【読書】市場原理主義の功罪/「What Money Can't Buy」から
この世に金で買えないものはあるのか?市場メカニズムへの信頼から規制緩和へと走り、2008年のリーマンショックなどを経て、いったん鳴りを潜めたかと思われたが結局復活して今日にまで至る市場原理主義的フィロソフィー。結果、医療サービス、教育、住宅サービス等社会生活のあるゆる面がどんどん商品化されている。そんな市場原理主義的規範の拡大は、良い側面もあるが、悪影響を及ぼす場合もあり、どこかで線引きをすべきと警鐘を鳴らすサンデル先生による名著。
記事要約
巨大化した市場の力や役割を再考すべき。
市場原理主義的な物事の判断と平等主義的な物事の判断基準に優劣なし。
しかし、市場原理主義的な考え方はどんどんと社会のあらゆる面に浸食、本来あった社会的規範やモラル、道徳/Civic virtueといったものを駆逐 Crowd outしており弊害をもたらしつつあると警鐘を鳴らしている。
1.本の紹介
本のタイトルは「What Money Can't Buy - the moral limits of markets」(2012年刊行)で、邦訳は、「それをお金で買いますか?」。
著者はアメリカ人の政治哲学者で、オックスフォード大学にて博士号を取得後、ハーバード大学の教授となったMichael Joseph Sandel /マイケル・サンデル (1953-) 。
2000年代に行われたサンデル教授の講義「Justice」は、大学で初めてオンラインとテレビで無料で視聴できる講義となり今でもAvailable。
2.本の概要
2008年のリーマンショック後に執筆された本書。当時は1980年代のUSレーガン&UKサッチャー政権下で火が付いたネオリベラル/新市場原理主義&規制緩和的動きが90年代および2000年代を経て加速化、一時的な経済危機は合ったものの、人々の社会生活のあらゆる側面の市場主義的アプローチが影響を及ぼし始め、すべてが市場価値で判断されるという構図が出来上がった。しかし、経済危機は一例だが、この市場主義の拡大に歯止め/Moral limitsを設けるべきでは?と提言しているのが本著。
そもそもなぜこんなことを気にするかといえば、日々拡大する経済格差。富の再分配がうまくいかず、結局持つ者と持たざる者とに二分化。そして問題は格差のみならず、全てのモノを商品化/Commodification of everything も大きな問題。医療サービス、住宅サービス、教育サービスなど健全な社会生活を送る上で必要不可欠なサービスすら商品化され、そこへのアクセスは金次第という世界に。著者はこのように巨大化した市場の力や役割を再考すべきと主張。
市場原理を擁護するのは個人の自由を重視するネオリベラル的な発想/Liberatarianで、物事は市場原理に任せるべきで、個人の選択の自由は縛られるべきではないという考え方。もう一つは、功利主義的/考え方/Utilitarianismで、個人レベルないし社会社会での効用最大化を重要視、これに資する限りにおいて市場原理を擁護する。(例にたとえると飛行機の座席等。金を払えばいい席に座れる制度が支配的で、個人の自由や効用最大かを尊重した形だが、そもそもそれが正しいのか?平等を尊重するならくじ引きで決めるべき)
サンデル先生としては、物事のすべてを市場/カネから判断するのはよろしくないとのこと。その理由として、市場原理的考え方で物事を判断するとその物事自体の本来の価値を低下/Degradeさせるという。その一例が国会公聴の権利で、それに課金し始めるとそれは公聴をビジネス化する事であり、本来の民主主義の制度としての役割が損なわれてしまうという。
ちなみにサンデル先生としては市場原理主義的な物事の判断(Paying)と平等主義的な物事の判断基準(Queing)に優劣はないとのこと。ただ、市場原理主義的な考え方はどんどんと社会のあらゆる面に浸食、本来あった社会的規範やモラル、道徳/Civic virtueといったものを駆逐 Crowd outしており弊害をもたらしつつあると警鐘を鳴らしている。
この観点から、代理出産や売春、精子/卵子の売買、大学の裏口入学(大金を払った形での特定大学への入学)、ハンティング・ツーリズム(金を出して大型動物を狩る)等の問題を深堀。
3.感想
精子/卵子売買、代理出産、安楽死等すべからくカネで解決できるこの世の中。そしてそれは一定レベルの所得を得る層にしかアクセシブルでない。そのことに何らかの違和感を感じつつも、そういった時代なんだなあ、と自分に言い聞かせているところがあった。飛行機の搭乗口に並ぶご老人や手足の不自由な方々、子連れファミリーの横を当たり前のように横切り登場していく金持ちたち。それを見ながら一種の不快感を感じていたが、これはただの嫉妬なのだと思っていた。
そんなときに出会ったのが本書。Marketisation/Commodificationが本来高尚であるはずのモノ・サービスの価値を低下/Degradeさせる、という著者の主張は斬新かつなるほどなと思った。おそらく私が感じていた違和感もこれなのだろう。いいか悪いかは別にして、金さえ払えば、本当にそれを必要としている人を押しのけてモノ・サービスを手に入れられる、という世界観にやはり違和感を感じる。
そして何よりも、尊厳死/安楽死等も含め、感情論に走ってしまいがちないわゆる機微な各種問題を、サンデル先生らしくクールにかつ明瞭明快に切り込んでくれているのが気持ちいい本でもある。
なお、先生の他の著書のレビューは以下。どれもこれも名著。
最後に一言
なお本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いに思います。
あわせて他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。
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