見出し画像

食べすぎ、タバコ、SNS…やめるのに「意志」は関係ない。(第2回)

こんにちは、フォレスト出版編集部の杉浦です。

「過食」「タバコ」「ネット」「SNS」「人間関係」「苦手な人」「うっかりミス」「スマホ」「先送り」「あがり症」「甘いもの」……

やめたいのに、ついやってしまう習慣が1つくらい皆さんもあるのではないでしょうか?

薬物や痴漢などで繰り返し逮捕される著名人がいます。そういったニュースの度に、「依存は治らない」「一生付き合っていかなければならない」という識者のコメントが流れます。こうした話を聞くと、「意志が弱いからやめられないんだ」といった感想を持つかもしれません。

でも実は、やめられない行動を「依存症」と呼ぶことに誤りがあります。ヒトの本当の行動メカニズムに従った技法で対応すれば、欲求は消えるのです。やめられるかどうかは、「意志」に関わる範疇ではないのです。

今回、嗜癖(しへき)治療最先端の技法を用いて患者さんに対応し、実績を重ねている専門ドクターの監修を得て、この貴重なメソッドを皆さんにお伝えすることができるようになりました。

本日は、先週公開した記事の続きです。

 先述したように、「第一信号系」は、過去に成功した行動を「反射」で再現し、失敗した行動は再現しなくなるシステムです。「反射」には基本的には二種類あります。
 一つは、生まれつき持っている「無条件反射」という神経活動です。たとえば胃や腸は、生まれつき自動的に動いています。モノが飛んで来たらとっさに目をつぶる、やけどするほど熱いモノを手にしたらとっさに離す、赤ちゃんが誰に教わるともなく乳首を口に含むのも、生まれつきの神経活動です。これらは、生存と直結しています。
 もう一つは、動物が生後の環境とやり取りをしたことによって持つことになった「条件反射」という神経活動です。ベルに反応する犬、お手の合図に手を上げる犬、梅干しを食べたことのある人は梅干しを想像するだけで唾が出ますが、食べたことのない人は、唾は出ません。これらは「無条件反射」を元にして、新たに条件付けられた神経活動です。「ハマる」とは、「条件付けられる」ことを言います。健全な「ハマり」も、悪癖や悪習慣と言われる「ハマり」も、いずれも後天的に「条件反射」が成立した状態です。

 一般的には、「無条件反射」「条件反射」の名称が用いられますが、「無条件反射」の意味は、無条件に生じる、あるいは条件付けられてなくても生じる「反射」、という意味でしょう。しかし「無条件反射」も進化の過程で大昔に条件付けられたものなのです。従って平井医師は、「条件反射」に〝無〞をつけるか否かで区別するのではなく、反射を獲得したのが前世代までか、現世代か、ということで区別すべきであり、「無条件反射」を「先天的な反射」、「条件反射」を「後天的な反射」と呼ぶ方が適切であると考えます。

 ある行動が条件付けられているかどうかを見分けることは簡単です。やめようと思えば簡単にやめられるか、やめるのが至難に感じられるかの違いです。至難を感じたら第2章で紹介するやめるための対策、条件付けを解除するための脳トレである「条件反射制御法」を思い出して実行してほしいのです。

脳は「ご褒美」をもらって「ハマる」

 さて、では実際に「動物的な脳」はどのようにして条件付けられるのでしょう。
 「ハマり」から解放されるために一番目に大事なことは脳の中で起きている「条件付けの仕組み」を知ることです。

 そのキーワードは「ご褒美」です。平井医師は「生理的報酬」と名付けて、そのメカニズムを解説しているので紹介します。


「約138億年前に宇宙が始まり、約46億年前に地球ができ、約38億年前に生物が誕生した。生物は自己保存と遺伝で特徴づけられ、それらは防御、摂食(栄養摂取)、生殖により成立する。生存する環境の中でこれらの活動を反復し、適応し、一部の生物種は生き残り、進化し、動物が生まれた。
動物は活発な神経活動をもって防御、摂食、生殖を行い、これらの行動能力の向上が環境への適応であり、また、環境に適応した行動を残す傾向をもつ個体が生き延びた。つまり、現存する動物は防御、摂食、生殖に成功した場合、その時点までの神経活動を再現されやすい形で定着させる効果が生じる傾向を強くもつ。その効果を生じる現象や作用を生理的報酬と呼ぼう。環境からの刺激に対してなんらかの行動を起こし、その後に防御、摂食、生殖に成功すれば生理的報酬が生じ、その行動は定着する方向に進むので、その反復により条件反射が成立する。(下総精神医療センター薬物乱用対策研修会抄録集 ヒトの行動原理と条件反射制御法 2014 平井愼二)」


 つまり、「防御」「摂食」「生殖」という生存を支える三つの活動に成功したら脳がご褒美をもらえるシステムです。ご褒美がもらえたら、その行動に至る行動が定着します。これを薬理学の世界では「報酬効果」と言いますが、平井医師は「生理的報酬」と呼んでいます。理由は、本来、それは生きる理(ことわり)に合致した行動に成功した後、生じるものだからです。決して人間社会の報酬のように、獲得するために行動するという目的になるものではありません。その差異を明確にするために、「生理的」を付けたのです。「生理的報酬」は、三つの活動のいずれにも成功しないときは生じません。生じなければ、そこまでの「反射」は抑制されます。このことも「ハマり」を解除するために重要な意味を持ちますので覚えておいてください。

 では、「生理的報酬」とは具体的には何のことか、と思われるでしょう。「守る」「食べる」「セックスする」に成功したとき、私たちは安堵感、満足感、快感を得ることが多いのですが、これらが「生理的報酬」なのではありません。これらは「生理的報酬」と同時に生じるものです。「生理的報酬」とは、進化を支えてきたものです。簡単に見えたりするものではありません。どの部位のどの活動が、どの物質が、かかわっている、などと簡単に言えるものではないのです。
 システムの入り口は、目や耳などです。そこで環境から「刺激」を受けます。「反射」の出力を実現する出口は、動作なら手足などで、言葉を発するのなら、喉・口唇・舌なども関係します。このように「生理的報酬」は身体全体で環境と生き死にをかけたやりとりをし、生き抜く行動に成功したときに、生じるものなのです。

※本稿は『やめたいのにやめられない 悪い習慣をやめる技術』(小早川明子 著/平井愼二 監修)より抜粋、一部再編集したものです

いかがでしたでしょうか? 本日ご紹介した書籍は、こちらです。ご興味のある方はぜひお手にとっていただけますと幸いです。

(Photo by Markus Spiske on Unsplash)

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?