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ARGYLLE/アーガイル | オチは考えず、ともかく話を転がそう

ARGYLLE/アーガイル

2024年 / イギリス・アメリカ / 139分
監督: マシュー・ヴォーン
出演: ジェシカ・チャスティン、サム・ロックウェル、ジェシカ・チャスティン

story

凄腕スパイの活躍を描いた人気スパイ小説『アーガイル』。その作者のエリー(ジェシカ・チャスティン)はシリーズの結末をどうすべきか書きあぐねていた。気晴らしに愛猫アルフィーと旅に出たところ、スパイと名乗る謎の男エイダン(サム・ロックウェル)と出会い自分が諜報組織の標的となっていることを知る。なんでも、エリーの書いた小説の出来事が現実の状況とシンクロしているとか…

review

文責=1世
おすすめ度 ★★★☆☆

ストーリーというのは2つのパターンがあるよなと思うことがある。
一つ目は、書き手がオチから考えたもの。
二つ目は、書き手が最初の設定から考えたもの。
それでいうと『アーガイル』は絶対に後者。

『キック・アス』(2010)や『キングスマン』(2015)で知られるマシュー・ヴォーンの最新作はまたもスパイ映画。ただし、主人子はスパイ小説を書いてる作家で、小説に書いたことが現実になっていくというマシュー・ヴォーンらしい突飛なツイストが加わっている。

「スパイ小説に書かれていたことが実際の出来事で、作者が巻き込まれる」
この映画は、きっとこのアイディアが思い浮かんだところから始まった企画に違いない。

オチから考えた話も、導入から考えた話もそれぞれ違った良さがある。
『アーガイル』のようなアタマから考えた(と思しき)ストーリーの良さは、観客も、おそらく作り手もこの話がどこに転がっていくかわからないというワクワクにこそある。

例を挙げれば、レニー・ハーリンが監督した『ロング・キス・グッドナイト』(1996)なんてどうだろう。映画として立派なものとは言わないが「自分はただの主婦だと思っていたら、なぜかプロ顔負けの格闘スキルがあり、陰謀に巻き込まれる」なんともワクワクする導入でしょ?

この映画も「スパイ小説の中の出来事が実際に起きていると書いちゃったけど、それじゃあ次はどうしよう」
脚本家がその都度その都度、話の転がる方へ身を委ねた結果、稀に想像もしなかった領域に辿り着いてしまうことがある。

『アーガイル』がそういう作品だったかといえばワクワクした割にはよくあるスパイ映画の枠組みの中で落ち着いちゃった印象ではあるが…。とはいえ「次に何が起こるんだ?」というワクワクには満ちていた。それは結構大事なことだ。

もちろん完成度の高い素晴らしい作品の方が高尚で偉そうに見える(たしかにそれはそうかも)。
だが、この映画のように作り手も含めて話がどこにいくのかわからない、その場しのぎの数珠繋ぎを続けた映画でしか味わえない楽しみもある。

それはジェットコースターのように身を委ねるしかなく、その場その場の裏切りとサプライズ、もしかしたら期待外れも含めて「次はどうなる?」と胸を躍らせる高揚感。そして、この楽しみは残念ながら1回きり。「この映画は当たりか?ハズレか?」というギャンブル的な面白がり方でもある。

しかし、こういったストーリーはどちらかといえば、週刊連載の漫画やTVドラマの方が向いている作りではある。連載中に追っかけてた時はとんでもなく面白かったのに、改めて一気読みするとあんまりな漫画とかよくある。

そこには毎週無理矢理でも話を続けねばならない出版社・TV局からの要請が逆にストーリーをドライブさせる燃料になっているのだが、2時間強の映画だと話が思わぬ方向に転がる前に幕切れになることも多い。『アーガイル』も割とそこに陥ってしまった気はした。
もしこれがドラマシリーズなら、もっと話は思わぬ方向に転がっていったのかもしれない。

ただ『アーガイル』の面白さは、そういう構造を自分で言ってしまう大胆さにこそあると思う。
だってこの話、「オチ」が思いつかない作家がその場しのぎのアイディアを無理矢理繋いでいって「オチ」にたどり着くまでというまさにこの映画のことを言っているような話なのだから。

『アーガイル』はオチが思いついてない作品が、どういうオチに辿り着くのか。その道のりを楽しむ作品だ。


ついでにマシュー・ヴォーンの作品っていつも「自分は一般人だと思ってたら、実は自分こそが選ばれし者(The One)だった!!」って話ばかりしてるよね。『ウォンテッド』(2008)もそうだし、『キングスマン』もそうだし。

脚本の話ばかりになってしまったけれど、俳優もみんな素晴らしかったです。てっきりヘンリー・カヴィルが主役かと思ってたら、まさかサム・ロックウェルが実質主役で「マシュー・ヴォーンさすがわかってる〜!」となりました。

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