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第1話part10

心底疲れた。

 薄暗い廊下に、一定の感覚を開けて煌々と灯る明かりの道標。ある部屋に繋がっているその一本道を、ソンブルは浮かない顔で歩いていく。
 言い逃れはできない。きっと、行動の全てを咎められるだろう。あのムカつくババァにも何か言われるだろうし……

「あぁ」

 見上げると、もう目の前には、厚い扉が君臨していた。逃げられない、と口裏でもう一度呟く。
扉を、開けた。

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「も、申し訳ありません! まさか、人間がプリキュアになるとは思いもよらず……!」
 事の顛末を全て話した後、沈黙に耐えかねてソンブルは深く頭を下げた。知らなかったでは済まされない事と知りつつ、保身を願う物の言い方しかできない自分が見苦しい。
 しかし、デザストルは意外にも、本心と思える面白そうな表情を怒りで崩すことはしなかった。言葉にわくわくとした響きを乗せつつ、優しく頷く。

「ほぅ、伝説の戦士の正体は人間だったのですね。実に興味深い。新たな情報を得たので、それに免じて今回は何も咎めません」
「え、あの……」
「その代わり、次回は必ず、捕らえてください」

 柔らかいが有無を言わせぬ響きに、ソンブルは姿勢を正す。「はいっ」と大きく返事をすると、彼の後方に控えていた妹のリーラが、我慢の限界だと言うように駆けてきて、ソンブルに抱きついた。
「良かったわね、お兄ちゃん!」
 ぎゅーっと言う音がしそうなほど存分に兄を抱き締めた後、彼女もまた、スカートを正してデザストルの前にひざまづく。

「あの、デザストル様。私もお兄ちゃんと一緒に外に出たいです。……駄目ですか?」
「リーラは体が弱いので、体調を崩したら大変でしょう?暫くはここにいなさい」

 デザストルは、リーラの懇願するような眼差しを前に、困ったように笑いながらも、ハッキリとその申し出を拒否する。体の弱い彼女を心配して、という口調ではあったが、真の目的の為にも、デザストルはリーラを外に出すわけにはいかないのだ。

「はぁい……わかりました」
デザストル様の命令だから渋々、といった具合にリーラが頬を膨らませる。そのあからさまな態度に、見かねたソンブルが声をあげた。

「い、妹へのお心遣い、どうもありがとうございます」
「いいえ。……そうですね、では、シャグラン、ラージュ」

 きっと、ソンブルにはまだ怖がられている。そう確信して薄ら笑いを浮かべつつ、デザストルは後ろに控えていた2人の人物を振り替える。
「あなた達にプリキュアについての情報収集を任せます。何か変化があれば、逐一報告するように」

 その言葉に、控えていた片割れ、シルクハットが印象的な背の高い青年がスッと前に歩み出る。機械の瞳が、瞬時に主の姿をとらえた。
「承った。主の顔に泥を塗らぬよう、我、精一杯任務に取り組む所存である」

 ゆっくりとお辞儀をする彼。その隣から、クルクルとした髪の娘が張り合うかのように大きな声を発する。
「はぁ、ダルいけどやるしかない的な? 友達作るのなら、こいつよりmeの方が上手いから、まあ任せろし~!」
 仕方ないなぁと言う雰囲気の中に、ある種のやる気を感じたデザストルは、苦笑ぎみに口許に手をあてると、くるりと前を向いて呟いた。

「はい、期待していますよ、二人とも」