溶け出したわたあめ⑤
第二十三話
(ユリ)
曇りがかった空のせいで、星たちが姿を隠す夜。
寝る前にスマホを眺める私は
また君との時間を思い出していた。
写真を一枚も撮らなかったことを後悔する。一枚だけ、自分が見る用に君を盗撮すれば良かった。
…なんてね。
そういえば、まだお礼の連絡もしていない。
メッセージアプリを開けると、チャット履歴の一番上に君の名前。なんの経験もない私はどんな言葉を選んでいいのかわからなかった。
校内で一番自分に近いランにも
私の知っている中で君に一番近いカンナ先輩にも
今までそういった類の話どころか自分の話をすることがほとんどない。本当のところ、自分の正直な心の内を彼女たちに話すのは無理な話。
かといって自分自身の乏しい知識の中から正解を掴もうとしても答えは出てこない。
ぐるぐると頭を回転させ過ぎて疲れた私は、ネットに答えが載っていないか探してみることにした。
当たり障りのないありきたりでピンとこない例文ばかりが出てくる。そんなザッピングしていた中で”運命の人”という単語に手を止めた。アプリの右下にあるボタンを押して2番目に出てくるアカウントが運命の人、らしい。
よくある嘘っぽい噂話。
バカバカしいとは思いながらも、ついやってしまう。出てきたのはいつ入れたかも覚えていない、お知らせアカウント。
いつか、ここに君のアカウントが出てきてほしいな、なんて思いながら結局ネットの無難な文を参考に自分で考えて送った。
どんな返信が来るのか緊張と恥ずかしさですぐスマホを閉じ、ベットへとダイブして枕に顔を伏せる。
それでもやっぱり通知が気になって数十秒に一回スマホの画面を見ていたが、次第にウトウトと襲いくる眠気。
そんな現実か夢か揺れる蜃気楼のような場所でも、
私は君を待っていた。
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