労働時間管理が消える?

1月14日の日経新聞に、「70歳以上の雇用、企業3割が制度」という記事が掲載されました。現在は65歳、少し前までは60歳が定年・仕事から離れる、のが一般的とされていましたが、さらに延びる流れが本格化したように感じます。

同記事の一部を以下に抜粋してみます。

~~厚生労働省が実施した高齢者の雇用状況に関する調査によると、70歳以上も働ける制度を用意している企業は2020年6月時点で31.5%と前年同月比2.6ポイント増えた。07年の調査開始以来、過去最高を更新した。

人手不足を背景に定年廃止や定年後も雇用を継続する動きが広がっている。65歳まで働ける措置を設けている企業は99.9%でほぼ全ての企業が実施している。

70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする改正高年齢者雇用安定法が21年4月に施行する。新型コロナウイルスの感染拡大で雇用情勢は厳しくなっており、今後も高齢者活用の流れが継続するかが焦点になる。~~

「努力義務」とはいえ、一度既定路線となった流れは止まりませんので、いずれ「義務」となるでしょう。さらには、既に3割以上の企業が、努力義務を超えた範囲である70歳以上でも働ける制度を作っているということです。

「波平さん理論」というのを聞いたことがある方もいらっしゃると思います。漫画サザエさんに登場する磯野波平さんの設定年齢は54歳です。もともと1950年頃の東京が舞台だそうですが、当時の会社員の定年は55歳でしたので、仕事からの引退1年前という設定です。波平さんの風貌や行動、趣味の盆栽などは「高齢者」に見えます。今なら何歳に当てはまるのでしょうか。

統計では、1955年の男性平均寿命は63.60歳となっています。2019年では81.41歳です。単純な発想で平均寿命の9歳手前が波平さんだとすると、現在なら72歳です。この間定年も65歳まで延び、さらには70歳になりそうな勢いですが、「波平さん理論」でいうと十分に成立し得ると言えるのかもしれません。

世界的には、定年制度のある国とない国があります。一部の職種を除き定年制度のない国は、米国、カナダ、ニュージーランド、イギリスなどです。定年制度のある国は、フランス、ドイツ、オランダ、スイスなどです。アジアにおいては、定年が法律で定められている国は多くはありません。

日本においても、定年という概念が存在しない職種(働き方)があります。経営者や個人事業主がその典型です。スポーツ選手や芸術家もそうでしょう。定年による一律の引退という考え方はなく、自分がいつ仕事を退くかは自分が決めるわけです。

話題は変わりますが、第1次産業である農業に関しては、労働基準法で定める労働時間・休憩・休日の規定が適用除外となっています。つまりは、従業員に休日を与える義務もないし、労働時間の上限もないということです。理由は、自然を相手にする仕事だからです。私たちは農産物の成長に手を貸すことはできても、完全にコントロールすることはできません。気候に左右されます。自分がコントロールできない状況に対応しようとすると、繁閑の差も激しくなります。一律の労働時間管理は向かないでしょう。人間のコントロール下にある、工場での製造活動などとは対照的です。農業従事者にも一般的に定年はありません。

これらのことから、改めて次のように考えてみるのもよいと思います。

・もともと、就業にあたって「定年」や「労働時間管理」といった概念はなかった。「定年」や「労働時間管理」の概念が成立した時期は、歴史としてさほど古くない。

・製造現場従事者のように、成果物が単純に労働時間に比例するわけではない職種が増えている。また、副業など二足以上のわらじを志向する人も増えた。「1日のうち何時間を労働時間とする」といった一律の決め事は効力を発揮しにくくなっている。

・高齢化社会、年金制度の維持などの社会背景から、従来は引退とされていた高齢者層にも継続的な就業が期待されている。波平さん理論は、それが可能なことを示唆している。

・とはいえ、高齢者になるほど体力や気力、ライフスタイルの個人差が大きくなる。何歳まで働くのがよいかなど一概には決められない。

・よって、何歳まで働きたいのか、自分で能動的に選んで決めるのが、これからの社会環境には適している。また、1日のうち何時間を仕事に充てるのかも個人次第になる。1日の中での働く時間数という縦軸の長さ、いつまで働くかという期間の横軸の長さ、縦×横の総労働時間共に、これからは法令や一律の規則等で管理されるものから、自己管理するものに変わっていく。

キャリアマネジメントやキャリア開発というと、従来は中身(質)に関するものが主な対象でした。今後は、質と共に量についてもその対象になっていくと考えられます。個人は、そのことに対する意識と行動の向上が求められるでしょう。また、企業にとっても、個人のキャリアマネジメントにおいて、どんなことを提供する環境があるのかをより明確に定義できることが求められるでしょう。

<まとめ>
総労働時間は、自己管理する社会環境になっていく。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?