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そういう意味なん?

細胞の次に学習するのは「エネルギーと代謝」です。ところで、「エネルギーと代謝」と聞いて何の話かわかりますか?いつも私は、その分野で何を扱っているか説明してから授業に入るのですが、ここはなかなか難しいです。「エネルギーと代謝」の主役は前回までの細胞小器官のところで出てきた、ミトコンドリアと葉緑体となります。ここの分野は、日常生活で使っている意味と生物学で使われている意味が異なるので、その話からしていきましょう。

意味が違います

さっそく質問ですが、「代謝」「呼吸」の言葉の意味を説明してみて下さい。職場の女性職員曰く「代謝は食べた物を使って、体の働きを良くする事」とのことでした。次に、「呼吸を説明して下さい」との質問には、「空気を吸って、肺で酸素を取り込んで、二酸化炭素を吐き出す事」という答えでした。日常生活で使用する意味としては正解ですが、生物では異なります。
まず、代謝とは体内で物質を変化させる様々な化学反応のことをいいます。食べた物を消費するのも代謝ですが、反対に作る(合成)ことも代謝です。代謝=化学反応です。次に、「空気を吸って、肺で酸素を取り込んで、二酸化炭素を吐き出す事」は、生物では「ガス交換」と言って、呼吸と区別するときがあります。生物での呼吸の意味は「酸素を用いて有機物を分解してエネルギーを取り出すこと」です。

エネルギーって?

昔物理の先生に「エネルギーとは何か説明して」と聞かれたことがあります。自分の知っていることを答えたのですが、「う〜ん。具体例を挙げただけだね。」と言われてしまいました。その後に説明があったのですが、すいません、よく理解できなかったです。「代謝とエネルギー」というタイトルの通り、この分野では体の中でおこる化学反応で発生するエネルギーについて学習します。そこで、いつも代謝の話をする前に、エネルーに対して次のような話をしています。
部屋が明るいのは、照明か太陽の光があるからで、これは光エネルギーです。照明が光っているのは、電気があるからで、これは電気エネルギーです。照明は電気を光に変換している結果と言った感じです。スキーをする時にリフトで上に上がると、位置エネルギーが上昇します。斜面を下る時、位置エネルギーが運動エネルギーに変わるので、シャーっと滑ります。砂糖や脂肪といった体を作る物質の中には大量の化学エネルギーが閉じ込められています。これを分解してエネルギーを取り出すことで、私たちは体を動かす(運動エネルギー)ことや体温の維持(熱エネルギー)ができます。

電気エネルギーが光エネルギーに変換されています。

2つに分かれる

もう一度確認しますが、代謝とは体内で物質を変化させる様々な化学反応のことです。しかも、ヒト以外の生物(植物や細菌)の体内で行われる化学反応も代謝というので、体内で起こっている化学反応の種類は無数にあります。代謝は大きく分けて異化と同化の2つに分かれます。異化は「複雑な物質(有機物)を単純な物質(無機物)に分解してエネルギーを取り出す」ことで、同化は「単純な物質(無機物)にエネルギーを加えて複雑な物質(有機物)を合成する」ことです。代謝でおさえておくべき大まかな流れは、「どこで、どれくらいエネルギーが出てくるか?」になります。
まあ、複雑な物質を単純な物質に分解してエネルギーを取り出すことが異化だと言われてもわかりにくいと思うので、具体例を出して説明します。ここでいう単純な物質の例は”二酸化炭素”と””で、複雑な物質の例が”ブドウ糖(グルコース)”です。つまり、同化を具体的にいうと「二酸化炭素と水に、光エネルギーが加わることで、ブドウ糖ができる」です。ブドウ糖が集まってできるものがデンプンですので、要は光合成ですよね。一方、異化を具体的にいうと「ブドウ糖を分解すると、エネルギーが発生し、二酸化炭素と水になる」です。まさに私たちの体の中で起こっていることです。

同化と異化を簡単に図で示してみました。

エネルギーの通貨

私たちが体を動かしたり、脳を使ってものを考えたりするのにエネルギーを使います。このエネルギー源はブドウ糖をはじめとした有機物です。ここから取り出したエネルギーを、体を動かす(運動)エネルギーや体温を維持する(熱)エネルギーに変換するわけですが、その変換に関わる物質がATP(アデノシン三リン酸)です。ATPは、アデニン(塩基)とリボース(糖)に3つのリン酸が結合した物質です。ちなみに、アデニン(塩基)とリボース(糖)にリン酸が2つ付いたADP(アデノシン二リン酸)も存在しています。ATPとADPの違いは、リン酸の数の違いだけです。このリン酸のつながりは、高エネルギーリン酸結合とよばれ、名前の通りすごい量のエネルギーが閉じ込められています。

ATP(上)とADP(下)の関係はこんな感じです。

流れ的には次のような感じです。まず、ご飯を食べることで体内(細胞内)にブドウ糖をはじめとしたエネルギー源がとりこまれます。このブドウ糖が呼吸(異化)によって二酸化炭素と水に分解され、その時にエネルギーがでてきます。この出てきたエネルギーがADPにとりこまれてリン酸を結合することになります。その後、ATPがエネルギーを必要とされている場所に運ばれ、そこで高エネルギーリン酸結合が外れることで、エネルギーが放出され、用途に応じて変換されます。たとえば、筋肉のタンパク質を動かして運動エネルギーにしたり、熱エネルギーに変換して体温を上げるなどです。
私たちの体の中で使われるエネルギー源は物を食べることで得られます。エネルギー源の形は、炭水化物だったり、タンパク質だったり様々です。それらの中に含まれているエネルギーをATPに置き換えることで、体のどこででも使えるようにしています。だからこそ、ATPはエネルギーの通貨と呼ばれています。ちなみに、ATPはヒトだけではなく、地球上すべての生物が利用しています。そのため、「地球上の生物が同一種から進化したと考えられる根拠」にもなっています。


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