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溶け出したわたあめ①

第十九話

(ヒロ)

全身が冷え切って
頭は白いもやで覆われている。
それでも俺の意識は彼女に全集中しており、
二人でいる状況に対して夢見心地でいた。

辛鍋食べ放題専門店。俺1番のお気に入りの店。
彼女がこの店を選ぶとは驚いたけど、同時に嬉しかった。食の好みは似ているらしい。
豆腐、肉団子、ニラ、揚げ。
彼女が取ってきた具材は全て俺が大好きなものばかりだ。

しばらくして鍋の蓋を開けると、鼻を突くスパイシーな香りが空気へ解き放たれた。彼女はというと、出来上がった鍋を満面の笑みで見つめている。

「じゃあ、食べよっか」

微笑みながら俺に言う彼女。

可愛い。

思わず言葉に出してしまいそうなほどの感情だった。
二人で初めて食事。
初めこそ笑顔で美味しいねと言い合ったけど、その後何も喋ることはなかった。だけど、また”無”の表情になっている彼女を見て、これが一番良いと、俺も食べ終わるまで何も話しかけることはしなかった。

無言の食事。
この世で一番苦手な時間だったけれど。
彼女とのこの時間は
今までで一番輝いていた。

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