猫田雲丹

スキマの時間にサクッと読めるショートショートをどうぞ。変なお話ばかりです。

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アヤトビト 第1章

 ふとした時に、鈴の音が聞こえます。  通学途中だったり、仲良くしてくれる先輩とお昼休みにご飯を食べている時だったり、剣道部の稽古を終えて道場でホッと一息ついている時だったり。  かすかに聞こえるその音は、息をするように毎日当たり前に耳にしていた音。けれど、もう聞こえるはずがありません。あれから一年が経とうとしていて、当時は高校一年生だった私も、もう二年生。  きっと幻聴だってことも、見つからないこともわかっています。それでも音がすると、私はつい目で探してしまいます。

    • TOEICの結果が出た話

      こんにちは 先日、TOEICを受けに行ったというよくわからない記事を書いたのですが、 結果が返ってきました。 それがこちら。 思っていたより全然良かった。自分でもびっくり。 学生の頃より100点以上伸びました。 勉強頑張ってよかったなあ、と素直に嬉しい限りです。 とはいえ、この点数に対しても思うところがありまして。 まず、 まったくもって英語がしゃべれる気はしません。 いやほんと、英語圏の国に一人で置いていかれて、周囲と円滑なコミュニケーションを図れ、とか言われ

      • TOEICを受けたらエモかった話

        こんにちは 先日、英語の勉強にハマっているという記事を書いたのですが 相変わらず楽しく勉強を続けていた私はふと思い立ち、TOEICを受けてみることにしました。就活生とか会社員がよく受けているあれ。 ちょっと腕試しをしてみたくなったのです。 試験会場は大妻女子大学。 送られてきた受験票で会場を知った際、脳髄の奥底で封印されていた記憶が蘇ります。その昔、大学一年生のごく僅かな期間に在籍していたインカレの軽音サークルの飲み会で、ここの女子大生に私のギターが下手くそだと罵られ、

        • アヤトビト 第4章

          第4章 夢見る惑星  こうやって白い天井を眺めているだけの時間が、どれぐらい経ったでしょう。お昼休みにご飯も食べず保健室にやって来た私は、もうずっとベッドの上で横になったまま。どうしても身体に力が入らなくて、今日は剣道部の稽古に行く気も起きません。クリスマスにお正月と、心が躍るようなイベントが続くはずの十二月。私の心は濁ってばかりで、残念ながら周囲の煌めきとは無縁です。  私以外には生徒のいない、静かで暖房がとてもよく利いた保健室のベッド。とても快適なはずなのに、横になって

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        アヤトビト 第1章

        マガジン

        • 春ピリカグランプリ
          131本
        • 夏ピリカグランプリ応募作品(全138作品)
          121本
        • 夏ピリカグランプリ
          109本
        • 春ピリカグランプリ入賞作品
          18本
        • 春ピリカグランプリ応募作品
          104本
        • 夏ピリカグランプリ入賞作品
          19本

        記事

          アヤトビト 第3章

          第3章 漂流者たち  肌を撫でる秋風が心地良い、よく晴れ上がった日のことです。 「ダメだ、やっぱ何買えばいいのか分かんねえ」 「プレゼント選びって難しいですよね」  この日は日曜日。学校も部活もありません。町で一番大きな古本屋さんにやって来た私と香山先輩は途方に暮れてしまっていました。 「そもそも、持丸先輩ってどんな本を読むんですか?」 「なに読んでんだろうな、ぜんぜん知らねえ。興味もねえ。無謀だったかなあ」  私たちの町に住む人なら誰でも知っているこの古本屋さんは、

          アヤトビト 第3章

          アヤトビト 第2章

          第2章 海底にて 「焼き鳥を食べに行こう」  剣道場の隅でぐったりと動けなくなっていた私は、持丸先輩の声で我に返ります。 「行きたいのはやまやまですが、今はそんな気分じゃ……」 「このタイミングで食い物の話なんかするな。気持ちわりい。なんでお前はそんなに元気なんだよ」  尊敬する先輩からのお誘いに普段なら心躍るところですが、エアコンが無いせいで息苦しいほどの暑さの道場で、防具を纏って激しい稽古を終えたばかり。三度の食事こそが生きがいと言っても過言ではない私でも、流石に食欲

          アヤトビト 第2章

          NYは大麻の香り

          ニューヨークに行ってきました。このタイミングで行くなんて金をドブに捨てる気か、と思われるかもしれませんが、今後も円安が進むかもしれないし、円高になってもその時行ける状況かはわからないし、ええい、行ける時に行ってしまえ、と半ば強引に航空券をポチりました。結果、ニューヨークはとってもクサかったです。 なにがクサいかっていうと、大麻。合法になっちゃったんですよね。大麻ショップをコンビニ並の頻度で見かけます。ふと出会ったお洒落なカフェに入ると、レジの周りでジョイントや大麻成分入り飲

          NYは大麻の香り

          拾った右手

          「こんなもの拾ってきてどうすんのよ」 「わかんないよ。でもかわいそうじゃん」  妹が右手を拾ってきた。綺麗に切り落とされた、どこかの誰かさんの手首から先。私たちの部屋に置かれた大き目のダンボールの中で、それは五本の指を足みたいに上手に使ってカサカサと歩き回っている。 「なんで動くのよ、これ。このまま飼うつもりじゃないでしょうね」 「わかんないってば。でも持ち主の人に返してあげたいから、それまで部屋に置いてあげてもいい?」  妹が台所から持ってきた魚肉ソーセージを段ボール

