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【読書】日本人より日本人を理解する米国人研究者

第二次世界大戦中、敵国ジャパンを分析せよと米国政府から依頼を受けた文化人類学者ルース・ベネディクト、既存資料や在米日系人の聞き取り調査から、日本という国や文化、日本人の考え方やその心情までに至るまで、その歴史的文化的背景とともに詳細に描き出し、一冊の本に纏めた。

要約

  • これまで米国人が戦った中で最も理解しがたい異質/alienな敵としての日本。

  • 秩序やヒエラルキーに関する日本人独特の考え方や、恩や義理といったコンセプトを深掘りし、一見不可思議な日本人の言動や振る舞いの歴史的文化的背景を整理。

  • 日本分析の粒度が凄まじい。緻密で的を得ていて、日本人に対しても有無を言わせない内容




1.本の紹介

本のタイトルは「The Chrysanthemum and the Sword: Patterns of Japanese Culture」(1946年刊行)で、邦訳あり(「菊と刀」)。

著者は米国の文化人類学者ルース・ベネディクト/Ruth Benedict(1987~1947)。コロンビア大学院で博士号取得、1936年に同大学助教授になり、米国政府戦争情報局が彼女に接触、1942年には、対日戦争&占領政策担当の日本班チーフに。このときにまとめられた報告書「Japanese Behavior Patterns (『日本人の行動パターン』)」が、「菊と刀」の元ネタ。戦後、1948年にコロンビア大学正教授に就任するが、その二か月後ニューヨークで急死、享年61歳。

ルース・ベネディクト
ルース・ベネディクトさん

前有名な本で前から知っていたが、手に取らずにいたところ、さんささんの記事(勝手にリンクを張ってます)を読ませてもらい、気になって購入。非常に興味深い内容。さんささんの感想文もとても参考になる。

2.本の概要

日本人は、これまで米国人が戦った中で最も理解しがたい異質/alienな敵である、の一言から始まる本書。日本人を、好戦的種族かと思えば平和を愛し、軍隊的な側面もあれば美を尊び、礼儀正しいと思えば傲慢なところもある、まさに「菊と刀」のような一見すると矛盾を抱えた民族と捉える著者。

まず始めに着目したのが、日本が戦争を開始するための正当な理由として掲げた、秩序やヒエラルキーに関する日本人独特の考え方。世界に存在するすべての国が、日本を頂点とする唯一の国際秩序・ヒエラルキーのしかるべき場所に組み込まれるべきというもの。パールハーバー時に日本が米国高官state of secretary Coedell Hullに送った電文がその一例。

It is the immutable policy of the Japanese Government …. to enable each nation to find its proper place in the world…

本書、P.44

然るべき人や国が、然るべき秩序の中で然るべき場所におさまるべきという考え方の源泉を、日本の貴族的封建社会に見いだす著者。例えば徳川幕府時代に士農工商に基づくカースト制度が形成され、その中で侍としての礼節、農民としての振る舞い等の特殊な文化が花開く。侍や商人&金貸し中産階級が中心となった明治維新では、フランスのように進歩主義的革命ではなく、天皇を頂点とした然るべき秩序ある社会を形成するという保守的な流れとなり、国際競争の激化&日本の軍国主義へと繋がっていく。

さらに著者の目を引いたのが、義務/obligationに似通った言葉が多数あること。それはであったり、義理であったりする、それらも、時代や時と場所、対象によって意味が異なってくる。そして軍国主義下の日本では、天皇へのご恩に報いるということで、降伏もせず平気で命を投げ出し戦場で散っていく日本兵。忠、義、仁義といった関連する概念も含め、歴史的文化的言語学的背景を深掘りしていく(詳細は割愛)。

3.コメント

一言でいうと怖い。怖いぐらい当時の日本をわかっている。

文化人類学は専門外だが、そんな素人な私でもわかるほど、日本分析の粒度が凄まじい。緻密で的を得ていて、日本人に対しても有無を言わせない内容(無論ケチをつける人はいるのだろうが)。牛若丸と弁慶の話にまで言及し、その時の弁慶の牛若丸に対する心情(義理?恩?)まで掘り下げる著者のストイックさは驚嘆に値するし、これが文化人類学者という人種なのだろう。知り合いにヒマラヤの原住民に関する文化人類学者がいるが、彼の没頭度も異次元だった。

当時は情報も少なかった時代、後進国に対する見下した感情や偏見も根強くあった時代に、ここまでドライに客観的に日本を分析する著者、文化人類学者としてのプライドや意地を感じた。

ここまで丸裸にされていた日本。逆に米国人を分かっていた日本人は日本政府に何人いたのだろうか?今でもそうだが、日本はいつの時代もガラパゴス。自分の物差しで世界情勢を見て、国際場裏での立ち回りも不器用で不可思議な言動や行動を取る傾向にあるのは当時からだったのだろう。日本人独特の国際秩序とヒエラルキーは、あくまでも日本という閉じられた世界で醸成された考え方で、日本国外では理解されるはずもなく。

まさにガラパゴスを見るかのような視点で日本文化を因数分解していく著者。読んでいて、違和感を感じないのが逆に驚異的。例えばラストサムライとか、アメリカ人や他の外国人が日本文化を扱うと、どうしても違和感を感じることが多い(あれ、ここはちょっと違うのでは?とか)。ただルース・ベネディクトはそういうのを超越している気がした(まあ、何回か読み直せば粗も出てくるのかもしれないが)。

そして、義理や恩、その他諸々、今では希薄になってしまった日本文化を垣間見得たのは興味深かった。

最後に一言

専門書にしては読みやすい。一読の価値あり。

本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いです。


併せて、他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。


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