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1話 ふたりはプリキュア!? 伝説の戦士、誕生!

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本編第1話です🌟ボイスドラマはこちらから→ https://nana-music.com/playlists/2829761
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第1話プロローグ『はじまりの日』part1

第1話プロローグ『はじまりの日』part1

 高くそびえ立つ時計塔の鐘が、昼の刻を知らせている。ゴォン、と鳴り響く鐘の音を聞きながら、少女は急ぎ足で城に向かっていた。
 少女の年は9つ。淡い桃色のセミロングヘアーを、左右に分けてツインテールに結んでおり、走る度にその髪がふわりふわりと揺れる。

 彼女の名前はポム。このエクラ王国で、下級貴族でありながら、代々王族に仕える事を許されている優秀な家元の娘だ。その優秀さに置いては彼女も例外ではなく

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第1話プロローグpart2

第1話プロローグpart2

 レザンとポムを見送るための式典は、国王の意向で、城の中でも最も大きな『聖の間』で行われる事になった。きらびやかな広間に沢山の人々がひしめき合う中、ポムとレザンは、貴族たちからの別れの挨拶を受けていた。

「レザン様にポム様。あなた方に我らの未来を託します。行ってらっしゃいませ」
若い貴族男性が恭しく頭を下げると、
「地球と言う惑星は、こちらの環境とはかなり異なる場所だと聞いております。心配だわ」

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第1話プロローグpart3

第1話プロローグpart3

 暗い廊下にコツコツとヒールの音が響く。冷たいリノリウムに残響の跡をつけて行くその女性は、豊かな金髪を不機嫌そうに弄りながら、仕切りに周囲の様子を伺っていた。

 彼女の名前はモーヴェ。美しい顔だちと妖艶な雰囲気を持ち合わせている美女である。この研究所と称している会社で秘書として働く傍ら、モデルの仕事もこなしていると分かれば、恐らく十人中全ての人が「やはり」と頷くだろう。しかし、今の彼女は、そんな

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第1話プロローグpart4

第1話プロローグpart4

「まぁそんなわけで、ひとつ、ソンブルくんにお仕事を依頼します」

 突如として耳元で聞こえてきた声に、ソンブルは目を見開いて飛び上がった。
「うわっ、ビックリしたっ!」
 思考する余裕もなく叫ぶように言葉を発し、振り替えって数秒。そこに立っていた長身の人物が、上司のデザストルであると分かった途端、ソンブルの顔から冷や汗が吹き出した。
「あ、す、すみません。気がつかなかったもので、その、一体いつから

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第1話『ふたりはプリキュア!? 伝説の戦士、誕生!』part1

第1話『ふたりはプリキュア!? 伝説の戦士、誕生!』part1

「うわぁ、満開の桜だぁ! きれ~い!」

 春。桜舞い散る、という表現がよく似合う美しい並木道を歩きながら、桜宮まつりは、花びらを目一杯抱え込むように両手を広げた。
 彼女はこの春中学2年に進級するが、桜にうっとりと見とれる様子は、実の年齢よりも些か幼く見える。
 その事をよく分かっている幼馴染みの汐風ゆららは、低い位置で2つに結んだ髪を振り回しながら駆け出すまつりを、軽く顔をしかめて叱責した。

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第1話part2

第1話part2

 依然としてはらはらと散る、少女の頬のような淡い色。しかし、並木道を来た方向へと戻っていくまつりの顔には、先程のような輝く眼差しは見えない。その代わりに、彼女の頭の中では、ついさっきのゆららの言葉が反芻していた。

「もー! 折角の楽しいお花見なのに! 遅刻したのは、ちゃんと悪かったって謝ったじゃん。ゆらちゃんがせっかちすぎるんだよ」
 ぶつぶつ文句を言いながらも、まつりの視線は並木道沿いに並ぶ屋

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第1話part3

第1話part3

 ふわふわとした髪に顔を埋めると、抱き締めた小さな背中は驚いて飛び上がった。振り返った少女の大きな目が、まつりをとらえた途端に嬉しそうに細まる。
「あれっ、まつり先輩もいらしてたんですか?」
 この少女──後輩の煌希あすなは、決して美人という訳ではないが、小動物を想像させるような可愛らしい笑顔を持っている、明るい子だ。彼女の表情につられて、まつりの頬も思わず緩む。
「やっぱりあすなちゃんだ! ふふ

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第1話part4

第1話part4

(『生き残り』……? そんな言い方をする?)

