舞台はミトコンドリア
今回は、「ブドウ糖を分解すると、エネルギーが発生し、二酸化炭素と水になる」という異化を詳しく話をします。舞台は、サイトゾルとミトコンドリアになりますので、どんなものだったか忘れたのであれば、見直してみてください。
異化は2段階
ここでは、異化という現象ではどのようなことが起こっているのかを、“呼吸”を例に説明します。呼吸で起こっている事は、「有機物を分解して、エネルギーを取り出して、二酸化炭素と水にする」となります。少し説明を加えると、有機物とは炭水化物やタンパク質など、水素と炭素と酸素原子が集まってできた物質です。これを完全に分解すると、水素と酸素が結合して水に、炭素と酸素が結合して二酸化炭素になります。有機物を分解する時に酸素を加えると加速的に反応が進みます。極端な例が、燃焼です。
生物を理解するためには、大まかな流れをおさえることが重要なのですが、代謝を理解するためにおさえておくべき事は「どこで、どれくらいエネルギーが出てくるか?」です。細胞の中では、有機物(今後はブドウ糖で話を進めます)を分解してエネルギーを取り出しているのですが、燃焼のように一気に分解はしません。ゆっくり分解して、ちょっとずつエネルギーを取り出します。
第一幕:サイトゾル(緑色のところ)
エネルギーを取り出すためのブドウ糖はどこにあるのかというと、サイトゾル中にあります。もう少し詳しく言えば、小腸で吸収されて、血液で運ばれてきます。このサイトゾル中でさっそく1回目の分解が行われます。ブドウ糖が2つのピルビン酸になり、エネルギーが発生します。生物の体の中では、取り出したエネルギーはATPに置き換えられるので、ATPも作られます。(ATPについては、前回の記事を参照してください。)
サイトゾルで起こっている事をまとめると、「サイトゾル中でグルコース1分子が分解され、2分子のピルビン酸とATPができる。この一連の反応を解糖系という。」です。ブドウ糖をわざわざグルコースと言ったりしているのは、ちょっと大学受験を意識しました。定期試験とかで、解糖系について述べよと聞かれた時は「」内をコピペしてください。正解になるはずです。また、受験とか関係なくても生成されるATPの分子量を知っておけば、この後の話で酸素の凄さが分ります。
第二幕:マトリクス(黄色のところ)
同じ名前の映画が20世紀最後の年に流行りましたが、マトリクスとはミトコンドリアの内側のことです。ミトコンドリアは2重の膜構造になっており、外側は全体をおおうように、内側はヒダヒダになっています。なぜ2重なのか?内側がヒダヒダなのはなぜ?と言う答えは、また今度。
解糖系(サイトゾル)でできたピルビン酸は、ミトコンドリアのヒダヒダになっている内側の膜の中(要はマトリクス)に入って行きます。ここでピルビン酸はアセチルCoAと言う物質になり、クエン酸回路に取り込まれます。で、「クエン酸回路って何?」となります。クエン酸回路は何のために行われているのかと言えば、「クエン酸からエネルギーを作るために必要な部品(水素とか電子)をとっていく」ためです。この回路の中で、クエン酸に形を変えたアセチルCoAから水素や電子が取られていくので、図のように物質の名前が変わっています。ただ、他の化学反応との違いは、最終的に最初のクエン酸に戻ることでしょうか?
話はまだ続くのですが、酵素や酸化還元といった知識が必要なので、いったんここまでにします。「2分子のピルビン酸は、マトリクスのクエン酸回路に取り込まれ、2分子のATPを生成する。二酸化炭素は発生するが、酸素は使われない。」という事をおさえてください。
第三幕:内膜(青色の線)
クエン酸回路で発生した水素や電子は、ミトコンドリアの内側の膜(内膜)に集められます。内膜にはシトクロムと呼ばれるタンパク質があり、ここにクエン酸回路で発生した電子が通る事で、水素イオンが内膜の外側(2重の膜の間)に移動します。しかし、水素イオンは、濃度の関係でまたマトリクスに戻ろうとするのですが、水素イオンは内膜を通ることができません。そんな水素イオンがマトリクスに戻る通り道として、ATP合成酵素があります。ここを通って水素イオンがマトリクスに戻る時に、ADPとリン酸を結合させてATPを合成します。イメージとしては、水車でしょうか。水素イオンが水でATP合成酵素が水車です。ここで、ブドウ糖1分子あたり34分子という大量のATPが合成されます。ここで1つ残されるのが、シトクロムを通過した電子です。この余った電子は、ミトコンドリア内にたくさんある水素イオンと酸素と結合して、水となります。要は、酸素は電子の受け取り先ということです。
話がだいぶ長くなったので、内膜で起きている事を確認して終わりましょう。「シトクロムを電子が通る事で水素イオンが内膜間を移動し、水素イオンがATP合成酵素を通る事で34分子のATPが生成される電子伝達系がある。酸素が使われるのがここ。」
ミトコンドリアの色々
呼吸は細胞全体で行われますが、酸素との反応はミトコンドリアで行われています。そのため、ミトコンドリアは”呼吸の場”と言われています。さて、そのミトコンドリアは細胞小器官の1つなのですが、他の細胞小器官とは構造や成り立ちが異なります。
まず、細胞小器官の多く(リボソームとリソソーム以外)は、生体膜と呼ばれる”1枚の”膜でできていますが、ミトコンドリアは先述したように2重の膜になっています。また、独自のDNAを持っているのも他の細胞小器官と異なります。先述のように、ミトコンドリアにはシトクロムというエネルギーを作るために必要なタンパク質があります。細胞内外で働くタンパク質は、核の中にあるDNAという設計図をもとに作られます。しかし、ミトコンドリアは独自のDNAを持っているため、ミトコンドリアで使うタンパク質は自分で作ることが可能になっています。細胞(生物?)の設計図は核の中にあるDNAなので、リボソームや小胞体を増やすとなれば、DNAのお許しが必要です。しかし、ミトコンドリアは独自のDNAを持っていることもあり、半自律的な増殖ができます。
ミトコンドリアは私たちの体を作っている真核細胞とは別の原核細胞の生物で、太古の昔私たちの祖先にあたる真核細胞の生物に寄生して、細胞の一部になったのではないか?という説があります。この根拠として、”2重の膜でできている””独自のDNAをもつ””半自律的な増殖ができる”があげられています。特に、ミトコンドリアをつくる2重の膜は内側と外側で性質の異なる”異質二重膜”と言われています。外側の膜は真核生物と同じなのですが、内側は別の生物(原核細胞に近い?)のものなので、真核細胞の中に潜り込む時に外側の膜ができたと考えられています。地球上最初の寄生生物?がミトコンドリアかも知れないというのは、ちょっとワクワクしますよね。これを題材にした映画(小説原作)もあるので、よろしければご覧になってください。