【読書】 欧州政府は緊縮財政主義を改めよ/「欧州経済ルールを書き換える」から
失業&経済鈍化が長期化する欧州経済。その背景には、当時支配的だった新自由主義/市場主義的理念に基づいたユーロゾーンの各種緊縮財政ルールがある。政府が積極的に介入できるようルールを書き換えるべしとのスティグリッツ教授の金言が詰まった一冊。
要約
左派進歩主義的/ケインズ主義的経済学者の筆頭、スティグリッツによる欧州経済分析。
市場原理主義的緊縮財政&小さな政府は、非現実的な経済学的前提にたった机上の空論
政府が積極的に財政支出、市場規制等をかけて、雇用創出&富の再分配&経済成長を目指すべき。
1.本の紹介
誰もがご存じ進歩主義的/ケインズ主義経済学者の巨頭ジョゼフ・スティグリッツ(Joseph E. Stiglitz, 1943-)。
いつもは世界経済やアメリカ経済を論じることが多いが、欧州経済についても書いてくれている。本のタイトルは「Rewriting the Rules of the European Economy: An Agenda for Growth and Shared Prosperity」(2020年刊行)、邦訳はなさげ。
2.本の概要
①ユーロゾーンの成長鈍化と原因
ロナルド・レーガンやマーガレット・サッチャーが新自由主義的施策を掲げ大胆な規制改革(例: 減税、社会保障費削減、金融等の規制緩和、破産法やコーポレート・ガバナンス等の法改正)を展開してからおよそ40年が経過。
その結果、経済成長鈍感&格差拡大を引き起こした。World Economic Outlookのデータ(2015年までのデータ)によれば、ユーロゾーンの成長鈍化は明白で、ユーロ導入後の成長率増加はゼロに近い。
ユーロゾーン成長鈍化の主な要因は、ユーロ導入によるマクロ経済フレームワークによるものに加え、グローバリゼーション/Tradeによるlabor intensiveな業種の雇用喪失&賃金低下、技術革新の恩恵と悪影響(skilled labour vs unskilled labour)、経済構造の変化(都市化加速、経済の金融化、モノづくりからサービス経済化による、一部企業の独占/寡占化&rent seeking)、勝者と敗者の固定化等が挙げられる。
②市場原理主義の誤謬とユーロゾーンが抱える問題
現実世界ではそもそも、経済学の各種セオリーに物事は動かない。経済学モデルの各種前提条件と少しでも違いや逸脱があると、セオリー通りの結果とは全く違う結果が発生する。
例えば、経済学では市場に存在する合理的な人間達が完全なる情報を持ち、それをもって物事を合理的に判断すると想定されている。
現実世界では、各人間が持つ情報は不完全で偏りがある、すると経済活動は非効率的となり市場の失敗が発生する事が分かっている。他にも、構造改革のコスト等についても、ほぼ無視である。
このような市場原理主義的経済学的観点からプログラミングされたユーロゾーンのマクロ経済フレームワークは、以下のような致命的な想定。
Austerity doctrine/緊縮財政主義: 各国の財政赤字はGDPの3%以内に収める事。でないと市場の信頼を失い投資減少のリスクあり
Debt doctrine/債務: 国家債務はGDPの60%迄。でないと成長鈍化リスク。(緊縮財政主義と併せ、the stability and growth pact)
Price stability doctrine/物価安定: インフレは2%以内。
The market knows the best doctrine/市場放任主義: 市場メカニズムによる競争原理が社会を良くする。
The bank knows the best doctrine/銀行への信頼: 金融界が適切に金融市場を管理運営する/政府は不介入
Shareholder capitalism: 株式保有者の利益を最優先
Privatisation doctrine/私有化主義
The market will provide doctrine: 市場原理が社会保障や医療、教育を適切に提供する、したがって政府は不介入
Free trade doctrine/自由貿易: 関税撤廃による自由貿易が、経済間の最適化、成長へ
著者は、これら全てのDoctrinesについて、間違いであることのevidenceを提示(例:緊縮財政下で経済成長した国はない、インフレ2%は根拠なし、市場原理主義は格差等に繋がる、金融市場を放任すると短期利益拡大に走り不安定化など)。
③対策
とにもかくにも大きな政府主義の積極的介入(需要刺激/demand side)により完全雇用/full employmentを目指すべき。
拡大金融政策: 2%はあくまで解釈で法規としてかかれていないのでflexibilityあり。インフレ率自体も食料・エネルギー物価変動率を差し引いたcore inflation指標を使用。金融市場の規制、監視&透明性強化。インフレ目標達成に対するECBの役割強化&市場へのシグナル、そのためのECBガバナンス改革等。
税制改革&強化: 累進課税強化、環境税、タバコ/アルコール等のsin tax、金融取引税
社会福祉政策: 教育、医療、住宅、年金などへの公共投資強化
労働政策: 最低賃金引き上げ、UBI、雇用保険、フレキシブル雇用など
3.感想
スティグリッツらしい、大きな政府/ケインズ主義的経済理念に基づいた欧州経済分析。著名な経済学者は主に世界経済やアメリカ経済を分析することが多いが、この本は、ガッツリ欧州経済を深掘り。
回りの欧州人に聞くと、ユーロ導入によって物価が無茶苦茶上がったと口を揃えて言う。私はユーロ導入前の欧州を知らないのでユーロって便利としか思ってなかった。
でも、この本を読むと、ユーロというかユーロを作り出し維持するために組み込まれたルールに色々問題があることに気づかされる。私のようなド素人はなおさら。
私が住む国も積極的財政支出とか一切聞いたことがないが、単に金がないのか、連立政権で合意できないのかなぐらいに思っていたが、こういう背景要因もあったということらしい。加盟各国の財政や金融政策、 ECBの発言とか、この本を読めば深いレベルで理解できる気がする
しかしいつも思うが、フリードマン先生と言うことが正反対(笑)。一人は政府は口出すなと言い、もう一人は政府はもっと仕事しろという。どっちが正しいのやら。結局、時と場合に依るしバランスが大事ということか。
フリードマンの理論はこちらを参照。
最後に一言
ちょっと玄人向けの本。でも面白い。欧州に住んでる人、欧州に興味がある人は是非。
本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いに思います。
併せて、他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。
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