 理解が追い付かない脳で、それでも状況を飲み込もうとゆららは必死に頭を巡らせた。今、正しい判断ができるのは、まつりではなく自分だと分かっていたから、彼女は一歩、まつりよりも化け物に近づいた。

 思い切り怪しいけれど、今言葉を交わせるのは、あの少年しかいない。見たところ、化け物を操っているのは少年のようだ。だとしたら、うまく話し合うことができれば、一

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第1話part5

第1話part5

てっきり誉めてもらえると思ったのに。

 レザンの静かな態度に、ポムは首をかしげる。言われた仕事は全てこなした。着地を失敗して女の子にはぶつかってしまったけれど、エスポワールパクトは守ったし、怒られるような事は何もしなかった。一体どこに落ち度があったと言うの……?
 きょとんとしながらも、彼が指を指した先を素直に目で追ったポムは、その先の光景に目を見開いた。

 散々気を付けるように言われていた、

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第1話part6

第1話part6

 淡い光。それは、2人の少女の胸元と、エスポワールパクトから溢れているものだった。白く輝く光を発するエスポワールパクトを目にし、ポムは驚いて瞬きをした。

「……え、エスポワールパクトの光が反応してるポム! あれは、正義の心に宿る、レーヴジェムの輝き……」
「嘘だろ!? まさか、本当に『プリキュア』が……」

 ソンブルの灰色の瞳が、光に照らされて銀に染まり、不安定に揺れている。動ける範囲でなるべ

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第1話part7

第1話part7

 姿を変えた少女たちが光の中から出てくるのを、ポムはレザンの腕の中で放心したように見つめていた。
 彼女の頭には、王国の祭壇で見た、5人の戦士の彫刻の記憶が色濃く焼き付いていた。その中の2人が、今目の前に居る。ポムは思わず叫んだ。

「あの子達が、プリキュア!!」

 声を張り上げたポムを見て、レザンも確信する。いつもの様子に似合わぬ興奮した声音でグッと拳を握った。
「ようやく見つけた! 君達が選

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第1話part8

第1話part8

「……うそ、消えちゃった」

 先程までソンブルのいた方向に手を伸ばしながら呟く。すると、ふわっと周りの空気が代わり、2人の変身は一瞬で溶けた。
「いつのまにか、姿も元に戻ってる。ねぇ、レザン、って言ったかしら。あなた達一体……」
 身を呈して自分達を守ってくれた彼に、ちゃんとお礼を言わないと、とゆららが振り替える。しかし、そこには既に少年たちの姿は無く、代わりに、今までの倒れていた人たちが何事も

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第1話part9

第1話part9

 キーンコーンカーンコーン──と、学校の代名詞とも呼べるようなありふれた音色のチャイムが響く。
 新しいクラスになったばかりの為、高揚感を宙に浮き上がらせながらも、静かに自分を見つめている2年A組の生徒たちを前に、担任の由美子先生は、眼鏡の奥の瞳を嬉しそうに細めた。

「おはようございます。今年度、このクラスの担任をすることになりました、木下由美子です。これから居心地の良いクラスにしていきましょう

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第1話part10

第1話part10

心底疲れた。

 薄暗い廊下に、一定の感覚を開けて煌々と灯る明かりの道標。ある部屋に繋がっているその一本道を、ソンブルは浮かない顔で歩いていく。
 言い逃れはできない。きっと、行動の全てを咎められるだろう。あのムカつくババァにも何か言われるだろうし……

「あぁ」

 見上げると、もう目の前には、厚い扉が君臨していた。逃げられない、と口裏でもう一度呟く。
扉を、開けた。

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