524 ゴニョゴニョ

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『悪は存在しない』 根本的にドキュメンタリーのよう

story 山奥の小さな集落で暮らす寡黙な男 巧(大美賀均)とその娘 花(西川玲)。自然の中で何でも屋として慎ましい生活を送っている。そんな集落に東京からグランピング場建設計画の話が舞い込んでくる。既に建設時期も決定しているこの計画の説明会のため東京から高橋(小坂竜士)と黛(渋谷采郁)がやって来るが、説明会は住人たちの反発によって紛糾してしまう。そして高橋と黛はそのグランピング場の管理人を巧にお願いできないか頼みにくる。 review 文責=1世 おすすめ度 ★★★★☆

    • 天下をとった成瀬に嫉妬した話(本屋大賞おめでとうの気持ちを添えて)

      今年の本屋大賞は『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社、2023、以下『成瀬』)であった。明るい黄色の背景に「LIONS」と書かれたユニフォームを身につけ、強い眼差しで前を向く少女の横顔が印象的な表紙は、普段あまり書店に行かない人であっても、一度は目にしたことがあるだろう。この書籍は3月の刊行以降この一年、どこの書店に行っても店頭の話題書コーナー、もしくは特設の「成瀬」コーナーで大々的な展開をされていたからだ。パネル、POPはもちろんのこと、数多くの著名人のコメントが入ったA3ポ

      • ARGYLLE/アーガイル | オチは考えず、ともかく話を転がそう

        ARGYLLE/アーガイル2024年 / イギリス・アメリカ / 139分 監督: マシュー・ヴォーン 出演: ジェシカ・チャスティン、サム・ロックウェル、ジェシカ・チャスティン story 凄腕スパイの活躍を描いた人気スパイ小説『アーガイル』。その作者のエリー(ジェシカ・チャスティン)はシリーズの結末をどうすべきか書きあぐねていた。気晴らしに愛猫アルフィーと旅に出たところ、スパイと名乗る謎の男エイダン(サム・ロックウェル)と出会い自分が諜報組織の標的となっていることを知

        • Saltburn|醜態を晒してでも、高嶺の花へ手を伸ばす。その姿が切ない

          Saltburn2023年 / アメリカ / イギリス 監督:エメラルド・フェネル 出演:バリー・コーガン、ジェイコブ・エルロディ、ロザムンド・パイク… story オックスフォード大学に入学したオリバー(バリー・コーガン)は友達が出来ずに学生生活をスタートした。しかし些細な事件をきっかけに学園の人気者でお金持ちのフィリックス(ジェイコブ・エルロディ)と仲良くなり、親友になっていく。そして夏休みにさしかかり、フィリックスは実家のあるアメリカのソルトバーンへオリバーを招待す

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        • Cinema note 1世
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          シャクラ|このアクションは観客にも鍛錬を求める

          シャクラ原題:天龍八部之喬峰傳 2023年/ 香港・中国 / 130分 監督:ドニー・イェン アクション監督:谷垣健治 出演:ドニー・イェン、チェン・ユーチー、リウ・ヤースー story 丐幇[かいほう]の幇主・喬峯[きょうほう](ドニー・イェン)は義に厚く周囲からの信頼も厚い武芸者だったが、副幇・馬大元殺しの濡れ衣を着せられた上、謎だった彼の出自が漢民族ではなく契丹人だと暴かれて丐幇を追放されてしまう。喬峯は嫌疑を晴らすために潜入した先で出会い、重傷を負わせてしまった密

          シャクラ|このアクションは観客にも鍛錬を求める

          ファースト・カウ|あまりに資本主義的な一匹の牛さん

          ファースト・カウFirst Cow 2020年 / アメリカ / 120分 監督 ケリー・ライカート 出演 ジョン・マガロ、オリオン・リー、トビー・ジョーンズ 【story】 西部開拓時代、オレゴンは毛皮を狙う狩猟グループで賑わっていた。そこで偶然出会った気弱なコックのクッキーと中国人のキング・ルーは成り行きで共同生活をすることになる。その町の有力者である仲買商がはじめてオレゴンに牛を連れてきたという噂を聞き、二人は秘密でその牛のミルクを絞って、ミルク入りのお菓子を売る作

