フルムーン #1

うまらない隙間は深すぎて傷をえぐるように寂しさが押し寄せてきているよう。
ありもしない通知に気を取られて、何も手につかない。昨日終えた仕事の片付けをしながら、生ぬるいホットコーヒーを飲み干す。

目の前のテラス席のカップルが仲睦まじそうに寄り添って、目前に迫るクリスマスを思い出させる。赤い手袋と赤チェックのシャツ。

誰しも人恋しいホワイトな夜。予定はまだない。ありもしないのだけど、あの人のために空けてある。恋に恋する乙女かよ、と無駄なツッコミの一人芝居を。くだらないことを考えていると会社からの呼び出し音が鳴ったようだ。

「おかわりはいかが?」

もう少し浸っても大丈夫と言わんばかりに、店員は聞く。
もちろん、いただく。断る理由などない。いまのわたしには。

この季節は、温かなコーヒーが癒してくれる。どんな馬鹿話も。
先週買ったワンピースのコーディネートに思いを巡らす。マキシロングのワンピ。シックに大人にも、ブーツで外してカジュアルにも。あの人の好みはどちらだろう。清楚系?可愛い系?セクシー系?すぐに、彼色に染まろうとする簡単な女だ。

特別な夜・・・。プレゼント・・・。
特別な関係などないのは明白で、そんな関係の二人にプレゼントは重すぎる。誘ってくれたとしてもプレゼントはなしかな。あの人の好みさえつかめていない。

「何さぼってんの?」

ふいにかけられたその声は、あの人の声に似てて懐かしい響きがした。
何もないのに思わず照れる。その声で囁かないでほしいんだけど。

すがりたくなるじゃない。全部話して、楽になりたいとさえ思ってしまうのに、いい声で話しかけないで。

八つ当たりにも似た感情を押し殺して、観念してオフィスに戻る。先輩の後をついて、置いてかれないように。

空には大きな月が。あ、今日は、満月か。
満ちた月、満たされた月。

何もない新月へ向かう月。
一緒だね、わたしと。



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