里帰りをさせてあげたい
私の夏休みはもう残りわずかで
だんだん周りは学校モードになってきていて
遠くに旅行に行く人は少なくなって
海外に行ってきた人は帰ってきて
今日はなぜか夏が舞い戻って30℃を超えるけど
夜は涼しくて、寝る時もクーラーはいらなくなった。
なんだか、今年の夏休みは永遠に続くような気がしていたんだけど、気がつけば8月は終わっていて、9月ももうすぐ半ばに入る。
たくさん遊んだな〜
という感じではなくて。
めっちゃ勉強したぞ!
というわけでもなく。
勉強はほんとに全然してない。
謝りたい、だれかに。
ゼミの先生とか。
ありきたりな言葉を使うのがすごく嫌だけど
今年の夏は、かけがえのない時間だったように
思っている。
8月は2週間くらい和歌山にいた。
ちょうど、一年前に休学して和歌山に向かった日と同じくらいに飛行機に乗って、去年とは違って知ってる人がたくさんいて、各地から集まる旅館友達が私を待っていた。
もう3回目になる旅館あづまやの仕事は慣れたもので、いつもと変わらないみなさんのあたたかさと、硫黄混じりの温泉街の空気。
私を安心させる場所。
でも、前回の5月とはまた少し変わっていることもあって。
仲居をやっていたベテランの従業員が足が悪くなってしまって、いよいよ働かなくなってしまっていた。
すごくパワフルで、そこにいると一気に空気が持っていかれるほどに面白いのだけど、いくつだったんだろう。60代??
昔の旅館の雰囲気とか、今と違うこととか、変わらないこととか、伝説では?と思うようなことまで、仕事待ちの炊事場でみんなで座ってる時間に話してくれたり、
仕事中によく忘れ物をして、豪快に笑って戻ってきたり、お土産と言ってパンとか果物とかみんなに分けてくれたり。
基本的に土日しか会えない人だったけど、インパクトのあるエピソードがたくさんある。
1番よく覚えているのは、私が奈良県の谷瀬の吊り橋という、とても長くて落ちそうで怖い観光スポットに軽トラで行った日に、旅館に戻って聞いた話。
昔、その仲居さんが小学生だった頃、その谷瀬の吊り橋が通学路だったそうで、友達と下校中に橋を渡っていたら、反対側から猪が入ってきたそう。
とまた豪快に笑って話していた。
同じ日本に住んでるのか疑ってしまう。
昼にお風呂に行くとよく会えて、急に話が始まったと思ったら、短い時間で私に衝撃か笑いを残して出て行った。
面倒見がよくて、昼ごはんあるか?ってよく聞いてもらってたな。
土日しか会えないから、他の仲居さんより関わりが少ないけど、会うたび元気をもらっていた素敵な人だった。
今回和歌山に行って、シフト表から名前がなくなっていたので不思議に思って当番さんに聞いてみると、本当に忙しくて人手が足りない時だけ来てもらってるんだよね、と言っていた。
今回はどんな話が聞けるだろうと思っていたから、なんだか悲しかった。
旅館で働く人は50〜70代が多い。
みんなすごく元気で若々しいけど、足腰を痛めている人は割と多いと思う。
階段しかない旅館で働くのは結構大変。
大学生の私でも毎日息切らしてた。
いつ、誰が働かなくなるかわからない。
私が見ていたあたたかい景色は少しずつ変わっていくのかもしれない。
いつも、行く度に
久しぶり
いらっしゃい
おかえり
帰る時は
またきてな
ありがとう
会えてよかった
たくさんの人が声をかけてくれる。
私にできることなんか大してないのかもしれないけど、今ある景色を大切にしたい。
私が自由に時間を使って旅館に行けるのはあと2年半。
どうにか、少しでも長く守ることはできないものかと考える。
私はお医者さんじゃないから、体の痛みを治すことはできない。
本業は学生だから、ずっと滞在することもできない。
今年の夏、私の友達を2人引き摺り込んで旅館に送り込んだ。
ちょうど少しずつ時期がずれての来訪になったから、旅館としては人手が増えて少し助けになるかもしれない。
私としては、旅館の素敵なところを友達に実際に見てもらえて嬉しい。
9月前後に私の友達が2人来るという話を、70代のおばあちゃん仲居さんに話したら、
といつもの炊事場に座ってぽつりと言っていた。
そうか、私たちが時期を見てやっている里帰りも、そう簡単にできないのか。
年齢層が高いこと
人手が足りないこと
日本はどこでだってこの問題が蔓延るけど、実際に目の当たりにして、いろんな負担や我慢が、少しずつ周りに乗っかっていくんだなと感じた。
関東と関西
都会と田舎
若者と高齢者
私は旅館にいる人たちとは、かなり遠い環境で過ごしている。
でも、同じ空間で働いて、おやつを食べて、同じ温泉に入った人達を、なんとか守りたいと強く思う。
どうにか、少しでも力になれないか。
遠くにいても、何かできることはないのか。
ふとした瞬間に帰りたくなる、私の第二の故郷。
かけがえない時間を過ごした
200年も続く旅館を
私の残された学生であれる時間で。
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