          ファースト・カウ|あまりに資本主義的な一匹の牛さん

          『クララとお日さま』(と『私を離さないで』をちょっとだけ見比べてみる)

          カズオ・イシグロ作品では2作品目。最初に読んだのは『私を離さないで』だったので奇しくも類似の題材とされる作品。今回は少しだけ比較してみたい。カズオ・イシグロ作品についての専門家でもなんでもないので、とりあえず思ったことを書いているだけである。どうか夜道で刺さないでほしい。 話す前にあらすじ。 人工友人(AF)のクララは、病弱な女の子ジョジーの家に買われ、ジョジーの友人として生活することになる。ジョジーの母親、家政婦、幼馴染、その母親、ジョジーの父親たちがジョジーに注ぐ視線

          『クララとお日さま』(と『私を離さないで』をちょっとだけ見比べてみる)

          伯爵 | ピノチェトが生き返った上に実は吸血鬼だった!

          伯爵El Conde 2023年 / チリ / 110分 監督: パブロ・ラライン 文責= 1世 おすすめ度 ★★★☆☆ アウグスト・ピノチェトが現代に蘇った! しかも吸血鬼だった! 個人的にここ最近チリ映画づいている気がする。この夏に巷を賑わしていたストップ・モーションアニメ『オオカミの家』もチリ映画だったし、そのちょっと前にこの作品の監督パブロ・ララインの過去作『NO』(2012)を見たりしていたりもした。 とはいえチリ映画やチリの歴史について詳しいかと言われれば

          伯爵 | ピノチェトが生き返った上に実は吸血鬼だった!

          悪い子のところにはロバート・マッコールが来るぞ!ー『イコライザー THE FINAL』

          イコライザー THE FINALThe Equalizer 3 2023年 / アメリカ / 109分 監督:アントワーン・フークア 出演:デンゼル・ワシントン、ダコタ・ファニング 悪い子のところにはロバート・マッコールが来るぞ! 文責=1世 おすすめ度 ★★★★☆ デンゼル・ワシントン演じるロバート・マッコールさんが世に潜む悪党どもに正義の天誅を下すアクションシリーズの第3作。 とはいうもののこのシリーズに関しては、アクション映画よりホラー映画に近いものかもしれない

          悪い子のところにはロバート・マッコールが来るぞ!ー『イコライザー THE FINAL』

          偉大な祖父とまだ何者でもない孫の物語にやられた - 『マルセル・マルソー 沈黙のアート』

          マルセル・マルソー 沈黙のアートL'art du Silence 2022年 / スイス・フランス合作 / 88分 監督:マウリツィウス・シュテルクレ・ドルクス 文責=1世 おすすめ度 ★★★★☆ マルセル・マルソー、という名前をどのくらいの人が知っているのだろう。 ついでに筆者は20代だが不勉強ながら全く存じ上げなかった。 マルセル・マルソーはフランス出身のパントマイマーで「パントマイムの神様」と呼ばれるほどの人物だ。 白塗りの顔、泣いているようにも見える黒縁の目、

          偉大な祖父とまだ何者でもない孫の物語にやられた - 『マルセル・マルソー 沈黙のアート』

          【映画感想文】斬新、だが由緒正しいドラキュラ映画-『ドラキュラ/デメテル号最後の航海』

          ドラキュラ/デメテル号最後の航海The Last Voyage of the Demeter 2023年 / アメリカ / 119分 監督:アンドレ・ウーブレタル(『ジェーン・ドウの解剖』) 出演:コーリー・ホーキンズ、デヴィッド・ダストマルチャン 文責=1世 おすすめ度 ★★★☆☆ 洋邦問わずヴァンパイアものが大ブームとなったのも、もう数年前。 すっかりほとぼりも冷めきっこのご時世で、ドラキュラ映画の大家であるユニバーサル・スタジオが満を辞して出してきたのがこの『ドラキ

