます。

・「どこで働くことができるか」が、仕事選びの重要な要素となる。これは従来から存在していた要素だが、その選択肢が多種多様となる。

・例えば、同じ職種であっても、特定の場所への出社が100%の企業もあれば、テレワーク100%の企業まで混在していくと想定される。個人の側が、雇用条件選びの1要素としてこれまで以上に場所を選択できるようになる。

・与えられた選択肢の中から場所を選ぶのではなくて、無限の選択肢の中からどの場所を使って仕事をするのかを自分で選ぶスタイルも加速していくだろう。例えば、ある職種の仕事を、出社してしたいのか、自宅でしたいのか、シェアオフィスでしたいのか、リゾート先でしたいのか、自分で決めるということである。

・どの場所で仕事をするのが自分に最も合っているのかを、自分で能動的に決める必要が高まる。例えば、同じ職務定義に基づいて同じ仕事をするにも、毎日自宅でするのと開放的なシェアオフィスでするのとで、作業効率や他社との出会いなどその後のキャリアを分ける結果になる可能性がある。

個人だけではなく企業としても、労働力人口の減少に加え、ウィズコロナ時代の就業のあり方という要素も加わり、これまで以上のテレワーク環境づくりが求められることになるでしょう。このことは、コロナ禍の経済減速が一巡し、雇用が急回復してきたときに今以上に求められることになると予想されます。今のうちに環境整備を進めておくことは有効だと言えるでしょう。

<まとめ>
働く個人の側が、就業場所を能動的に選ぶ社会環境になっていく。


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