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【読書】大衆運動の神髄に迫る/「The True Believer」から

フランス革命、レーニンのボルシェビキズム、ナチス・ドイツ、ファシズム、日本の軍国主義など、政治家や軍人のみならず、一般市民までを巻き込む大衆運動が人間の歴史を大きく形作ってきた。その大衆運動をディープに分析、因数分解したエリック・ホッファーの書。

要約

  • 著者のエリック・ホッファーさんは、いわゆるブルーカラー労働者だが、余暇に社会哲学的研究を行い、数多くの著作を残した異例の研究者。

  • 成功する大衆運動の特徴として、拡大する支持層の一致団結/Unityや自己犠牲/Self-sacrifice(自己の意思の抑圧)。

  • アーレントは「全体主義の起源」で全体主義台頭の条件として、階級の消滅、大衆の組織化、インテリ層の支持取り付け等を上げているが、これはまさにエリック・ホッファーも大衆のUnificationと殉教者化という文脈で指摘




1.本の紹介

本のタイトルは「The True Believer - thoughts on the nature of mass movements」1951年刊行)で、邦訳は、「大衆運動」。

著者は在野のアメリカ研究者で独学の社会哲学者エリック・ホッファー/Eric Hoffer (1902-1983)。ドイツ系移民で子供の自分に相次いで両親をなくし、レストランなどの仕事を転々、港湾労働者の仕事に、携わる中二足のわらじで本書を執筆。

エリック・ホッファー
エリック・ホッファーさん

エリックさんのインタビュー動画が奇跡的にyou tube掲載されていた。映像見れば分かると思うが、普通の人じゃない、知的好奇心の塊で、根っからの研究者ということがうかがえる。

2.本の概要

大衆運動を分析。ナショナリズム的なモノ、宗教的なモノ、民族的なモノといろんな種類の大衆運動があるが、その根幹にあるのは関わる人々が心に抱く熱狂的な迄の変化への欲望/the desire for change

そしてリスクの高い大衆運動に初めに身を投じ始めるのは、現状に絶望した人ではなく、現状に不満を抱きながらも未来を信じており、現状を打破しうる力を持った者たち。

大衆運動発足当初は、社会に溶け込めない者/misfits(例:失業者、元軍人、移など), outcasts社会的マイノリティー若年層らを巻き込み始める。次第に、没落した中間所得層を含めた貧困層の抱える社会に対する不満を救い上げ、支持層を拡大していく。

そしてそういった先駆者によって始まった数多くの大衆運動の中で、ヒトラーやムッソリーニ、ロベスピエールやレーニンらのように既存権力の崩壊や新体制の設立といった形で成功を収める大衆運動に共通する要因は何か?

のちに成功する大衆運動の特徴として、拡大する支持層の一致団結/Unityや自己犠牲/Self-sacrifice(自己の意思の抑圧)がある。キリスト教が一例だが、有象無象の群集を秩序ある組織体制へ組み込み、個人的な意思や意見に対する意識を薄れさせ、組織の一部としての意識を植え付ける。

この組織的一致団結を強化するツールは以下:

  • 盲信/Blind Faith:考えることを放棄させ、信じることを優先させる

  • 教義/Doctorine:支持層を殉教者のように作り替えることも目的としたツール

  • プロパガンダ:過去の栄光を取り戻せなどのメッセージで、現状に不満を抱く人々の共感を得る。その際、外国人など仮想敵を利用する。

  • リーダーシップ:リーダーに大事なのは優れた知能やオリジナリティー、貴族的な性質などではなく、豪胆さ/Audacity、反骨精神、熱狂的な憎しみ/Passionate hatred、等であり、人々を引き付け忠誠心を煽る能力

The quality of ideas seems to play a minor role in mass movement leadership. What counts is the arrogant gesture, the complete disregard of the opinion of others, the singlehanded definance of the world.

p. 116

重要なのは、大衆運動の指導者らはこれらツールを使って、個々人を組織的体制の歯車として作り替え(自己忘却/Self-forgetting)死や殺人を伴う日々の暴力的な大衆運動も、大儀の前の小事に過ぎないという幻想を人々の脳裏に植え付けていく。

All mass movements deprecate the present by depicting it as a mean preliminary to a glorious future; (…) To a religious movement the present is a place of exile, a vale of tears leading to the heavenly kingdom; to a social revolution it is a man way station on the road to Utopia; to a nationalist movement it is an ignoble episode preceding the final triumph.

本文, p. 70

つまり、大衆の統合/Unificationがカギ。そして、自分のキャリアや欲望や展望を持った一般人/中間層らが、そういった一切合切を切り捨てて運動に身を投じるようになると一つのマイルストーンを超えたということになる。

Unification is more a process of diminution than of addition. In order to be assimilated into a collective medium a person has to be stripped of his individual distinctness. He has to be depried of free choice and independent judgement.

p. 127

もう一つの要因は時代背景。ヒトラーやムッソリーニ、ロベスピエールらの台頭は、当時の社会的混乱と既存政権の崩壊があったからこそで、それがなければいかに卓越したリーダーであっても、国や世界を揺るがすほどの大衆運動とはなり得ない。

3.コメント

この本は大衆運動の群集心理に切り込んだ一冊で、群集とはなんぞやということが書かれている。最近流行りの、既存研究を、かき集めてまとめたような本とは異なり、どっちかというとアンナ・アーレントのような哲学的アプローチ。そしてアーレントと同様、その分析も鋭いのはもちろんの事、読み手を説得させる不思議な力を感じる。

アンナ・アーレントのいう悪の平凡さや全体主義の仕組みにも通じる学びがある本だった。アーレントは「全体主義の起源」で全体主義台頭の条件として、階級の消滅、大衆の組織化、インテリ層の支持取り付け等を上げているが、これはまさにエリック・ホッファーが大衆のUnificationと殉教者化という文脈で指摘したこと。

そしてそんな粋な本を書いたエリック・ホッファーさん。著名な大学を出たわけでもなければ、研究者でもない。一港湾労働者として働く傍ら独学で知識を身に付け、フランス革命やドイツナチス、イタリア・ファシズム、ソ連のボルシェビキ等の大衆運動を分析、運動の成功失敗を分ける要因を指摘し掘り下げるという荒業を成し遂げた。正直なところ、ビックリした、というのが何よりも私の感想

そしてYoutubeに掲載された彼のインタビュー動画を見て納得。作業着みたいな服に身を包んだエリックさんは、端から見ると普通の労働者。でも、一旦話し出すとすぐに彼の奥深い知性というか、炎のように燃える知的好奇心を感じる。そしてそれらを綺麗な言葉にして分かりやすく説明しようとして四苦八苦する姿も事も共感を覚える。まさに根っからの研究者。

こんな尊敬できる先人がいたことを知れただけでも儲けもの。最近逝去されたマイケル・サグルー先生に加え、私の今後の人生の道標になってくれそうだ。

※マイケル・サグルー博士の詳細はこちらから

最後に一言

本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いに思います。


併せて、他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。


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