          拾った右手

          英語を勉強しよう

          こんにちは。 もはや春というよりも夏っぽい陽気になってきました。年が明けたのがつい先日のことに思えますが、歳を食うごとに季節の移り変わりが速く感じられますね。つらい。 さて 猫田は最近noteそっちのけで英語の勉強にハマっています。 来月、旅行でアメリカに行く予定なのですが、それまでにペラペラとは言わないまでもビラビラぐらいにはなりたいなと、みっともなく悪あがきをしている最中。 といってもそこまで必死なわけではなく、ゆるゆるだらだらと楽しく勉強しております。 滞り

          英語を勉強しよう

          短編小説|花粉症かもしれない

          「また寝込んでたのか。飯は?」  仕事から帰ってきた夫の声で目を覚ました。今日は1日、ずっとベッドから動けないでいたから、ご飯の準備なんかできていない。とにかく怠くて、頭がぼーっとしてしまう。 「いい加減にしてくれよ。こっちだって疲れてんだからさ」  取り敢えず鼻をかんで、ベッドから起き上がる。蛇口をひねったように鼻水が止まらないから、1日300回ぐらいは鼻をかんでいるんじゃないだろうか。ゴミ箱に入りきらなくなった丸められたティッシュが床のあちこちに転がっている。 「

          短編小説|花粉症かもしれない

          短編小説|呪ってやった

           卒業の日に呪ってやった。  式の前に、彼女の下駄箱に手紙を入れた。今日が終われば二度と会うことはないであろう、名前を知っていたかも怪しいクラスメイトからの恋文。返事なんて期待していない。この日、この俺から恋文を貰ったという記憶を、焼き印のように脳に押し付けてやりたいだけ。これはただの呪い。  式もHRも終わると、俺はさっさと教室を出る。別れを惜しむ友人はいない。階段を駆け下り、まだ誰もいない玄関で靴を履き替えようと下駄箱を開ける。すると手紙が入っていた。周囲を見渡してか

          短編小説|呪ってやった

          名刺代わりの小説5選

          こんにちは 猫田雲丹と申します。 noteにおかしな短編小説を投稿し始めて、 気付けば今年で丸3年。 ここで一度、 私らしいと思う5作品をまとめてみました。 蟻の味実際に筆者は幼い頃、蟻を食べていました。 本当に都こんぶみたいな味がします。 光を放つおじいちゃんガールズバーならまだ健全な気もしますね。 許してあげてほしい。心からそう思います。 せっかく帰って来たのに引用部分だけ切り取るとホラーに思えますが、 そんなことはありません。 とはいえ現実でこんなセリフを吐か

          名刺代わりの小説5選

          小説なんて書いても

            主人が急に小説を書き始めてから、もうすぐ二ヶ月が経とうとしている。勝手にパソコンの画面を横から覗き込むも、あまりに内容がつまらなくて思わず鼻で笑ってしまった。  新人賞に応募するのだと意気込み、こうやって仕事から帰ってきても、夜遅くまで熱心に取り組んでいた。怒ると思ったのに、特に反応は無い。パソコンの電源を落とし、いつものようにさっさと寝室に入ってしまった。やっぱり今晩も私は寝室に入れてもらえない。  最近、私の存在が蔑ろにされている気がする。特に小説を書き始めてから

          小説なんて書いても

          今年も私の拙い作品をお読みいただきありがとうございました。あっという間に年の瀬ですね。noteの皆様方との交流が深まり、貴重な経験をさせていただく中で学びの多い一年となりました。来年もマイペースに書いていこうと思いますので、もしよかったら読みにきてください。それではよいお年を!

          今年も私の拙い作品をお読みいただきありがとうございました。あっという間に年の瀬ですね。noteの皆様方との交流が深まり、貴重な経験をさせていただく中で学びの多い一年となりました。来年もマイペースに書いていこうと思いますので、もしよかったら読みにきてください。それではよいお年を!

          短編小説|初めてのサンタクロース

           サンタクロースが来た。どうせ今年もやって来やしないと思っていたのに、クリスマスの朝、目を覚ませば万年床の枕元に包装された大きな箱が置かれていた。40を過ぎた独り身の中年男性である俺の元に、ついにサンタがやって来たのだ。  この歳になるまでサンタが来なかったのはクリスマスのお祝い事とは無縁に育ったからだろうか。男手1つで育ててくれた父親は毎年この時期になると仕事が忙しく、俺は放って置かれていた。サンタからのプレゼントにはしゃぐ周囲を横目に、毎年願い続けてきた。この歳になって

          短編小説|初めてのサンタクロース

          短編小説|あなたは変わらない

          「ありがとうね」  おばあさんはそう言って、目の前でつり革につかまる私に何度も何度も頭を下げてくれる。電車で席を譲っただけなのに、あたり前のことをしただけなのに、大げさでちょっと恥ずかしい。 「あなたを見ていると娘を思い出すわ。よく似ているの」  こう言われた時って、なんて返すのが正解なのだろう。「ありがとうございます」は違う気がするし、「光栄です」は堅苦しいかな。言葉が出ないので、ここはそっと微笑んでおく。 「とてもかわいくて良い子だったのだけれど、あなたぐらいの年

          短編小説|あなたは変わらない