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超短編小説

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ショートショートを随時まとめています。※作品は全てフィクションです。
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2023年9月の記事一覧

【超短編小説】 感情参考書

【超短編小説】 感情参考書

僕は感情参考書を手に入れた。

この参考書を読めば、相手の気持ちが何でも分かると書いてあった。

それをたまたま古本屋で見つけたのだ。

僕はどうしても彼女の気持ちを知りたかった。

最初に好きになった人だからだ。

この参考書を使えば、絶対に理解できる。

そう思っていた。

でも、彼女は言った。

「その参考書では何も分からないよ」

「どうして?」

「そういうものじゃないもの、心なんて」

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【超短編小説】 掃除のおばさん

【超短編小説】 掃除のおばさん

残業をする。

いつの間にか、僕は一人なっていた。

社員は帰っている。

心配されることもない。

存在しているのかさえ、分からなかった。

「あなた、まだ残って仕事してるの?」

ただ、掃除のおばさんだけが僕に声をかけてくれた。

それが今日僕が初めて人と話した瞬間であったことを誰が気付いただろうか。

「ええ、納期が近いもので」

「もう帰りなさいよ。夜も遅いんだし」

「そうは言われまして

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【超短編小説】 誰かにとっての誰か

【超短編小説】 誰かにとっての誰か

「あなたは誰かにとっての誰かなの」

彼女は僕に向かって、そう言った。

「誰かにとっての誰か?」

「そう、あなたは知らぬ間に誰かにとっての誰かになっているの」

「それはつまり、僕は周りにとってのある存在になっているということ?」

「そう、実感はないでしょうけど。あなたがいることで誰かにとっての支えになっている」

「それは、まるで落とし物を拾って交番に届けることと似ている気がする」

「そ

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【超短編小説】 会社から旅行に行った奴

【超短編小説】 会社から旅行に行った奴

「明日からは3連休となりますが、皆さん、くれぐれも気をつけて下さい」と、

社長が言い終わるや否や、スーツケースを片手に帰リ始めた社員がいた。

そんな奴は、あいつしかいない。

そう、高石だ。

「高石、明日からどこか行くのか?」と社長が聞くと、

「はい、旅行に行って来まーす。お土産も買って来るんで楽しみにしててくださーい。お疲れ様でーす」

そう言うと、高石は颯爽と会社から出て行った。

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【超短編小説】 バゼル 〜それは破壊の言葉〜

【超短編小説】 バゼル 〜それは破壊の言葉〜

街は無くなった。

僕らの街は消えた。

破壊の言葉によって。

何者かによって放たれた一言は、

取り返しがつかなくなるほどの威力を持っていた。

そう、これが「バゼル」である。

バゼルについてはほとんど解明されていない。

どうしてその言葉が生まれ、誰が何の目的でそれを利用するようになったのかについても不明であった。

ただ、バゼルという言葉が破壊の言葉であるということだけが知られていた。

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【超短編小説】 大コタツ時代

【超短編小説】 大コタツ時代

テレビをつけると、環境問題の特集がされていた。

ニュースキャスターは隣に座る背広を着た男に話しかけている。

「教授、それは夏が終わるということでしょうか?」

「ええ、異常な暑さが続きました。その反動から地球は氷河期に向かって行くと考えられます。

つまり、夏という季節がなくなり、冬ばかりになる。我々は”大コタツ時代”に入っていくのです」

「その大コタツ時代とは、何なのでしょうか?」

「簡

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