          【映画感想文】斬新、だが由緒正しいドラキュラ映画-『ドラキュラ/デメテル号最後の航海』

          【配信のネタバレはなし】今更だけどサロメ嬢3Dお披露目配信に感動した話をまとめておく

          文責:HAL あらかじめ断っておくが、私は普段ほとんどVtuberの配信を見ない。 あれ、最近VTuberってTRPGよく配信してない?TRPG好きなんじゃないの?と聞かれるかもしれないが、毎週末のようにやっているTRPG配信は、自分が遊んだことのないシナリオである場合が多い関係で見ていない。CoC同人シナリオの『クロノワール・メテオライツ』も元ネタがわからなくて遊ぶのを後回しにしている。 私が主に見てきたVといえば、ガッチマンVの配信、黛灰の生前葬配信、周防サンゴが志摩ス

          【配信のネタバレはなし】今更だけどサロメ嬢3Dお披露目配信に感動した話をまとめておく

          【映画感想文】「痛みを知る」とは「他者を知る」こと─『イノセンツ』

          文責=1世 おすすめ度 ★★★☆☆ 団地に住む子どもたちに超能力が発現する。 だがそれは特別なこととしては描かれない。ただ、この子たちの成長過程の一つとして、身長が伸びるように、乳歯が抜けるように、超能力はその一つでしかない。 『イノセンツ』はそんな超能力キッズたちを描いたスリラー映画だ。 設定だけ聞くと、超能力を通して思春期男子の荒ぶる胸の内を描いた『クロニクル』(2012)みたいなものを連想するが、思っていたよりジャンルはスリラー。それもイヤ〜なスリラーだ。超能力を通

          【映画感想文】「痛みを知る」とは「他者を知る」こと─『イノセンツ』

          【映画感想】『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』クローネンバーグの思想的集大成

          文責=1世 おすすめ度 ★★★★☆ 肉体変容、痛覚と快楽。 肉体にまつわるクローネンバーグの思想的集大成 自分の体内で臓器を生成。 それを摘出する様をパフォーマンスとして発表する現代アーティスト。 こんな奇想、誰が思いついたんだ。そして思いついたとして誰が映画にしようなんて考えたんだ。 そんな奴、デヴィッド・クローネンバーグしかいない。 今年で80歳になるクローネンバーグの最新作は前述の通りの内容で、久しぶりにSFとボディ・ホラーというジャンルへの回帰作となっている。

          【映画感想】『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』クローネンバーグの思想的集大成

          映画『Barbie』が見せてくれる「弱い夢」

          文責: HAL すでにpodcastの方で話をしているため蛇足にもなるかもしれないが、話し忘れていたような気がすることをメモ程度に書いておく。 マテル社公式サイトは、 バービー人形のキャッチコピーとして「You Can Be Anything(「あなたは何にだってなれる」)」を掲げている。このコピーが示すように、バービー人形は1960年代からずっと、少女たちの将来の幅広さ、多様さを提示する、モデルロールであった。少年たちは野球選手や医者といった多岐にわたる職業を夢見ること

          映画『Barbie』が見せてくれる「弱い夢」

          【映画感想】マイ・エレメント

          おすすめ度 ★★★☆☆ 設定のためのストーリー? ストーリーのための設定じゃない? 火・水・土・風。4種族のエレメントたちが暮らすエレメント・シティ。そんな街で火と水の本来相容れない若者たちが恋に落ちる。 いかにもディズニー・ピクサーらしい設定。これは良くも、悪くもだ。ちょっとだけ悪くもが優勢かもしれない。 エレメント・シティの設定は“ピクサーらしさ”を形作るいくつかのラインの複合体と見ることができる。 まずは『インサイド・ヘッド』(2015)あたりから始めた「抽象的

          【映画感想】マイ・エレメント