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どうして肌のバリア機能をわざわざ壊すの?

これまでの記事で、化粧品を選ぶ際に注意しなければならないこととして、「成分を肌の内部まで届ける浸透剤と併用されているかどうか」というお話が何度となく出てきました。

浸透剤との併用をなぜ気をつけなければいけないのか、知っておきたい基本的なお肌の仕組みについて、『ウソをつく化粧品』(小澤貴子 著、2015年刊行)より抜粋・編集して、ご紹介いたします。

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皮膚は、体重の約8%を占める人体最大の臓器 

 人の体は大部分を水分が占め、水分の割合は年齢等によって異なりますが、新生児であれば、80%くらい、70歳以上になると50%くらいまで下がる人もいます。
 若い人でだいたい70%くらいです。
 仮に体重50㎏とすると、35㎏が水ということになります。その貴重な水が流出したり、肌から蒸発し過ぎたりしないようになっているのが私たちの体です。
 人の体は「水を溜めた袋」といってもいいでしょう。
 そんな袋の役割を担っているのが「皮膚」であり、重さは体重の約8%を占める、人の体のなかで最大の臓器でもあります。つまり、体重50㎏の人ならば、角質層という薄い層でつくられた、合計すると4kgの皮膚という袋に35㎏の水を入れて活動しているのです。
 皮膚は「表皮」と「真皮」の二重構造になっています。真皮のさらに下の部分が、皮下脂肪のある「皮下組織」です。
 下記の図を見ていただければわかりますが、表皮は、外側から「皮脂膜」「角質層」「顆粒(かりゅう)層」「有棘(ゆうきょく)細胞層」「基底(きてい)細胞層」「基底膜」の5層1膜からなります。

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 皮脂膜は皮脂腺から分泌される皮脂という油のコーティングです。肌の最表面で肌を守る、最初のバリアです。角質層は硬いタンパク質の壁で、体の部位によって違いはありますが、だいたい0.02㎜くらいの薄さ。ごく薄の食品包装用ラップを2枚重ねたくらいの 角質層はすでに死んだ細胞で、肌のメインバリアです。角質層より奥の顆粒層以下は生きている細胞であり、それぞれ水を含んでいます。
 角質層そのものが、水分の保持に役立っていますが、角質層は水分量が20%、角質層よりも下で60~75%なので、強靱な皮である角質層は水を逃がさないという役目を担っています。
 表皮と真皮の境目に、たった1層だけ基底細胞の列があり、すべての表皮の細胞は、この基底細胞によって生み出されます。
 血管や神経は、基底膜から下の真皮にあり、化粧品がかかわってくるのは、表皮までです。真皮へ作用するものは化粧品ではなく医薬品になります。

「表皮」が私たちを守ってくれている

 表皮はなんのためにあるのでしょうか? 表皮の目的は、角質層という外界からの防御壁を生産・維持し、私たちの体を守ることです。
 なぜ、防御壁が必要なのかというと、目的は2つあります。

・外部からの物質の侵入を防ぐこと
・体内のものを流出させないようにすること

 この2つを「表皮のバリア機能」、あるいは、「肌のバリア機能」と呼んでいます。表皮のなかでも、とくに「皮脂膜」と「角質層」という部分が、バリアの要になっています。
 肌の細胞は生まれた瞬間から死へ向かっていくことで、強いバリア機能を維持しています。表皮は新鮮で堅固な壁・緻密な壁をつくり続ける装置といえます。
 バリア機能がなければ、体内に簡単にアレルゲンや有害物、ウイルスや細菌が入ってしまいます。体内の水もどんどん蒸発し、顔や体がシワだらけになってしまいます。泥水に足を踏み入れたら不衛生な泥水が体内に入ってきてしまいます。
 表皮というバリア機能を守ることは私たちにとって、とても大切なことです。表皮の奥にある真皮は肌のハリを保っているところですが、血管やリンパ管が通り、すでに体内に近い部分です。体の中心には内臓や心臓といった大事な臓器があります。真皮を含めた体の内側を守っているのが、表皮に集中しているバリア機能であり、もっとも外側にある皮脂膜と角質層なのです。
 また、私たちの肌の表面を覆う皮脂は毛穴部分にある皮脂腺から分泌される油です。表皮のうえは皮脂という油が膜をつくっています。皮脂膜という第1のバリアです。
 そして角質層は死んだ細胞です。細胞が死ぬと、なかから内容物が出てきます。角質自体はレンガのように物理的に硬い皮をつくり、物質の侵入を防ぎます。これが第2のバリアです。
 なかから出てきた内容物はレンガの隙間を埋めるセメントのような役割を果たします。
 このセメントは拡大してみると油の層と水の層が交互に重なっています。セラミドなどの「角質細胞間脂質」の油が水分子とともにバリア構造をつくっているのです。油の層が水溶性の物質の侵入を防ぎ、水の層が油溶性の物質の侵入を防いでいます。水と油は相容れないというのが化学の基本。この相反する性質を持った層が折り重なっていることにより、強力なバリア機能(第3のバリア)を発揮することができるのです。
 つまり、角質層には角質という硬い皮と、その間を埋める脂質の油と水の層があり、その角質層のうえは皮脂膜という油で覆われているのです。お肌は、角質層と皮脂膜の両方で、外からの物質の侵入を防ぎ、体内のものの流出を防ぐという役割、バリア機能を持っているのです。皮脂膜や角質細胞間脂質も油のため、本来の皮膚はとくに水溶性の物質の侵入をしっかりと防ぎます。逆にいうと、水溶性の成分は非常に入りにくい構造をしています。

 つまり、肌はバリア機能であって、吸収する器官ではないのです。だから、肌から栄養を摂るなんてことはありえないですし、そのバリア機能をむざむざと壊す必要もないのです。

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(編集部 杉浦)

Photo by Andriyko Podilnyk on Unsplash

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